アーリーフェーズでのスタートアップ投資、STRACTに期待すること【Tybourne Capital Management・日本株投資責任者 持田昌幸氏】第4回 特別対談企画
2024年11月20日に、弊社STRACTが発表した資金調達を機に、弊社株主との対談記事を複数回にわたって展開してまいります。
今回、Tybourne Capital Management(タイボーン・キャピタル・マネジメント)日本株投資責任者 持田昌幸氏と、弊社代表・伊藤との対談を行いました。
※持田氏には今回、個人投資家としてSTRACTに投資いただいています。
目次
投資の意思決定の仕方、投資先に求める条件
IVSでの出会い
STRACTに今後期待すること
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投資の意思決定の仕方、投資先に求める条件
持田氏(以下、持田):Tybourne Capital Management(以下、タイボーン)は、以前アメリカのLone Pine Capital(ローン・パイン・キャピタル)というファンドでアジアのヘッドを務めていたインド系イギリス人のEashwar Krishnan(イシュワル・クリシュナン)が、2012年に独立して立ち上げた香港ベースの上場株ファンドです。
上場株ファンドには色々なタイプがありますが、我々は、投資期間が他のヘッジファンドよりも比較的長く、5年から10年ぐらいのスパンで物事を見据えています。銘柄数も少なめで、短期の売買や次の決算の結果に依存するよりも、より中長期的に成長する産業や、そこでリーダーとなるような企業を選んで保有し、長期的にアルファを出すことを目指しているファンドです。
そのため、1銘柄あたりの調査や分析にはかなり時間をかけており、いわゆる普通のリサーチオリエンテッドなファンドよりも深く掘り下げ、徹底的に調べながら長期保有しています。こうした考え方に基づいて、投資の意思決定を行なっています。
上場株の分野で引き続き投資を行いつつ、2018年にはプライベート投資ファンドも立ち上げ、未上場の企業にも投資を行っています。一般的に投資額は2,000万ドルから5,000万ドルほどで、条件が整えばIPO前のリード投資も行い、その後の上場もサポートしています。
伊藤:投資先のセクターなどにはこだわっていらっしゃるんですか?
持田:セクターについて特段のこだわりはありませんが、我々が持ちたいビジネスの条件というものはいくつか定まっています。
これはさまざまなところで述べていますが「参入障壁が高い」「市場規模が大きい」「構造的な成長を見込める」ところに投資しています。またインクリメンタル(斬増的)なROI(投資利益率)が高く、ユニットエコノミクスが成立していること。その上で、マネジメントの視座やクオリティといった点も重視しています。
こうした条件を満たす企業は、さまざまなセクターに存在していて、例えばテクノロジーやBtoBビジネス、ヘルスケアやコンシューマービジネスにもあります。
ただ、相対的に見ると、インターネットドリブンの企業が多い印象です。
伊藤:では普段からインターネット関連の企業を多く見ているんですね。
持田:そうですね、テックイネーブル(テック強化型)なアセットということですね。
伊藤:最近の持田さんの中でのトレンドというか、ここのセクターは面白いなというところはありますか?
持田:セクターはあまりないですが、特にパブリックマーケットのバリュエーションが下がってきていて、正常化していると思っています。
事業の本質は、フリーキャッシュフローをどれぐらいのスピードで積み重ねていけるかにあると思っています。
今までの低金利の時っていうのは、すごくそこの評価が甘くなっていたとなっていたと思うんですが、金利が上がったので、5年後にフリーキャッシュフローが出てくる企業よりも、今後3年でしっかりとキャッシュフローを積み重ねられるような企業に注目しています。
伊藤:IPO株を買ったりすることもありますか?
持田:IPO株買いますよ。ただ、個人的にIPOから参加するのはあんまり良くないなと、ここ数年思ってきています。
IPO価格には様々な意図が反映されやすく、ある意味恣意的にコントロールされている価格です。その後、価格が上がることもあれば下がることもありますが、まあマーケットにさらされていない価格なわけじゃないですか。
また、IPOではアロケーションの問題もあるので、時間を割くべきかは悩ましいところです。
伊藤:理想はプライベートから持ってレイターまで待つ形でしょうか。
持田:上場株の場合、IPO株には僕たちはこだわっていないです。ただ未上場のファンドの文脈においては、日本のスタートアップで面白い会社も出てきていると思うので、そういうところにアクセスを持つというのはすごく重要だと思います。
伊藤:我々もまだすごく小さいアーリーフェーズの会社ですが、持田さんには個人としてSTRACTにシードで出資いただいて、シリーズAでも追加で入れていただきました。
このアーリーフェーズのスタートアップというのは、持田さんから見てどういう風に映っていますか?
持田:判断がすごく難しいですよね。なのでシードやアーリーに投資されているVCの方々には、そういう意味で尊敬する部分があるなと思っています。
やはりシード段階では、多くのスタートアップがまだアイデアとちょっとしたプロトタイプやプロダクトがあるだけの段階で、それを判断するとなると、もう人となりを見て、という感じになると思うので。
だから当然アーリーのファンドの方々って、たくさん数を投資して、すごく跳ねるスタートアップもあればそうでないスタートアップもある、そのバランスでリターンを出すような形ですよね。
アーリーな会社がたくさん出てくる日本のスタートアップ・エコシステムを考えると良いことだなと思いますし、ただ投資家としては判断がなかなか難しい部分もあります。
利益が来期出ますとか、売上数十億、数百億ありますとか、そういう会社を常に見ている僕たちからすると、難しいよね。
まあ僕が個人で投資しているのは、お金儲けとかリターンを上げることを求めているわけじゃないので。もちろんうまくいってもらえば、とは思いますけど(笑)。
IVSでの出会い
伊藤:持田さんの中で、アーリーフェーズのスタートアップに個人で投資する際の判断基準や、『この人は光るな』と思う要素は何かありますか?
持田:僕はまだ本当に数社しかやってなくて。光る、か…でも、伊藤さんってすごく丸くなったよね(笑)。僕も偉そうなところがあるけど、最初はだいぶ尖っているなと。
でも、Paidyの杉江陸さんに紹介いただいたというのもあったし、あとはすごい勢いでプロダクトの話をしていただいたので、本当に好きなんだなというのが伝わってきました。
うちのファンドは基本的にtoBが多いのですが、toCで大きくなりそうなジャンルってなかなか読みづらい部分もあると思うんです。ドメインも色々なtoCが出てきていて、なんとなく取り尽くされているように思うところもある中で、そういうアングルの入り方があるんだな、面白いな、と思いました。
伊藤:最初に出会ったのは2022年、沖縄で開催されたIVSでしたよね。僕たちがそのLaunchpadに参加したんですが、その時の審査員に持田さんがいらっしゃいましたよね。
持田:はい、覚えてますよ。あとコロナのクラスターが発生したIVSでしたね(笑)。
伊藤:そうですね。感染しましたか…?
持田:しましたよ(笑)。え、かかってないんですか?
伊藤:僕は大丈夫で、周りでは全員かかっていたんですけど。
持田:でもあのIVSはよく覚えてますよ。審査する立場ではないんですけど、審査員を務めさせていただきましたね。
伊藤:IVSでスタートアップが熱くプレゼンしている様子というのは、持田さんから見てどう映りますか?
持田:アーリーの人たちがこういう事業で起業しましたっていうのは、世の中のビジネストレンドを映し出しているみたいなところがあるじゃないですか。それは面白いなと思うし、ここのところずっとSaaSが多い中で、toCの会社やSG文脈のところなども増えてきて、世の中が良い方向に向かっているなあと感じますね。
あとは、タイボーンはアーリーのファンドではないので、アーリーの人に会うことが仕事の大きな部分ではない。とはいえ、良い会社って色々な方、ファンドからもたくさんお声がかかるので、良い会社や起業家にはなるべく早く接点を持っていた方が、僕のファンドサイドの仕事としても3年後、5年後を見据えると良いことだと思っています。
やっぱり投資するまでの期間が長ければ長いほど、お互いの人となりや事業のトラッキングができる機会が増えると思います。なのでそういう人たちを見つけて、この事業面白そうだな、とアクセスする部分においては、IVSでセレクションされたスタートアップを一度に見れるというのはある意味助かるし役に立つ機会だと思いますね。
IVSには毎回参加していますし、良い出会いもありましたね(笑)。
伊藤:ありがとうございます(笑)。
スタートアップのトレンドとしてSDGsだったり、ディープテック等も増えてきているのかなと思う中で、我々は完全にインターネットど真ん中の会社で、Eコマース、インターネット広告の分野。改めてこの分野や市場について持田さんとしてどう見ていますか?
持田:Eコマースは、ここ20年くらいで大きなテーマとなり、今もそのテーマは続いていますよね。さっき話した構造的成長のような文脈で言うと、アメリカもアジアも含め見てますし、持っている銘柄も多いです。
ただやっぱりEコマースは以前よりは当たり前になってきていて、いわゆるEコマースプレイヤーの成長というのは鈍化していて。すごく大きなトレンドだったものの、終焉を迎えているような気がします。それはそれぐらい大きくなったということでもありますし、当たり前になってきている。その中で、STRACTが新しくEコマースという大きなマーケットの中にエクスポージャーを取りに行っているというのはすごく面白いなと思います。
Eコマースというと、Amazonや楽天などBサイドのイメージがあると思います。なのでCサイドからのアプローチというのは、アメリカに事例があったとはいえ、あまり考えたことがなかったので、イノベーティブだなと思っています。
伊藤:ありがとうございます。まさにそこは僕たちも自分たちで作りながら思っていますね(笑)。
僕はインターフェースの研究をずっとやってきたので、ユーザーと技術の接点というのをずっとつくってきました。そこを最適化するということで底上げ産業ができるかなと思っています。Eコマース側が変わるのを待つのではなく、僕たちサイドが変えてしまうという発想が意外と今までなく、そこに切り込めるというのがこの事業の面白さだなと思っています。
持田:面白いなと思います。あとはエクセキューション、やるかやらないかというか。やり切れるかというところがすごく大事ですよね。
伊藤:そうですね。STRACTもシーズAを迎えたところですが、数年後のIPOを目指しています。
STRACTに今後期待すること
伊藤:STRACTにこれから期待していることはありますか?
持田:やっぱりtoCってtoBよりも勢いよく跳ねる面白さがあると思うので、そこまで行ってほしいなと。近年でtoCで最も成功した例ってメルカリとかだと思うのですが、そこを超えるような価値提供をして利益をつくって、そうした時には時価総額は自然とついてくると思うんですよね。
時価総額が大きくなればもっと影響力のある会社になって、採用も楽になってどんどん大きくなるフライホイールが回り出すと思うので、そういう風になっていただけたらなと思います。
あとは、今後どういうチームを作られるのかというところに、僕は結構興味があります。
伊藤:どういうチームがうまくいきそうだと思いますか?
持田:僕はtoBの方が解像度が比較的高いのですが、STRACTは結構結構エンジニアセントリックな感じのイメージを持ってます。
それはそれですごく良いと思うのですが、エンジニアとして尖っていく感じでいくのか、エンジニアもいるけれどBも強いよ、という感じでいくのか。どっちが正しいとかではなく、マネジメントの思想なので、どういう風に考えているのかに興味があります。
伊藤:そうですね、僕たちも結構ずっとプロダクト中心のチームだったところから、今結構テコ入れを始めています。2サイドビジネスなので、どっちも揃っていないといけない中で、プラットフォームが強ければ強いほどBiz側も惹きつけが強くなります。とはいえ、鶏・卵的なところもあるので、ビジネスサイドも戦略的につくっていく必要があると思っています。ぜひ今後ともアドバイス、よろしくお願いします。
STRACTでは現在多くのポジションで採用活動を行なっています。
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▼代表伊藤のnote
https://note.com/hkrit0/n/nc1175b2a6039
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