在庫差異の原因は、現場の数え間違いだけではない
実地棚卸の結果、帳簿上の数量と現物数量が一致しなかった場合、まず疑われやすいのは、現場での数え間違いや入力漏れです。
もちろん、カウントミスや記録漏れによって差異が発生することもあります。
しかし、実際には、在庫差異の背景に販売、購買、物流、請求、会計処理など、複数の業務プロセスの問題が隠れていることがあります。
例えば、次のようなケースです。
- 商品はすでに入荷しているが、仕入が計上されていない
- 売上は計上されているが、在庫の出庫処理が行われていない
- 商品は出荷済みだが、売上計上の条件を満たしていない
- 返品や取消しが在庫システムに反映されていない
- 拠点間移動中の在庫が、両方の拠点で計上されている
- 在庫システムへの登録が遅れ、帳簿上マイナス在庫になっている
- 月末後の処理が誤って当月分に含まれている
- 手作業による調整が翌月まで残っている
このような差異は、棚卸当日に現物を数え直すだけでは解消できません。
差異を一時的な修正仕訳で合わせても、原因となった業務プロセスを改善しなければ、翌月や翌期に同じ問題が再発します。
重要なのは、差異が見つかった後に、
販売、購買、入出庫、請求、会計計上のどの段階で不整合が生じたのか
まで遡って確認することです。
例えば、帳簿数量より現物数量が少ない場合でも、原因は一つではありません。
出庫処理漏れ、廃棄処理漏れ、紛失、誤出荷、返品処理の誤り、拠点間移動の二重計上など、さまざまな可能性があります。
反対に、現物数量が帳簿数量より多い場合には、仕入計上漏れ、入庫登録漏れ、返品在庫の未登録、他社所有品の混入なども考えられます。
そのため、在庫差異の分析では、単に「差異が何個あったか」を集計するだけでは不十分です。
- 差異の原因
- 発生した業務プロセス
- 金額的な影響
- 修正方法
- 再発防止策
- 対応責任者
- 改善期限
まで整理する必要があります。
また、在庫差異は経理部門だけの問題ではありません。
現物を管理する部門、商品を販売する部門、発注する部門、システムを管理する部門、会計処理を行う部門が、それぞれ異なる情報を持っています。
一つの部門だけで原因を特定しようとしても、全体像が見えないことがあります。
そこで管理部門には、各部門の情報をつなぎ、取引の流れ全体から原因を整理する役割が求められます。
特にIPO準備会社では、棚卸差異が毎期発生しているにもかかわらず、原因が「不明」「現場差異」とだけ記録されている状態は望ましくありません。
監査法人からは、
- なぜ差異が発生したのか
- 修正処理は適切か
- 同様の差異が他にも存在しないか
- 再発防止策は実施されているか
- 改善後の運用を誰が確認しているか
といった点を確認される可能性があります。
棚卸差異は、単なる数字のズレではありません。
会社の販売・購買・在庫・会計プロセスのどこかにある歪みを示すサインでもあります。
差異を見つけたときこそ、業務プロセスを見直し、内部統制を改善する機会として活用することが重要です。