未来予測が導いた複業フリーランスという選択~50代からのキャリアチェンジ~
自分が所属する会社を「外側」から見たことがありますか?
私は通信会社で30年働いてきました。
電電公社の民営化、インターネットの普及、スマートフォンの登場、クラウドサービスの拡大——。「激動の通信」と呼ばれる変化の震源地にいました。
しかし、いま振り返ると、これほど大きな技術革新を目の当たりにしながら、それを自分のキャリアに活かすことができませんでした。理由は単純。
会社という「内側」の論理に、思考が縛られていたからです。
会社の「内側」しか見えなかった30年
売上目標、シェア拡大、販売台数。常に会社の論理で物事を考え、会社を外から俯瞰する視点を持てずにいたのです。
30代のころ、お客様から言われた一言が忘れられません。
「TCP/IPが世の中を変えるよ」
当時はピンとこなかったこの言葉。しかし、今やLINE通話やZoom会議が当たり前になり、インターネットの出現によって、会社の収益構造は根本から変わりました。
もしあのとき、会社の外側から変化を捉える視点を持っていたなら――。私のキャリアの選択肢は、まったく違う形で広がっていたかもしれません。
54歳で見えた「終わりの始まり」
転機は54歳。降格を経験したときでした。
個人的な挫折も大きかったですが、業界データを見てさらに衝撃を受けました。
「携帯電話の解約理由第1位は死亡」
この事実は、日本の人口減少が、通信という巨大なインフラ産業の成長に終焉をもたらすサインでした。これは、私個人のキャリアだけでなく、長年勤めてきた業界そのものの“終わりの始まり”を告げているように思えたのです。
個人に求められる「DX(デジタルトランスフォーメーション)」
事実、通信会社は今、本業の通信事業だけでは成長を描けなくなり、金融、エンタメ、ライフスタイル領域へと急速に多角化しています。これは、「会社の中核事業ですら、もはや永続的ではない」ことの証明です。
会社が生き残るために変革を迫られているのであれば、個人もまた変わらなければならない。私はこのとき、自分自身こそ「DXすべき時代に入ったのだ」と、強く認識しました。
世界が示す「個の時代」の到来
自分の未来を真剣に考え始めた2020年、私は国内外のニュース、書籍、レポートを読み漁り、気づきをノートに書き留める日々を送りました。そのなかで強烈に印象に残ったのが、米国で急速に広がっていた「HeliumNetwork」でした。
Heliumとは、個人が通信インフラを構築・運用できる分散型ネットワーク。
大手キャリアが独占してきた通信を、誰もがホットスポットを設置することで担える。報酬は暗号資産で支払われ、いわば「人間WiFi」の時代が始まっていたのです。
この仕組みを知ったとき、私は驚愕しました。なぜなら、これは通信会社の存在意義を問い直すだけでなく、インフラという巨大な社会基盤ですら、企業や国家といった組織から、個人の手に委ねられる時代の到来を告げていたからです。
Heliumは、単なる技術トレンドではなく、「個人が価値を生み、社会に貢献できる未来」を示す象徴でした。
未来を読むためのヒント
Heliumに出会った2020年は、他にも未来を示す言葉やデータに多く触れた一年でした。
たとえば、リンダ・グラットンは著書『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』で、こう語っています。
「未来を想像して、未来が訪れる前に行動せよ」
国際政治学者イアン・ブレマーはこう指摘しました。
「世界はリーダーなき時代に突入する」
さらに海外メディアから、
- 2035年にはデジタルノマドワーカーは10億人になる
- ポルトガルは、デジタルノマドを誘致する新労働法を制定
- フランスは、企業と「つながらない権利」を労働法で改正
- 企業が人を採用する時代は終わり、人が企業を選ぶ時代になる
といった予測や法改正を知りました。
私はこれらをノートに書き留めながら、ひとつの確信を強めていきました。
世界は、間違いなく「個の力」を前提に動き始めている、と。
未来予測:複業フリーランスという選択
55歳で会社を離れるとき、私には次のような未来予測がありました。
・世界の大きな動きは、時間差こそあれ、必ず日本にも波及する
・テクノロジーの進化とグローバル競争の激化により、日本企業は正社員を抱え続けられなくなる
・その結果、私たちミドルシニア世代は組織のなかで「余剰人員」と見なされるリスクが高まる
だからこそ、会社という組織に依存し続けるのではなく、個人として価値を生み出す力、「個の強化」が、これからの時代を生き抜くための必須条件になる。
「フリーランスや複業は、一部の人々の選択肢ではなく、誰もが当たりまえに検討する働き方になるだろう」
この確信が、私を会社員から“複業フリーランス”という選択へ導いたのです。
5年経過した現在、まだ複業は一般的とはいえませんが、企業の経営層が「副業解禁の是非」を議論している時間的余裕は長く続かないでしょう。まだ日本は制度が追いついていない現状ですが、世界はすでに動き始めています。だからこそ、少しでも早く“こちら側”に来て欲しい。そんな願いを込めて、発信を続けています。
危機感が与えてくれた安心感
もちろん、50代でのキャリアチェンジは簡単ではありません。
ですが、会社員を続けながら複業にチャレンジすることは、「個を磨くこと」につながります。
私を突き動かしたのは、「このままではまずい」という危機感でした。この危機感が、未来を予測し、自分を信じて行動する原動力になったのです。
不思議なことに、会社を辞めて複業を始めてから、将来への不安は小さくなりました。
それは、未来の変化を予測したからではなく、
「変化が来ても、自分で動ける」
その自信を持てたからです。
50代からでも遅くない
会社に雇われる働き方から、一歩踏み出しませんか?
その一歩を踏み出すのに、遅すぎるということはありません。むしろ、人口減少と超高齢化が進む日本において、私たち50代、60代が持つ経験と知識は社会にとって貴重な資産となります。
最後に、私が行動をためらったときに、いつも背中を押してくれた言葉を紹介します。
「迷わず行けよ、行けば分かるさ」(清沢哲夫)
未来は予測するものではなく、自ら創り出すものです。
50代からでも決して遅くありません。今のうちから個を磨いて、来るべき未来に備えませんか?
その一歩が、10年後のあなたを支える確かな土台となるはずです。