今年の夏、オーストラリアにあるエコビレッジ「クリスタルウォーターズ」を訪れ、パーマカルチャーを学ぶコースに参加しました。
今回の滞在は、単に農業の知識や技術を身につけるためのものではありませんでした。自然とともに生きるとはどういうことなのか。そして、自分はこれから何を仕事にし、どのような場所をつくりたいのか。これまで抱いていた思いを、あらためて見つめ直す時間になりました。
「農」から、「暮らしの中にある農」へ
現在、私は大学院で「緑地福祉学」を学んでいます。
研究しているのは、人と自然の健康的なつながりについてです。自然との関わりが、人の心身の健康やウェルビーイングにどのような影響を与えるのか。学びを深める中で、私は次第に「農」に関心を持つようになりました。
農に関わるボランティアやインターンに参加したり、さまざまな施設を見学したりするうちに、興味は農業そのものから、「暮らしの中に農があること」へと広がっていきました。
育てること。収穫すること。料理をつくり、誰かと一緒に食べること。
農は食べ物を生産するだけではなく、人と自然、人と人をつなぎ、日々の暮らしそのものを豊かにする営みなのではないか。そう考えて調べる中で出会ったのが、「パーマカルチャー」でした。
パーマカルチャーが大切にするもの
パーマカルチャーとは、「永続性」を意味するPermanentと、Agriculture(農業)またはCulture(文化)を組み合わせた言葉です。その根底には、Earth Care(地球への配慮)、People Care(人への配慮)、Fair Share(公平な分かち合い)という考え方があります。今回参加したコースでは、精神的・文化的な豊かさを大切にするSpirit Careについても学びました。
「農」と聞くと、自然環境や栽培方法に意識が向きやすいかもしれません。しかし、私が最初に惹かれたのはPeople Careでした。
自然との関係を整えることが、人の健康や幸福にどうつながるのか。大学院で考えてきたテーマとも重なる部分が多かったからです。
一方、コースでの生活を通して、限りあるものを分かち合うFair Shareや、目に見える豊かさだけにとどまらないSpirit Careにも、強く関心を持つようになりました。
朝から晩まで、暮らしながら学ぶ
コースでは、クリスタルウォーターズで暮らす方々の庭を訪ね、それぞれの土地や生活に合わせた工夫を見せてもらいました。
相性のよい植物を一緒に植える方法、災害が起きたときにパーマカルチャーが果たせる役割、野生動物が安全に移動できる橋のデザインなど、学んだ内容は多岐にわたります。
「お金もエネルギーの一つである」という考え方について話し合ったことも印象に残っています。
新鮮な野菜を中心とした食事をみんなで囲むことも、学びの一部でした。講義で知識を得るだけではなく、食べることや話すこと、誰かと時間を共有することを通して、パーマカルチャーの考え方を体験していきました。
コースの後半には、実際の土地を題材に、自分たちでパーマカルチャーのデザインを考え、プレゼンテーションを行いました。土地の特徴だけでなく、そこで暮らす人や地域との関係まで捉えながら、一つの場所を構想する経験です。
毎日、朝から晩まで新しい学びがありました。それ以上に、さまざまな背景を持ちながら、自分の理想とする暮らしや社会に向かって行動している人たちから、大きな情熱をもらいました。
ウェルビーイングの、さらに根元へ
これまで、私の中にあったキーワードは「自然」と「暮らし」でした。
自然を活用して、人のウェルネスやウェルビーイングを高めたい。その思いは、今も変わっていません。
ただ、クリスタルウォーターズで学んだのは、そのさらに根元にある「How to live with real nature――自然とともに、どう生きるか」という問いだったように思います。
自然を眺めたり、癒やしを得たりするだけではなく、自然の循環を理解し、その力を借りながら日々の暮らしをつくること。それは、かつて私たちの祖先が当たり前に営んでいた暮らしでもあります。
その感覚を現代の暮らしに取り戻すことが、人のウェルビーイングをより深いところから支えてくれるのではないか。今回の経験を通して、そう考えるようになりました。
私が将来つくりたい場所
私には、将来つくりたい場所があります。
山や海に囲まれた地域に、大きな木造の建物や古民家のような拠点を持つ。そこに家族のように温かい仲間が集まり、一緒に農を学び、育て、収穫し、料理をつくり、同じ食卓を囲む。
農だけでなく、日本の文化や伝統、料理、そして地域に生きる人々の知恵についても学べる場所にしたいと思っています。
年齢や職業、国籍にかかわらず、さまざまな人が集い、新しいつながりが生まれる。訪れた人にとって、家でも職場でもない、もう一つの居場所になる。そんな風景を思い描いています。
今、私たちの社会では、人とのつながりが少しずつ薄くなっています。同時に、地域に受け継がれてきた文化や技術も、継承する人を失いつつあります。
だからこそ、人と人とのつながりをもう一度濃くし、日本の文化を次の世代へ手渡せるような仕組みを、日々の暮らしの中につくりたい。
それが、現時点での私の目標です。
まだ、ぼやけている
どこにつくるのか、誰とつくるのか、どのような形で持続させるのか。これから具体的にしていきたいことは、まだたくさんあります。
それでも、パーマカルチャーを学んだことで、これまで別々に見えていた「自然」「農」「健康」「暮らし」「文化」「人とのつながり」が、一つの線で結ばれ始めました。
新しい知識を得たというよりも、自分が本当にやりたかったことの輪郭が見えてきた。そんな感覚があります。
これからも研究と実践の両方を続けながら、自然と人が健やかにつながり、誰かにとっての居場所になる環境をつくる方法を探していきます。