キャリア支援を始めた頃、私は求職者を自走させることが良い支援だと思っていた。
だからこそ支援者が答えを言いすぎるのではなく、問いを投げかけながら本人に考えてもらい、自分で答えを出せるようになることが大切だと。
自分で考えて、自分で答えを出して、自分で行動できるようになれば、支援者がいなくなったあとも転職活動を進めていけるので、それこそが「自走できる状態」なのだと、特に疑うこともなく考えていた。
今振り返ると、知らない土地にいる人に、「どちらに進めばいいと思いますか」と問いながら、自分で道を見つけてもらおうとしていたようなものだったのかもしれない。
もちろん、どちらに進むかを最後に決めるのは本人だけれども、その土地をよく知っている人が隣にいるのに地図まで本人に描かせる必要があるのか、今の私はそこに少し違和感がある。
だから、仕事選びに迷っている人には、これまで仕事をしていてどんな場面で充実感があったのか、そのとき何が満たされていたのかを一緒に掘り下げ、強みが見つからない人には、周囲から頼られてきたことや、自分では当たり前だと思っているけれど他の人には難しかったことまで遡りながら、それが次の仕事でどう活かせるのかを問いかけ、できるだけ本人の中から答えを引き出そうとしていた。
自分で考えることは大切で、自分のキャリアなのだから最終的に自分で決めることも当然だけれども、支援を続けているうちに少しずつ引っかかるようになったのが、本人がまだ持っていない視点まで、本当に本人に考えてもらう必要があるのだろうか、ということだった。
たとえば、本人は「特別なことは何もしていない」と話しているけれど、こちらからすると、その人が当たり前のようにやってきたことの中に明らかな強みが見えていることがあり、それでも答えを言わずに「他にはありませんか」「そのとき何を考えていましたか」と問い続ける。それによって本人がいつか同じところにたどり着くことを待つよりも、「私には、あなたがやってきたことはこう見える」と伝えてしまった方が、本人にとって初めて自分を見るための視点が増えることがある。
職務経歴書でも同じで、何を書けばいいのか分からない人に「まずは自分で書いてみてほしい」と渡して何度も添削を繰り返すより、私が構成をつくり、言葉を置き、「あなたの経験はこう整理すると伝わる」と一度見せてしまった方が、次に別の経験を書くときには「ああ、こういうふうに整理すればいいのか」と、自分で書けるようになることがある。
以前の私なら、ここまでこちらがやってしまうと本人のためにならず、支援者がいなければできない状態をつくってしまうのではないかと考えていたが、最近はむしろ逆なのではないかと思うようになった。
考え方を知らない人に考えさせ続けるより、まず考え方を渡してしまい、言葉にできない人には一度こちらが言葉にして見せ、それを実際の転職活動の中で使ってもらいながら、「こう考えればいいのか」「こう伝えればいいのか」という経験を積んでもらった方が、気がついたときには支援者がいなくても同じことができるようになっていることがあるからだ。
私はこれまで、自走するためには自分で考えなければならず、自分で考えてもらうためには支援者が答えを言いすぎてはいけないと考えていたが、振り返ってみると、私が大切にしていたのは「自走すること」ではなく、いつの間にか「一人で考えること」になっていたのかもしれない。
でも、転職活動で本当に必要なのは、誰の力も借りずに最初から最後まで一人でできることではなく、分からないことがあれば人に聞き、知らないことがあれば教えてもらい、使える考え方や言葉があれば受け取りながら、それらを少しずつ自分のものにして、最終的に自分の意思で次の行動を選べるようになることなのだと思う。
そもそも仕事をしていても、何もかも一人で考え、一人で答えを出し、一人で完結できる人を「自走できる人」と呼んでいるわけではなく、必要なときには誰かを頼り、情報を取りにいき、使えるものを使いながら、それでも自分で前に進んでいける人を、私たちは自走できる人と呼んでいるはずだ。
そう考えるようになってから、私は以前よりも支援の中で答えを言うようになり、こちらから言葉を渡すようになり、ときには「私ならこうする」とかなり具体的に伝えるようにもなったが、それは求職者に私の答えを覚えてもらいたいからではなく、今はまだ持っていない考え方を一度使ってもらい、それを繰り返すうちに、いつか私に聞かなくても同じように考えられるようになってもらいたいからだ。
自転車に乗れるようになるまで後ろを持って走ることと、ずっと後ろを持ち続けることは、同じではない。
手を離した瞬間に転んでしまうなら、もう少し持って走ればいいし、乗り方が分からないなら教えればいいし、最初から「自分でバランスを考えて乗ってみて」と突き放すことが、自走を促すことでもないと思っている。
だから今の私は、求職者を自走させることを、一人でできるようにすることではなく、誰かの力も借りながら前に進む経験を重ねた結果として、気がついたら一人でも前に進めることが増えている状態をつくることだと考えている。
そう考えると、答えを言うことも、言葉をつくることも、進む方向を具体的に示すことも、自走を妨げるものではなく、自走するために必要な支援になることがあるのではないか。
最近は、そんなふうに考えている。