「先生の授業は寝ないですけど、他の授業、みんな寝てますよ。」
今日、生徒からこんな事を言われた。
笑いながら言われたその一言が、妙に引っかかった。
もちろん、すべての大学生が授業中に寝ているわけではない。真面目に学んでいる学生もいる。前向きに授業に参加している学生もいる。
でも、日本の大学の授業風景として「寝ている学生が珍しくない」という現実は、多くの人がなんとなく知っているはずだ。
では、なぜ日本の大学生は授業中に寝られるのか。
これは、学生のやる気だけの問題ではないと思う。
そこには、「受験がゴール」になりやすい日本の教育構造と、「大学からが本番」の海外教育の差がある。そして同時に、授業そのものが学生を受け身にしてしまっている問題もある。
海外の大学で「居眠り」は、ほぼ一発アウト。
海外の大学では、授業中に寝るという行為はかなりリスクが高い。
なぜなら、成績評価の中に「授業への貢献度」、つまりParticipationが大きく含まれていることが多いからだ。
授業に出るだけでは足りない。
発言する。質問する。議論に参加する。自分の意見を持って授業に臨む。
これが当たり前の世界だ。
発言しないだけでも評価が下がることがある。ましてや授業中に寝るなんて、「私はこの授業に参加する気がありません。」と宣言しているようなものだ。
教授からすれば、単なる居眠りではない。授業への侮辱のようにも見える。場合によっては退室を求められることもある。
一方で、日本の大学ではどうか。
先生が前で話している。学生は座って聞いている。中には寝ている学生もいる。それでも授業はそのまま進んでいく。
この差は大きい。
海外では、授業は「聞く場所」ではなく「参加する場所」だ。
日本では、授業が「座って時間を過ごす場所」になってしまっているケースがある。
ここに、学びへの姿勢の差が出ている。
正直、僕も寝ていた授業がある。
ただ、僕は学生を一方的に責めたいわけではない。
正直に言うと、僕自身も学生時代、授業中に眠くなったことはある。
先生が黒板とだけ話しているような授業。
一方的に説明が続くだけの授業。
自分の人生とどうつながるのかが見えない授業。
そういう授業では、気づいたら意識が飛んでいたこともある。
だから、寝ている学生を見て「最近の若者はやる気がない。」で終わらせるのは簡単だけど、それだけでは本質を見誤る気がする。
学生が寝る授業には、寝る理由がある。
そして、寝ない授業には、寝ない仕組みがある。
僕は今、ビジネスコーチングの授業で学生の前に立っている。
授業時間は100分。正直、100分間ずっと集中し続けるのは、大人でも簡単ではない。だから僕は、一方的に話し続ける授業にはしないようにしている。
理論を説明したら、必ず個人ワークを入れる。
自分の考えを書き出す時間をつくる。
そのあと実践ワークを入れる。
さらにグループワークで、学生同士が話し、自分の言葉で学びを整理する時間をつくる。
知識は、聞くだけではなかなか定着しない。
でも、自分で考えて、話して、試して、感覚としてつかんだものは残る。
だから僕は、インプットよりもアウトプットを大事にしている。
もっと言えば、僕の授業では「寝る仕組み」を採用していない。
日本の大学生は、小学生より勉強していない?
データで見ても、日本の大学生の学習時間はかなり厳しい現実がある。
授業外で週11時間以上、自習する大学生の割合は、日本では約15%。一方で、アメリカでは約60%と言われている。
日本の大学生のボリュームゾーンは、週1〜5時間程度。1日換算すると、1時間にも満たない。これは、日本の小学生の家庭学習時間より短いとも言われるレベルだ。
もちろん、日本の大学生も忙しい。
バイトがある。サークルがある。就活がある。人間関係もある。遊びたい時期でもある。
でも問題は、大学という場所が「本気で学ぶ場所」ではなく、「とりあえず卒業する場所」になってしまっていることだ。
海外の大学生は、毎週のように大量のリーディング課題をこなし、レポートを書き、プレゼンを準備し、ディスカッションに備える。大学に入ってからが、本当の勝負になる。
一方、日本では、大学受験が一つのゴールになりやすい。
中高で必死に勉強する。塾に行く。模試を受ける。偏差値に追われる。そして大学に合格した瞬間、燃え尽きる。
いわゆる「大学は人生の夏休み」という感覚だ。
もちろん、大学時代にしかできない経験もある。友人との時間、アルバイト、旅、挑戦。そういう経験も人生にとって大事だ。
でも、学びを放棄していい理由にはならない。
日本は、大学に入るまでが勝負。
海外は、大学に入ってからが勝負。
この差が、4年間でとんでもない実力差を生む。
読書量。思考力。発言力。論理構成力。プレゼン力。タフネス。自分の意見を持つ力。
高校までは日本人の学力は世界的に見ても高い。真面目で、基礎学力もあり、努力もできる。
でも大学4年間で、その貯金を一気に使い果たしてしまう可能性がある。
学生が一番いい表情をするのは、ワーク中だ。
僕の授業で一番好きな瞬間がある。
それは、ワークの時間だ。
普段は静かな子が、自分の考えを言葉にし始める。
最初は恥ずかしそうにしていた子が、グループの中でポツリと本音を話す。
誰かがシェアしたり、発表したりすると、自然と拍手が起こる。
僕は、その空気をかなり意識してつくっている。
たとえ答えが完璧じゃなくてもいい。
少しズレていてもいい。
うまく言葉にできなくてもいい。
大事なのは、挑戦したことだ。
だから学生が発言したときは、「ナイストライ。」「ナイスチャレンジ。」と伝える。そして周りの学生にも拍手を促す。
それは、ただ場を盛り上げるためではない。
人は、自分の考えを出したときに否定されると、次から口を閉ざしてしまう。
でも、挑戦したことを認められると、もう一歩前に出られる。
授業の中で正解を教えることも大事だ。
でもそれ以上に、「自分の意見を出していいんだ。」と思える空気をつくることが大事だと思っている。
ビジネスコーチングの授業で扱うのは、ただの知識ではない。
人の話を聴く力。
相手に問いを投げる力。
自分の考えを整理する力。
人前で言葉にする力。
誰かのチャレンジを応援する力。
これらは、学生たちが普段の生活の中ですぐに使えるスキルだ。友人関係でも、アルバイトでも、就活でも、将来の仕事でも必ず役に立つ。
だから、学生たちは興味を持ってくれる。
「これは自分の人生に関係ある。」と思った瞬間、学び方が変わる。
実際、ワーク中の学生たちは一番いい表情をしている。
眠そうにしていた子も、誰かと話し始めた瞬間に表情が変わる。自分の言葉で話し、相手の言葉に反応し、少しずつ場に参加していく。
その姿を見るたびに思う。
学生が学ぶ気がないんじゃない。
学びたくなる仕組みが、まだ足りていないだけなのかもしれない。
授業中の居眠りは、未来への投資を止めているサイン
授業中に寝る学生を見て、「最近の学生はやる気がない。」で終わらせるのは簡単だ。
でも、僕はそうは思わない。
もちろん、学ぶ側の姿勢は大事だ。大学の授業は、単位を取るためだけの時間ではない。自分の可能性を広げるための時間だ。人生の選択肢を増やすための時間だ。
ただ同時に、教える側にも責任がある。
学生が参加したくなる授業になっているか。
自分の人生に関係があると思える内容になっているか。
挑戦しても大丈夫だと思える空気をつくれているか。
そこを問い続ける必要がある。
中高で頑張った日本人が、大学で失速する。
海外勢は、大学から本気を出して一気に伸びる。
この構造に気づかないまま4年間を過ごすのは、あまりにももったいない。
授業中の居眠り率は、そのまま未来への投資量の差になる。
だからこそ、僕は寝ない授業を目指したい。
いや、正確に言えば、寝る暇がないくらい、自分の人生に引きつけて考えたくなる授業をつくりたい。
学ぶって面白い。
挑戦してもいい。
自分の意見を出してもいい。
誰かの挑戦を応援できる人になれる。
そんな空気を、教室の中につくっていきたい。
そして僕自身も、生徒の前に立つ人間として、まだまだ挑戦者であり続けたい。