2026年3月、セールスフォース・ジャパン主催の記者発表会イベントに当社が登壇しました。 テーマは、セールスフォースが提供するAIエージェント「Agentforce」の活用事例。 当社の取り組みは大きな成果を上げ、多くのメディアにも取り上げられています。
・月間約100件の問い合わせ数の削減 ・約90.3%の問い合わせ解決率の実現 ・月間約60件の来場者の確保を実現
▶ 掲載メディア: ZDNET Japan / CaseHUB.News / EnterpriseZine など
「生成AI導入企業の95%は失敗する」(※)と言われる中、TAPPはなぜ成果を上げることができたのか。 今回は、プロジェクトリーダーの笠原さんにその背景を深掘りしていきます。
※MIT NANDA「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」(2025年7月):https://www.artificialintelligence-news.com/wp-content/uploads/2025/08/ai_report_2025.pdf
▼プロフィール 笠原祥太|データマネジメントチーム チーフ 2019年にTAPP入社。セールスフォースを活用した全体設計・設定を軸に、社内のデータ基盤構築を推進。2025年にはSFUGカップ決勝に進出。その他、多くの新規プロジェクトに携わる。
プロジェクトの全体像 ——このAgentforceプロジェクトの背景について教えていただけますか。
当社は、資産運用セミナー「キャピタルハック」というサービスを提供しています。主に投資初心者を対象に、不動産・株式・NISA・節税など幅広いテーマを扱っています。昨年には申込数が15万人を突破するなど日々成長を続けており、見込み顧客の獲得数は年間で41%増加しました。
一方で、それに比例してお客様からのセミナーの日程変更やキャンセルといった問い合わせも増大していました。その対応を担うセミナー運営チームは、問い合わせ対応に追われ、リソース不足が深刻化していったんです。このままではお客様のCX(顧客体験)が損なわれてしまう——そんな危機感がありました。
そんな中、2024年の年末にSalesforce社からAgentforceの提案をいただきました。選んだ一番の決め手は、セミナーの申込情報がすでにSalesforce上にあったことです。他のサービスだとAPI連携やセキュリティ面での考慮が必要になりますが、AgentforceならSalesforce上で動くのでシームレスに連携できます。当社は2017年からSalesforceを導入していて、リード情報から決済・売上まで、マーケティングと営業のデータを完全統合しています。全社員が日常的に使用しており、もともとデータ基盤を丁寧に構築していたので、今回のプロジェクト用に改めて整備する必要がなかったのも大きかったですね。
2025年2月にプロジェクトを開始し、開発は外部パートナーに委託しました。4月頃から本格的に動き始め、5月中旬にリリース。スピードを重視し、まず必要最小限の機能でリリースする方針でした。その後も3ヶ月ほどかけて対応範囲を広げ、日程変更やキャンセルなどのお問い合わせを一部完全に自動化。機能によっては人が介在せずAgentforceだけで完結できるようにしました。
プロジェクトメンバーは、私、セミナー運営チーム、エンジニア、そして外部パートナーの方々です。私がプロジェクトリードを担当したのは、Salesforceのアドミン(管理者)として社内のデータや構造を熟知していたことと、セミナー運営チームの業務も把握していたことが大きいです。技術面と現場の業務フロー、その両方を理解している人間がリードした方がスムーズに進むだろうという判断でした。
プロジェクトで大変だったこと ——プロジェクトを進める中で、一番大変だったことは何ですか?
まず感じたのは、運営チームがこんなにたくさんの種類の問い合わせに対応してくれていたのか、という驚きです。感謝しつつも、問い合わせ対応の度に自身の業務が止まってしまう状況を目の当たりにして、いち早くリリースしなければと内心焦りましたね。
一方で、今回実装するのはセミナーに参加していただくまでの既存導線の一部です。お客様にとってスムーズな導線設計にするのは当然のこと、運営チーム以外も関わるため、「この実装、聞いていないんだけど」とならないように、チームを跨いでたくさん相談・確認をしました。
技術面では、想定以上に時間がかかりました。残席管理をWordPressで行っていて、そことAPIで連携する必要がありました。外部パートナーにSalesforceの構造を熟知してもらわないと効率の良い設定ができないので、構造・構成・項目それぞれの意図を共有しつつ、運営チームの業務フローも理解してもらう必要がありました。業務フローとSalesforceのデータ構造、その両方の整理には苦労しましたね。
だからこそ、想定通りに動き、初めてお客様の対応が完了した時は本当にホッとしました。
——このプロジェクトがSFUGカップの決勝出場にもつながったそうですね。
はい、Salesforce主催のSFUGカップ2025決勝大会に出場できたのは貴重な体験でした。20分間のプレゼンということでかなりのボリュームの準備が必要でしたが、導入に至る組織課題やプロジェクトの苦労話、Salesforceの構築など、実際に自分が体験し社内メンバーと一緒に作り上げてきたものなので、作り込みは思ったよりもスムーズでした。
本番当日はめちゃくちゃ緊張しましたけどね(笑)。社内のSlackで応援してもらったり、盛り上がっていたので、そのチーム感がとても嬉しかったです。
▲写真:SFUGカップの様子
多くの企業が失敗する中、なぜ成功できたのか ——生成AI導入企業の多くが失敗していると言われる中、TAPPではなぜ成果を上げることができたのでしょうか?
1つ目は、CXの向上にこだわり、AIの役割を絞り込んだことです。「業務効率化」ではなく、お客様の体験を良くすることを最優先に考えました。解決すべき課題が明確だったので、「AIを導入しよう」ではなく「この課題を解決しよう」というスタートがきれた。
よくある失敗パターンとして「AIに色々任せすぎて精度が下がる」というものがありますが、私たちは最初からAIの役割をぐっと狭めました。日程変更やキャンセル対応に特化して、「この業務だけは確実にやってもらう」という設計にしたんです。欲張らないことが重要だと思います。
2つ目は、AIが活躍できる土台を3〜4年かけて作り上げてきたことです。私たちがSalesforceの活用で大切にしているのは、「正しい情報が、あるべき場所に、適切なタイミングで入力されている」状態を作ること。新しく数値分析をするたびに「ここの項目が足りない」という課題が出てくるので、それをずっと解消し続けてきました。
多くの企業がAI導入で失敗するのは、データが散らばっていたり、入力ルールが曖昧だったりして、AIが正しく判断できる状態になっていないからです。私たちはAgentforceのためにやっていたわけではなく、日々の業務改善の積み重ねを行っていた結果、AI導入に適した基盤が自然とできていました。
3つ目は、外部パートナーの力を借りたことです。当時、社内にAgentforceの知見がほとんどなかったので、長く携わってくれている開発会社に依頼しました。内製だけでは見えてこない懸念や落とし穴を事前にキャッチアップしてもらったり、第三者視点で導線のアドバイスをもらえたりと、得るものが多かったです。「自分たちでできること」と「専門家に任せるべきこと」を見極めることが大事だと感じています。
これは日々の業務でも同じことが言えて、適切に頼る、周りを巻き込むことで、最終的なアウトプットの質が大きく変わってきます。良いことだとわかりつつも「頼る」のってなかなか難しいんですが、ここは自分自身の伸びしろだと思っています。
正直な反省点 ——「もっとこうすれば良かった」という反省点はありますか?
目的がCX改善だったからこそ、リリースする前からユーザー視点を吟味すべきだったと反省しています。最初は言葉遣いが機械的で、社内にしか伝わらない言葉を使っていたり、お客様には伝わりにくい表現があったり。社内のレビュー会を通じて改善し、リリース後は注意深く確認しながら沢山調整しました。
また、チャットなのでボタンなどの装飾ができないという制約もありました。ストレスなく入力してもらうために、ボタンっぽく見せるあしらいを施すなど、見せ方の工夫も随時加えていきました。
ただ、スピード優先でまずリリースして、どんどん改修を行うというアプローチ自体は間違っていなかったと思います。完璧を目指して動けないより、まず出して改善し続ける方が、結果的にお客様のためになる。これは今後も大切にしていきたい姿勢です。
今後の展望 ——今後、Agentforceを活用して実現したい次のフェーズはどのようなものでしょうか?
Agentforceに限らず、AI活用の構想として「TAPPマーケティング2.0」というものを描いています。CRMのアーキテクチャ自体を見直し、AIを前提としたマーケティング基盤を構築する。広告配信からセミナー申込、インサイドセールス、フィールドセールス、CSに至るまで、顧客接点全体でAIを最大限に活用していく。そんな未来を考えています。
直近では、AIを活用したデータ分析を加速させたいと考えています。集計、分析、インサイトの提示をほぼすべてAIに任せ、自然言語で質問すれば答えが返ってくる。そんな世界を目指しています。技術的には実現可能ですが、AIから正確な情報を引き出すには、自社データを安全に渡すこと、分析しやすいようにデータを構造化すること、そしてビジネスの文脈を深く理解させることが必要です。実現させるには、自分自身も知識をアップデートし続けなければと切実に感じていますね。
論理的な思考や分析はAIに任せ、その結果を人が各チームにわかりやすく伝えて動いてもらう。その積み重ねが数字の改善、そして顧客体験の向上につながると考えています。
一緒に働きたい人 ——最後に、こんな人と一緒に仕事がしたい、というのはありますか?
「なぜ?」を深掘りできる人ですね。数字を見ても、Salesforceの設定を見ても、背景や構造に興味を持って理解しようとする人。それができると物事を抽象化して捉えられるようになり、「このパターンはこう」と結論にたどり着くスピードが格段に上がります。
大きく言えば、スピード感があって自走できる人ですね。ただ、今の時点で全部できている必要はありません。「こういう人物になりたい」と思って挑戦している段階の方も大歓迎です。大事なのは、「なぜ?」を問い続ける姿勢と、自ら動ける行動力。それがあれば、一緒に面白いことができると思います。
TAPPには、Salesforceを本気で活用している環境があり、AIエージェント導入の実績もある。成長できる土台は整っています。
実際、今回のプロジェクトを通して自分自身も大きく変わりました。「この仕組みがお客様にどう影響するか」を常に考えるようになり、技術を技術だけで終わらせない思考が鍛えられた。体験したからこそ自分の言葉で語ることができて、SFUGカップ2025の決勝大会や記者会見の場にも立たせてもらいました。成果を出すことで、こうした貴重な経験にもつながる。次は、一緒にこの環境で挑戦してくれる仲間と、新しい成果を作っていきたいですね。
▲2026年のTAPP賞(最もValueを体現した人に贈られる賞)を獲得した時の写真
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