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*****本記事はLinkedinからの転載です*****
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1月下旬、楽天の三木谷浩史CEOが、LinkedIn編集長のDaniel Rothのインタビューに応じた。英語で収録された動画の様子は、下のリンクをご覧いただきたい。
今回はインタビューを日本語に翻訳した記事をお送りする。社内公用語の英語化、これからの事業展開、スポーツビジネス、世界経済の見通し、そして起業を志す人へのアドバイス…。動画には盛り込めなかった未公開のやり取りも含め、全貌をお送りする。
――まずは楽天の企業文化についてお聞きします。個人的に興味を持ったのは、2010年に発表した、社内公用語の英語化です。当時は前代未聞の制度として日本国内でも大きな関心を呼んだそうですね。約9年が経ち、成果をどう評価していますか。
三木谷 私自身、日本文化に対する強い思い入れがあります。どこに行っても、ホスピタリティは最高ですし、全国各地に素敵な郷土料理がある。世界に誇れる素晴らしい国だと自信を持って言えます。ただ、グローバルなビジネスを考える上では、唯一ネックになることがありました。それが、言葉の問題です。
日本人の多くは学生時代から英語を学んではいますが、英語でコミュニケーションを取ることを不得手としています。しかし、楽天が世界展開を進めていく上では社員の英語レベルの底上げは不可欠であり、言葉の問題が大きなハードルになっていました。
何よりも深刻だったのは、英語が通用しない企業ということで、海外の優秀な人材の確保が難しくなっていることでした。例えば、日本にはコンピューターサイエンスを学ぶ学生は1万6000人ほどしかいません。他方、米国では30万人、中国は100万人以上いると言われています。彼らの興味を楽天に引きつけるためにも、普通に英語でコミュニケーションがとれる組織にする必要がありました。ただ、具体的な施策は打ち出せず、色々と頭を悩ませていたのです。
やるからには徹底的にやる
そんなある日、とてもクレイジーなアイデアが浮かんだのです。「社内では誰もが英語を話す必要があるというルールを導入したら」。これが、そもそもの始まりです。
――三木谷さんの著書によると、朝会で突然発表したそうですね。「(社内公用語の英語化を)やると決めた」と。1週間後には、社内でも多くの表示が英語になっていったそうですね。
三木谷 何事もやるからには徹底しなくてはダメです。アグレッシブに進めました。
――社員の反応はどうでしたか?
三木谷 もちろん、驚いたと思いますよ。発表後は、色々な人間から「事前に相談してくれないと困る」と切実に訴えられました。しかし、彼らと事前に相談すれば、絶対に止められるのは分かっていましたから。
――「できない」「やめよう」という声はなかったのですか?
三木谷 ビジネスのゴールがはっきりしていましたから、撤回するという選択肢はありませんでした。楽天は、日本の中だけでビジネスを終わらせるつもりはありません。海外に打って出て、グローバル企業として成功したいのならば、組織の在り方を抜本的に変革するしかないんです。こうした戦略に沿ったうえでの社内公用語英語化だったので、徹底的にやりました。
――英語化によって、社内の意思決定の形も変わったそうですね。
三木谷 日本語特有の曖昧さが排除され、指示命令が明確になりました。英語を使うと、玉虫色の返答が難しくなります。問いかけに対し、「Yes」「No」が明確になりました。その結果、意思決定のスピードが格段に上がりました。
――楽天で働く全ての人が英語を得意としていたわけではないと思います。そういう人たちはついてこれたんですか?
三木谷 もちろん、簡単ではありませんでしたよ。最初の目標は、少しアグレッシブ過ぎたかもしれない。でも結果から言えば、社員はみんなよくやったと思います。私よりも、英語が上手くなった人がたくさんいますから。
――英語化は楽天にどんなメリットをもたらしましたか?
三木谷 海外企業からの目が明らかに変わりました。楽天がグローバル企業として認められ、他の世界大手と変わらない存在感になったと自負しています。社員にも、グローバル大手とも互角に渡り合える自信がついたのではないでしょうか。
エンジニア系採用の8割は海外人材に
――優秀な人材を惹きつけることに貢献していますか。
三木谷 日本に関していえば、大学の就職人気でもトップクラスに立てていると思います。特に、我々が欲しいと考えているエンジニアの領域では大きく貢献しています。
――日本国内では18%が海外の人材になっているそうですね。
三木谷 プログラマーやエンジニアなどに限って言えば、日本でも既に採用の8割は海外人材です。中国やインドなどからの志望者も多く、非日本人の割合はさらに増えていくでしょうね。
冒頭にも述べた通り、日本は海外からとても魅力のある国として認知されています。日本で働きたいと考える若者も少なくありませんから、そのブランド力を最大限に活かそうと考えています。
――他の日本企業も社内公用語の英語化を追随したのですか?
三木谷 英語の共用化を発表した企業は何社かありますが、実際には研究開発部門に限定していたり、特定の役職以上といった形で導入しています。我々のように、全社で取り組んでいる企業は、ありません。
繰り返しますが、これは最後まで徹底してやり抜くことが大切なんですよね。限定的に始めても、結局は形骸化していきます。全社で義務にしなければ、本当の効果は出ないと思います。
――楽天の取り組みは時期が早すぎたのでしょうか?これから大きなうねりになる可能性はありますか。
三木谷 グローバルにビジネスを展開したいのであれば、必須でしょう。将来は、日本の市場が縮小していくのは明らかですからね。永続的に成長をしたいならば、海外に進出せざるを得ません。答えは明白だと思います。
アマゾンを真似ればそっぽを向かれる
――日本でのビジネスについて教えてください。Eコマースにおける楽天の最大の特徴は、「楽天市場」に出店する店舗への徹底的なサポート、エンパワーメントにありました。彼らの販売力を高める施策を多く用意したプラットフォームに徹することが、成長の原動力であったと思います。そんな中、今年1月30日に店舗を集めて開催したカンファレンスでは、自社配送ネットワークの「ワンデリバリー構想」を改めて説明しました。配送料のいわば標準化とも言える施策ですが、これは従来の戦略とどうつながっているのですか?
三木谷 楽天の創業から変わらない方針は、店舗さんのニーズを汲み取り、彼らが強くなる施策を考え続けることで、売る力を高めることです。それが結果的に我々を強くします。
この施策を進める上で、現在は配送料が大きなネックになっていました。お店によって、配送料が異なることが、お客にとっては不満の一つだったのです。今回の発表によって、送料無料の基準を統一することで、その不満の解消を目指します。いわば、競合他社と比較した弱点を克服するための施策です。
――アマゾン・ドットコムを始めとした世界のプラットフォーマーは、様々な手段を標準化することでコストを下げてきました。楽天はそうしたアプローチは取らないのでしょうか。
三木谷 楽天を創業した頃からの変わらない思いは、社会やコミュニティをよりよいものにしていきたいという理念のもと、様々な課題を解決することです。一方で、他社の中には、既存の流通を単純に置き換えようとしている動きも見えます。哲学が違います。
これは私だけでなく楽天の企業文化に根付いています。だから、仮に私が他社を単純に真似しようと言えば、みんなから集中砲火を浴びるでしょう(笑)。彼らからそっぽを向かれてしまいます。
最終的には消費者に選択肢を用意することが大切だと思っています。スーパーマーケットのような場所でショッピングをしたい企業もあれば、色々な専門店が集まったモールを好むお客さんもいるでしょう。嗜好に合わせて、店舗さんもビジネスも柔軟に展開していく、それが究極の姿だと思います。
スポーツに力を入れる理由
――世界的に展開しているスポーツビジネスもお聞きします。ここまで力を入れている理由はなぜですか?
三木谷 現在、スポーツについては、2つのアプローチをとっています。一つは、社会への還元という意味合いにおいて、特定のスポーツ競技を支援するものです。個人としてテニスのデビスカップを支援していますし、楽天としてもスパルタンレース(障害レース)のスポンサーをしていたります。
もう一つが、楽天というブランドのプロモーションのためです。日本でいえば、プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルス、Jリーグのヴィッセル神戸、世界でいえば、リーガ・エスパニョーラのFCバルセロナ、NBAのゴールデンステート・ウォリアーズなどの運営やスポンサー展開をしています。スポンサーとするチームを選ぶ際には、単に有名か、強いかというだけでなく、彼らが社会に対してどのような姿勢で貢献しようとしているか、その哲学まで検討して選択します。
資金的な援助だけでなく、スタジアムを一緒に考えて整備したり、そこでこの上ない体験をファンの人々に提供したりすることで、実際にチームの収益やブランド価値自体を上げることにもコミットします。それが、私たちのブランド価値の向上にもつながるし、結果的にお互いがメリットを享受できると考えています。単なるスポンサーではなく、パートナーと呼んでいます。
――欧米を含む世界的な保護主義の波が広がっています。世界規模でビジネスをする楽天にとっても無視できない状況ですか?
三木谷 この流れは個人的にはある程度予想はしていました。中国との関係やパワーバランスの変化に米国がどこまで耐えられるか。注意して見守っています。楽天自身のビジネスに今は直接的な影響はありませんが、保護主義的の反動がやがて訪れる可能性は高いと見ています。ただ、それがどのような形で現れるかは、私も分かりません。
――日本でもそうした保護主義的な考えはあるのでしょうか?
三木谷 確かにありますが、一方で、日本は人口が減少していくことが明らかです。その意味では、オープン化を推進していかなければ、生き残れないというのも事実です。もっと積極的に国を開いていく必要があると思います。
シェアリング経済、オープン化など、技術変化によって見直しが求められているルールは枚挙に暇がありません。規制緩和も含めてそのペースを高めていく必要性を常に感じています。
誰もが起業家精神を持つべき
――最後に、一つアドバイスをお願いします。志のある若者から、「僕も三木谷さんみたいな起業家になりたい」と相談を受けたら、今ならどう答えますか?
三木谷 応援しますが、起業のタイミングは人それぞれだと思います。私自身は銀行で働き、30歳の時に起業しました。当時は、日本のスタートアップ投資環境は整備されていなくて、相応の準備が必要だったという事情があります。
一方で、ビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグのように、学生時代に会社を作って大成功した人もいます。だから、能力やタイミングは人それぞれです。自分がやるべきだと思うタイミングと、周囲の環境が合致していると判断すれば、それが踏み出すタイミングなのだと思います。
もちろん、誰もが起業家になるべきとは言いません。会社を立ち上げるのは本当に難しいし、困難が伴います。個人的に、半端な気持ちで起業するのはおすすめしません。
一方で、起業家精神を持つことは大切です。自分が今手がけている事業を通じて、いかに社会をよい方向に発展させていけるかでしょう。志は、どの組織にいるかにかかわらず、ビジネスパーソンが備えておくべき大切な素養だと思います。
翻訳・構成・編集: 蛯谷 敏(Satoshi Ebitani)
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