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当たり前にあるカゴを工具箱屋が作ったら年間数十万個売れるようになった話

こんにちわ、株式会社リングスター(以下、リングスター)の唐金祐太(カラカネ ユウタ)と申します。大阪本社、明治20年創業の工具箱、いわゆる職人さんの使うツールボックスを奈良県生駒市にて製造しており、現在私の父が5代目になり、私はアトツギとして日々東奔西走しております。

私達リングスターは、100年以上一貫して工具箱を作り続け〈木製・鉄製・樹脂製〉と時代に沿った最適な素材を選び、今日まで「現場でも20年以上使えるプラスチック製の工具箱」とその圧倒的な耐久性を職人さんに評価をいただいて参りました。今回は約1年前に弊社の製品のスーパーバスケット(以下、バスケット)についてツイートした所、思いのほか反響をいただきました事をきっかけに書かせていただきます。(遅)




こちらの反響に「20個くらい持ってる」「持ってるけどこんな機能知らなかった」「使ってみたい」「よく考えられている」等、ありがたいお言葉をたくさん頂戴いたしまして本当に嬉しい限りです。このバスケットの開発は私の父が行ったのですが、お酒の席(父とは月に1回は必ずお酒の席を設けております)にて製品が出来上がるまで紆余曲折があった苦労話を、耳に工具箱ができるくらい聞いてきました。

このバスケットが開発されたのは平成21年(2009年)ですが、よくよく冷静に考えたら【買うものでなかったものを買う文化を作り上げた】のはめちゃくちゃ面白いですし、世界のコーヒーチェーンであるスターバックス社にも採用された工具箱ってドラマチックじゃないですか。今ではメインのSB-465(レギュラーサイズ)にて年間販売個数30万個を超え、他サイズ累計数十万個の販売実績となるベストセラー製品になったこのバスケット。折角の機会なので、「どうやってこの製品が誕生したのか?」を今回書かせていただこうと思います。

目次

  1. 1.スーパーバスケットとは?
  2. 2.開発のきっかけ
  3. 3.突き抜ける強さ
  4. 4.異業種コラボも多数、そしてアウトドアブランドへ

1.スーパーバスケットとは?

特徴は至ってシンプル「最強のカゴ」です!(語彙力)
元来、リングスターが職人さんに提供してきた価値はその「圧倒的な強度」です。機能面については強度より由来されるものが多く、次という位置づけをしており、提供価値の本質はやはり強度になります。多機能且つオプションが多く、見た目もかっこよくさを追求すれば、いくらでも付加価値を足し算できますし、SNSでも映えるでしょう。

しかし、同時にトレードオフとなるのが私達の最も提供したい価値である「強度」になります。シンプルな造形だからこそ、再現できる「圧倒的な強度」があり、職人さんが持つ重たい工具を、たくさん入れても絶対に壊れない、揺るがない、その〈安心・信頼〉こそがリングスターの提供する価値、矜持であり、生命線でもあるのです。

【耐久性】
弊社では新製品発売の際に必ず耐久試験を奈良県工業技術センター様にて執り行うのですが、スーパーバスケットの試験結果がこちらになります。

「最強のカゴ」にふさわしい耐久性、正直オーバースペックではありますが、職人さんは安心して工具を預けていただけますので私達にとっては、冥利に尽きる思いです。
余談ですが、この試験の時にどんどん圧縮されて変形していくバスケットを見て、父が「もうやめてくれっ!!息子が挟まれてる気分や!!」って聞いて ?(∵)? ってなりました。

【機能性①スタッキング】
いわゆる、スーパーのカゴのハンドルは左右対称です。リングスターのバスケットは特徴的でハンドルが左右非対称になっており、内側に倒す事で積み重ねが可能になっております。『当たり前の構造を少し変えてみる』このちょっとした事が、他のバスケットにはない付加価値を生み出しております。

今まで、横にしか並べれなかったものを縦の空間を使えるようにする。職人さんの車はいつも荷物がパンパンです。この機能は、職人さんの車の積載効率の上昇に大きく寄与しました。

機能性②「自立するハンドル」
これもちょっとした事ですが、職人さんの”持続的な生産性”に大いに寄与していると考えております。スーパーのカゴのハンドルは非自立式構造です。リングスターのバスケットはハンドルが自立する構造になっておりますので、地面から持ち上げる際に屈みこみが少なくなり、腰痛等の誘発を防ぎます。職人さんにとって体は資本です、長期的に最高のパフォーマンスで仕事ができるという事は本当に素晴らしい事だと思いますし、私達リングスターは”ちょっとした優しさ”を大切にして日々、製品開発を行っております。

バスケットを見ていただければわかりますが、スーパーのカゴと違い網目が横長になっております。縦長だと上からの荷重に弱く、重さが加わると膨れていってしまいます。耐久性を意識するこだわりがここにも詰まっております。以上がバスケットの特徴になります、いかがでしょうか。非常にシンプルかな構造となっており、『強度を機能に変える』という意味が少しお分かりいただけたかと思います。

2.開発のきっかけ

※今から書く事は倫理やモラルの是非を問うものでなく、開発のきっかけとなった経緯として寛大なお気持ちでご覧いただけますと幸いです。

【職人さんとお店の両方の課題】
職人さんの工具を入れるのに適しているものは何か?当時、いわゆるボックス型の工具箱しかラインナップを持っていなかったリングスターは、次の収納ボックスの可能性を考え、知人の職人さんにヒアリングし、街中で開いている職人さんの車を注意深く観察していると、ある事に気が付きます。

「お店のカゴに工具いれている!」
それは実に様々でホームセンターやスーパー、ありとあらゆるお店のカゴに工具を入れていました。中には、良心の呵責からかスーパー名をガムテープにて隠していたり、塗装で名前を消して使用しているのも多く見かけました。案の定、ヒアリングしていくと「売ってないから」が当時の状況でした。中にはランドリー用のバスケットがあるので使ってみたが「ハンドルが1本しかなく安定性に欠けて現場では使えない」という意見まで聞こえてきました。

もちろん店側も、週に数十個なくなる事もあり、頭を悩ませていたそうです。カゴ持ち出し禁止の張り紙等、様々な対策を講じておりましたが、効果はなく、カゴを販売した所でスペースも取るし、どの売り場に並べるか悩むし、実質無料にて手に入れているものを買うわけがないとあきらめていたそうです。

カゴの利点はその『ユーティリティさ』です。蓋を閉める手間がなく、サッと必要な工具だけを詰め込んで現場へ移動、生産性も求められる時代にとって「これこそ最適な工具箱だ」と開発を決心したそうです。スーパーのカゴは備品、だから耐久性は必要としないので、当然ですが工具を入れるとハンドルは撓りまくります。非常に危険で、落下事故や工具の破損にも繋がりますし、下の隙間から細かい物が落ちればそれこそ大事故につながる危険性もあります。※なのでリングスターのバスケットの底は網形状でない

なので私達は全国のお店を救うべく(嘘)今までにある普通のカゴと違い「さすがリングスター」と言ってもらえるモノを作ると開発に踏み込む事になりました。(結果、カゴの盗難率を劇的に下げた事は事実なので、スーパーからの感謝状を待っていると酒飲んだ時に笑いながら話しておりますw)

【社内の壁】
大まかな構想ができて社内会議にて発表した時、想像とは違い、良い反応は得れませんでした。
「ちょっと言い方悪いですが、タダで手に入る物は買わない」「工具箱でないので、私達でやるべき製品ではない」「単価もかなり頑張らないといけない、その単価とお店のスペースを加味すると置いてもらえるあ可能性が低い」とフルボッコです。

皆、慎重になるのはわかります。というのは私達の射出成型の産業というのは、金型、成型機とイニシャルコストがとにかく高いのです(それは参入障壁の高さにも繋がっておりますが)
特に工具箱の開発には1種類につき部品が多く、蓋、本体、中皿、仕切、バックル、ハンドルと多くの金型が必要になり、その投資は●千万です。なので、毎回ホームラン狙わないといけないのですね「失敗こそ成長ぅ☆心理的安全性爆上げぇ↑↑☆」なんてなまっちょろい事いってられないんです。

【社外の壁】
これもまた前述した社内の声と同じような反応でした。
「今まで盗っていたものは誰も買わない、ましてや1000円するカゴなんて」「ハンドルが太い、重い」「工具売り場の製品ではない」「単価が低いので効率が悪い」2度目のフルボッコです。
「困ってたんちゃうんかいな!」と思ったそうです。

けど「必ず、売れる!」と確信と自信がありました。
何故なら、店頭にないから店の備品を使用→誰もが盗品なんて使いたくない、後ろめたい気持ちで使用している→店頭にあれば購入してもらえる→店側はロスから売り上げへ。

皆、ハッピーではないか!だからこそ、自信をもって何度も営業に回り、大手が導入を決めてくれた事をきっかけに職人さんの間で話題になり、結局は半年もすれば、全国のほとんどのお店から取り扱い希望の連絡をいただく事になりました。最初に導入を決めていただいたお店には本当に感謝いたします。

3.突き抜ける強さ

しかし、バスケットの小売価格は平均で税込で1,000円です。リングスターは代理店制度、小売店の利益も考え、ユーザー様のお買い求めやすい価格を考慮するとこの価格が限界と当時は考えました。前述したように、イニシャルコストが高い産業にて金型の償却等を勘案すれば、正直かなりきつい利益率になります。

昨今では年々上昇する、EC化率によって輸送コストが大幅に上がり、160サイズにて発送を弊社は制限されており、10個単位でしか配送できないのです。空気を運んでいるようなものですから、年々利益が圧迫してきております事もまた事実です。(生駒の新鮮な空気をたっぷりと詰め込んでおりますのでお楽しみくださいませ)

だけど、私達は職人さんのサイズ展開の要望にもどんどん応えていき「ミニサイズ(SB_310)」「ミドルサイズ(SB-370)」「レギュラーサイズ(SB-465)」「ロングサイズ(SB-560)」「ローサイズ(SB-465s)」と5アイテム、計14SKUを展開し結果的に圧倒的に突き抜ける覚悟と、スピード感がありました。

レギュラーサイズが話題となった際に、数社追従がありましたが上記の通りに、開発の手を緩めることのなかった事が奏功し、今現在、多大なイニシャルコストをかけて、単価の低く効率の悪いこのカゴ産業に勝負してくる企業が現れる事はなくなりました。ここまで積極的に投資を行い、突き抜けてきたからこそ今まさにブルーオーシャンの領域となっております。

【地産地消が強いビジネスモデル】
バスケット発売後、大手国内メーカーが海外製にて同機能を持つバスケットを導入してきましたがその価格は1500円を超えました。もちろん海外製なので箱作りにかける想いはいわずもがなで、結果、リングスターより品質の低く価格の高いバスケットが送り込まれる結果となりました。

私達が収めるEDLPの業界には収納ボックスというジャンルは越境に非常に弱いビジネスモデルになります。海を渡るコンテナに対して、単価があわないのです。これ逆を言えば、私達も輸出には壁があるという事にもなります。

私達の工具箱業界というのは、家庭用の収納ボックスと違って市場のパイも決して大きくなく、私達が130年工具箱1本で勝負で築き上げてきた、職人さんの安心という信頼は簡単にひっくり返せるものではございません。私達も胡座をかくことはしませんが今尚、圧倒的な努力を日々行っております。

つまり奈良県にて制作して、日本国内にお届けする地産地消(広義)品質、供給力、適正価格においては工具箱業界では国内には数社ございますが。海外メーカーに敵はほとんどおりません。

4.異業種コラボも多数、そしてアウトドアブランドへ

冒頭に書かせていただきましたがこのバスケット、日本の中目黒に2019年オープンしたスターバックス リザーブロースタリーの物販コーナーに採用いただきました。


私は嬉しくて嬉しくて、東京へいってみてきましたよ。バスケットが陳列している一番近くの席でしばらく見てたのですが、スタッキングにて展示されておりましたので、お客さまがバスケットを危うく倒しそうになったら「ガタっ」って席立ち上がるの何回繰り返したでしょうか。工具箱でも世界のコーヒーチェーンに採用いただける、社内外でとても反応も良く、ここから一気に加速していきます。
現在、アパレルブランドBEAMS JAPAN様にも公式採用いただいており、他にも多種多様な企業様とのコラボレーションを実現しております。

余談ですが、スターバックス社の社内承認がすごく大変でした。本当に!
うちの父親からは「どこの喫茶店やねん!」って言われた時は、李牧軍に囲まれた時の王騎のような顔になりました。

【そしてアウトドアブランドへ】

先ほど、少し振れましたが2020年に発売したStarke-Rシリーズは、リングスターの発売するバスケットより強度の高い素材にて作成しており、多くのキャンパーさんに知っていただける事になりました。

アウトドア事業のバスケットでは販売数が2023年01月現在にて、約182,000個販売しており、勢いは留まる事を知りません。

その汎用性の高さは、アウトドアユーザーのみならず、日常でもバスケットは活躍しております。定期的に限定カラーを販売しておりますので、弊社SNSで是非チェックしてみてくださいね。(フォローしていただきますと嬉しいです)

【最後に】
結局みんなが「絶対に売れるよ!!」っていった製品はもしかしたら、それは誰もが思いつく、使い古したアイデアかも知れません。社内外共に、総反対をくらい、圧倒的に突き抜けた製品だからこそ、皆様のおかげ様で、今こうやって年間数十万個を販売するシリーズになったと思います。本記事を読んでいただきました皆様は是非、みんなが笑い、反対する事があっても、そこに新たな市場があると信じて、どんどん挑戦してほしいと心から願っております。

職人さんもバスケットを使って、作業効率が上がり幸せとなり、お店も盗まれる事もなくなり売り上げもアップして幸せ、もちろんリングスターも喜んでもらって幸せです。

誰かの市場を横取りすれば誰かが不幸になる。売れてる製品を敬意もなく真似し、海外大量生産にて安価にだす。奪われた物は奪われるんですよ。そんな事を繰り返すのでなく、日々勤倹力行し、創造力を持ち、ユーザーさんに喜んでいただき、市場を大きくさせていく事が大切だと思います。

『今まで買われていなかったものが買われるようになる』
今回は、そんな市場を作り出した私の父親のお話しでした。
「おまえパソコンばっかりカチャカチャしてんと、1件でも営業いってこい!」と今にも飛びかかってきそうな体育会系な父ですので、ここで終わらせていただきます。

拙い長文を最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。リングスターはこれからも世の中、関わる全ての人々を幸せにするモノづくりに努力を惜しみません。私の代、その次もしっかりと想いを繋いでいけるように全力で精進して参りますので今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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唐金祐太

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