想いをもった作り手と消費者をつなぐECサイト「CRAFT STORE」などを手掛ける「ニューワールド」。陶器や漆器といったものづくりの若き作り手が、活動の幅を広げられるように伴走しています。
連綿と受け継いできた伝統や文化をどう守り、新しい風をどう取り入れるのか。その解を求めて、デジタルマーケティングの領域で挑戦をし続けているのです。大手新聞記者として2,000人以上へ取材経験を持つ西雄大が、井手康博社長に3回にわたり、今後の戦略やビジョンを描いているのか話を聞きます。
第1回目は「ニューワールドと作り手の関係」がテーマ。2020年は新型コロナウイルス感染拡大により、作り手を取り巻く環境は大きく変化しました。ニューワールドは何を考え、どう取り組んできたのかを井手社長に聞きます。
作り手の将来のために僕らができること
西:はじめにこの事業をすることになったきっかけや、事業への想いについて聞かせてください。
井手:ニューワールドは陶器や漆器といった作り手の皆さんのデジタル化を支援しています。作り手の皆さんにとって新しい挑戦ができるように、クラウドファンディングをお手伝いしたり、私達が運営するECサイト「CRAFT STORE」で商品を販売したりしています。ただこの事業にたどり着くまでは紆余曲折ありました。
私は20歳のときに中国へ留学し、起業のアイデアを考えていました。1年間で6つも事業を立ち上げた年もあります。ただ一貫してブレなかった軸は持ち続けていました。
消費者がお買い物をするサイト上に動画を付けることで訴求力が上がるのではないかという点です。いまの流行り言葉でいえば“コト”消費だったり、ストーリーに共感して商品を買う「共感型消費」と呼ばれている動きが近いですね。
たとえば同じ洋服であっても、「ファストファッション」「セレクトショップ」「古着屋」といったように消費者の趣味や志向に合わせた業態があります。どうしてもECサイト上は価格重視で商品を選ぶ傾向が強いです。しかし私はストーリーに共感した消費行動が、もっと活発になっていくのではないかと考えたのです。そして対象を「ものづくり」に絞りました。
共感型消費からトレンドは「応援型消費」へ
西:2020年は新型コロナウイルス感染拡大により、消費行動にも大きな影響を与えました。先ほどお話のあった「共感型消費」とはどのようなものですか。
井手:地場産業をどう継続させていくかを、ふるさと納税のような応援や貢献したいことにお金を払う方が増えてきましたね。私たちが行っている「オンライン陶器市」はその好例です。
これまで陶器市は実際に産地へ訪問して初めて得られる経験でした。しかしオンラインでは、一度にたくさんの産地を訪問できるので、現地へ行かずとも産地や頑張っている人達に対して、何か貢献ができることは今年も引き続きトレンドになっていくでしょう。
大切なひとにも、じぶんにも
西:なるほど。商品の売れ筋にも変化はでていますか。
井手:これまで結婚祝いや引き出物に使って頂くことが多かったです。2020年は結婚式こそ減りましたが、その代わりご自身用にライフスタイルを豊かにするために買って頂くことが増えましたね。
自宅で過ごすことが長くなり、マグカップや器といった普段使いの商品の質を高め、上質な暮らしを楽しむ方は増えた印象です。
本来であれば2020年は結婚式が延期や中止となっているので、私たちの売り上げは下がるところですが、ご自宅用が増えたことでおかげさまで今期も売り上げを伸ばせました。
西:では逆に、作り手の変化はありますか。
井手:自分達のお店以外でどう売っていくのか、ものを届けていくのかという考えが広がったこともあります。じつは有田焼のオンライン陶器市は、行政が主導して開催しました。参加される作り手達も増え、「新しいことに取り組まないと」という危機感が産地にも広がっていました。
西:危機感の広がりによって、商品やサービスに変化は出ていますか。
井手:顕在化するのはこれからかなと思っています。ECサイトは消費者に商品を販売し届けるだけでなく、お客様のコメントに対して対応するといったように関係構築がキモです。
顧客の声に耳を傾け商品にどう反映していくのか。またどのように付加価値を加えるのか。作り手の皆さんの意識が変わり、私たちにもご相談が増えてきていますね。
2021年にはその成果として、商品やサービスの変化にもつながっていくと確信しています。
西:そんな作り手の皆さんに、ニューワールドができることは何ですか。
井手:私たちは4年間「CRAFT STORE」というサイトを作り、改善を重ねてサイトの運用してきました。この積み重ねたノウハウは作り手の皆さんへご提供できます。Eコマースはマーケティングだけでなく、コンテンツづくり、在庫管理、カスタマーサポートなど多岐に渡ります。作り手の皆さんは作品づくりに集中できるように、我々ができることは担うといった役割分担を進めていきたいですね。
ネットを通じて使うときのワクワク感を届けよう
西:長年の経験が成果につながった例を教えて下さい。
井手:例えば写真の構図ひとつにしても、どういったシーンを写真で切り出して消費者の方々に伝えるのが、売り上げを左右する要素なのです。
しかし多くの作り手が自社で撮影する体制がなく、どうやってコンテンツを作り集客へつなげるのか悩む企業が多い。
ポイントは、商品を日常生活で使うとどのような上質な体験を得られるのか連想できる写真かどうかです。
成功事例が富山県の「能作」という作り手のInstagramです。
https://www.instagram.com/nousaku_official/
私たちがInstagramの定期的な投稿のアドバイス、フォロワーを増やす為の施作の提供、写真の撮り方講座といった、Instagram運用を軌道にのせる為のお手伝いをいたしました。現在はすべて「能作」が自社で行っており、1年ほどでコンテンツが1,000を超え、フォロワーも9,000人を超える規模になってきました。
https://www.instagram.com/craftstore.jp/
「CRAFT STORE」でもInstagramの投稿がきっかけでヒット商品になったアイテムもあり、非常に相性がいいと言えるのです。
次回:「次世代へつなぐために、作り手と我々がやるべきこと」に続きます。
取材・文:西雄大
構成:木山美波