【CEOインタビュー/スカイマティクスの原点と未来地図part.2】最先端技術を産業の現場へ。「誰でも手軽に使えるサービス」に私たちがこだわる理由
2022年3月にシリーズBとなる約13億円の資金調達を行い、投資家の方々や市場からもスカイマティクスの提供するプロダクトや事業モデルに注目いただく機会が増えてきました。
今回の記事では、そんな私たちの事業を語るうえで欠かせない「リモートセンシング」について、そしてこの技術をどのようなサービスに落とし込んでいるのかをお伝えしたいと思います。
「一般にはまだ聞き慣れない言葉かもしれませんが、リモートセンシングはあらゆる産業を支え、皆さんの暮らしを変える可能性に溢れています。しかし、どんなに高度な技術も、ユーザーにとって使いやすい形で提供できなければ意味がありません。私たちはそこに取り組んでいるのです」
そう語るのはスカイマティクス代表の渡邉。前回のインタビューに続き、当社が手がける事業の独自性とプロダクトを通じて実現したい世界について、詳しく話を聞きました。
「見えないものを見えるようにする」リモートセンシングで社会を変えるには?
——改めて、リモートセンシングとはどういった技術なのか教えてください。
リモートセンシングとは、ドローンや衛星やスマートフォンなど何かしらのツールを使って、遠く離れたところから物体を触らずに詳細まで計測する技術。簡単に言うと「見えないものを見えるようにする技術」だと、私は考えています。
もともと軍事目的での利用がほとんどだったリモートセンシングは、徐々にビジネスの場で活用されるようになってきました。ただ、多くの企業では、画像の撮影が可能な衛星やドローンの製造や、データ取得のみの事業展開にとどまっているのが現状です。
それだけではこの技術を活かし切れていません。「もっと社会に貢献できる形で、リモートセンシングを世の中に実装したい」という思いがスカイマティクスの事業構想の根幹にありました。
——リモートセンシングの技術を社会に活かすためには、何が必要なのでしょうか?
たとえば「設備内のタンクヤードでサビてしまっている部分を調べたい」「キャベツ畑で育てている苗の形状を調べて、生育が遅れている箇所を知りたい」などのニーズがあったとします。
この場合、衛星やドローンから撮影した写真を見るだけでは情報が不十分ですよね。異常を検知したうえで補修などのアクションを起こすには、追加で2つの工程が必要となります。
一つは、AIで画像データの解析を行うこと。もう一つは、位置を特定するためにGISと呼ばれる技術を活用して、地図上の情報に紐づけることです。それらを単独のプロダクトで完結できるのが、私たちが開発する「時空間解析プラットフォーム」です。
撮影した画像の解析をして、なおかつ、そのデータを私たちが生きている現実世界の地図上に落とし込む。そして、普段使っているデバイスを通じて見られるようになって、はじめて農家や測量会社の皆さんが求めていることが実現できるようになるのです。
——具体的にはどのようなプロダクトを展開しているのでしょうか?
建設業界向けに測量現場データ管理をサポートするサービス「くみき」、農業業界向けに現地に行かずとも農地管理ができるサービス「いろは」など、産業ドメイン別にプロダクトを開発して提供しています。
プロダクト|株式会社スカイマティクス(SkymatiX)株式会社スカイマティクスのプロダクトをご紹介します。skymatix.co.jp
専門知識を必要とせず、誰でもどんなデバイスからでも最先端の技術をリーズナブルな価格帯で導入していただけるのが、スカイマティクスが提供するプロダクトに共通している特長です。
ドローンもSaaSも、手段の一つ。ニーズと時代に合わせたビジネスモデルを
——リモートセンシングの技術を「さまざまな産業の現場で実際に活用できる」形にして提供しているのが、スカイマティクスの事業なのですね。
はい。一般的には、衛星・ドローン・スマホなどのハードウェアを作る会社、AIで画像解析を行う会社、地理空間情報システムGISを作る会社が別々にサービスを提供するのが通例です。それゆえ、各プロダクトの価格が高くなったり、個々のニーズに合わせたカスタマイズがしづらくなったりしてしまっているのが現状なんですね。
リモートセンシングで取得したデータをAIで画像解析し、GISによりWeb上に再現し、時系列情報を組み合わせる。それらの工程を一つのプロダクトにまとめて提供している企業は、現状スカイマティクスだけなんです。
私は自社を紹介するときに、よく「リモートセンシングを世界で初めて民主化する会社」だと言っています。リモートセンシングという高度な技術を、技術として完結させずに、プロダクトを通じて手軽に感じてもらえる世界を目指しているんです。
——なぜ、既存のプロダクトにはなかった機能の一元化が実現できたのでしょうか?
徹底的な現場主義で、ユーザーの方々に向き合った結果だと思います。
私たちは創業時から現在に至るまで、さまざまな農地や測量の現場に赴き、実際の業務に従事されている方々から話を伺いました。そこで「ドローンを使うと、ある箇所での測量精度が下がってしまう」「そもそもデバイスを使いこなせない」などのリアルな課題を目の当たりにしたんです。
画像データを取得するハードウェアそのものにこだわってしまうと、ドローンや衛星の撮影精度を高める方向に意識を集中させてしまいがちです。
もちろんそれも良いことではありますが、それだけでは現場の課題を解決できません。リモートセンシングやAI・GISがどんなに高度な技術でも、実際に活用してもらえないと意味がないんです。
ユーザーに上手な活用方法を考えさせるのではなく、プロダクトを提供する私たちが使い方を定義して伝える。それが開発会社としての責任だと考えています。
そういう意味では、私たちはテクノロジー起点の会社でありつつ「わかりやすく伝える力」も非常に重視していると言えます。プロダクトのUI/UXにこだわるのも、それが理由です。
最近、カスタマーサクセスのメンバーに「このプロダクトは人に紹介したくない」とユーザーの方から声が届いたんです。「ITが苦手な自分でもすぐに使えて、とても効果があるから、競合他社にこのプロダクトを知られたくない」と。最高の褒め言葉をいただけたと思いました。
そしてこれは、プロダクトのユーザビリティの高さへの評価であると同時に、お客様に寄り添って導入をサポートするカスタマーサクセスが「わかりやすく」伝えられたからこそいただけた言葉だと思います。非常に嬉しかったですね。
——SaaSとしてプロダクトを提供しているのも、ユーザーの利便性を追求する背景からなのでしょうか?
そうですね。今の時代ではSaaSの形でプロダクトを提供し、月額利用料をお支払いいただくのがベストだと考えました。
なので、私たちはSaaSというビジネスモデルにこだわっているわけではありません。時代やニーズに合わせてどんどんアップデートしていくつもりです。確かな技術が土台にあるからこそ、柔軟なサービス提供が可能なんです。
——技術力の高さは、会社としての強みの根源だと言えそうですね。
開発力が私たちの強みの一つなのは確実です。ただ、テクノロジーを全てとして「とにかくプロダクトさえ強ければいい」という考えではないんですよね。
プロダクトを普及させるにあたって、最も必要なものは、ひょっとしたらプロダクトでも営業でもなく、カスタマーサクセスがお客様に寄り添ってサポートすることかもしれない。またある産業においては、プロダクトの品質以上に、ユーザーがお金を払いたくなるビジネスモデルやデリバリー方法が重要かもしれない。
お客様の課題を解決するためには、プロダクト以外にもさまざまな視点から考える必要があるんです。
スカイマティクスは自社プロダクトを提供する会社ですが、エンジニアだけが主役というわけではありません。エンジニア「も」主役なんです。セールスもカスタマーサクセスも、マーケティング担当もコーポレートスタッフも、全メンバーがそれぞれの立場から社会に対してイノベーションを起こせる組織だと思っています。
目指すのは「産業版Googleマップ」
——今後の展望を教えてください。
それぞれのプロダクトを、産業のDXフェーズに合わせて最適な形に育てていくことを目指します。
農業・建設・設備管理と、別々の業界に向けてプロダクトを提供しているのには理由があります。事業ポートフォリオを考えたときに、産業の成熟具合とそれに伴うプロダクトの成長期が分散していたほうが、会社全体として成長曲線を描き続けられるからです。
たとえば、DX化の推進状況を加味すると、農業分野での成長期はおそらく10年後くらいにやってくると考えています。一方、建設業界は今まさに波が来ている状態。向こう5年が勝負と見ています。その数年後には、おそらく設備管理業界が活況となるでしょう。
これまではプロダクトの質を高めることや、営業やカスタマーサクセスなど各部門の組織づくりを通じて、事業の土台を固めるフェーズでした。次の数年は、それぞれのプロダクトが向き合っている産業の市場を見極めながら意思決定していく必要があると考えています。
——その結果として、これからのスカイマティクスはどのような存在になることを目標としているのでしょうか?
究極の目標は「産業版Googleマップ」というポジショニングです。
ドローンや衛星、スマートフォンで撮影して画像解析をすることは、今後当たり前のようになっていくでしょう。そして、農業・建設・設備管理の各業界向けに、さまざまなアプリケーションも誕生すると思います。
その産業にとっては選択肢が増えることにつながり、歓迎されるべきことです。むしろ、どんどん健全な競争が生まれてほしいと願っています。
一方で、その裏側には、画像解析処理を行ったうえで地図上でデータが見られる一元化プラットフォームの存在が不可欠です。私たちはその立ち位置を目指したいと思っています。
事業の成長や拡大は、あくまで理想を実現するためのプロセスにすぎません。何より大切にし続けたいのは「社会を変えたい」「社会を黒子として支える人をテクノロジーで支えたい」という起業時から根底にある思いです。この情熱を源泉に、これからもプロダクトを届けていきたいです。