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『監査は誰のもの?』~企業会計と環境リスクについて~

私たちは工場、物流施設、営業所、店舗などの会社事業を支える不動産の取引や利活用過程で、不動産の土壌・地下水汚染の評価と対応の違いが企業経営に大きく影響する場面を数多く目にしてきました。

そして、不動産の当該リスク対応と企業経営への影響を検討する中で、企業価値の維持と社会的評価や風評対策を模索・腐心される経営者のご相談に携わってきました。

そこで、経営者にとって次の三つの大きな壁が立ちはだかることに気づかされ、日夜その解決策に取り組んでいます。

①一つは不動産を有効利用するためには土壌・地下水汚染の調査や浄化対策をどの程度対応すべきか。

②二つ目は、土地利用に見合う環境対策方法とコストはどうすればよいのか。

③三つ目は、企業会計上当該不動産の評価と関係費用の取扱方はどうなるのか。

企業の土壌汚染対応状況をみると、2003年2月に土壌汚染対策法が施行され、その健康への影響や対応策についてかなり柔軟に受け止められるようになってきました。
しかし、未だに、土壌汚染の健康への影響や被害の実態を冷静に生活者の目線で受け止めることなく、環境関連企業のアドバイスのもと『汚染状況調査後法令に従って浄化する』方法が経営者の王道として認識されているようです。
そのため、不要または過剰なリスク対策により企業経営の非効率化や不振を招いたり、費用負担の目処が立たないため、折角の資産が放置・死蔵されて、企業にとっても社会にとっても勿体ない不幸な結果となるケースが散見されます。

土壌汚染対策法が施行されて10年以上が経過し、リスクを管理しながら土地利用を図る、つまり、リスクの完全除去より『リスク管理=リスク共存』への理解が徐々に広まってきており、法令遵守のもとで健康被害をもたらさずに土地が最も有効に機能するようなリスク対策を検討するケースが徐々に拡がりつつあります。
しかし、この動きはまだ一部のデベロッパーに限られ、投資家、金融関係、一般社会への浸透にはまだ時間が必要なようです。

上記の動きの中で、汚染の拡散防止等、汚染リスクを適法・的確に自社管理してその責任を全うするなら、上記①については時間及び関連コストを削減すること、②についても、当該土地の市場性を考慮した工夫が可能になりつつあると考えています。
しかし③については、企業業績及び価値評価の基となる財務諸表作成の基準となる企業会計で、企業活動のグローバル化の進展に伴い環境リスク対応ルール※が導入され、それが上記課題解決の足枷になるケースに遭遇しています。
※ 時価会計、減損会計、資産除去債務 等

投資家や広くステークホルダーに企業経営の実態と企業価値を伝えるため、企業の会計を指導・監査している公認会計士が投資家等に時価(現在価値)主義のもとで企業の価値(資産評価)情報を提供するとの錦の御旗の下で、『土壌汚染があれば現状ないし将来にわたる処理費用を最大リスクとして資産価値評価に入れるべき、ないし汚染があれば一旦利用価値ゼロとし、利用価値と対応コストを認識できたところで再評価すべきではないか』等、保有資産を有効活用して事業と企業価値向上を図る経営者の努力に水をさすケースが出てきています。

公認会計士は不動産活用(当該事業経営)や土壌汚染対応の専門家ではありませんので、短期的に確度の高いこと以外はリスクと捉える傾向にあり、中長期的な経営戦略に立った企業価値評価(経営目標)とは乖離した視点に立つことになり、事業リスクテイクしながら企業の発展を目指す経営者との調整に苦慮することになります。

事業資産を活用するには、明らかに目途が立たなく遊休化せざるを得ないものを除き、それなりの時間とトライアンドエラーが必要となります。
この事業展開と会計基準の時間軸との評価軸が調整されない限り、この問題の根本的解決は難しく、個々の事案の処理として、私たちのようなこの分野に広いスパンで関われる者が携わることになります。

企業経営では、上記企業会計問題に続いてガバナンス関連事項の強化が進んでいる最中、富士ゼロックス、東芝、日産、神戸製鋼所と大企業のガバナンス問題が発覚していますが、私たちは、その重要な背景の一つに、上記の企業会計制度が経営者や現場に投資家への利益還元に特化した短期的実績重視の成果要求に繋がっているためではないかと見ています。

因みに、欧州では、これまでの国際会計基準(IFAS)での短期時価主義的会計処理について、企業の事務負担(社会的コスト)や本来の企業経営目的・理念とのや乖離や対立を回避する方向の見直しの動きがあり、ドイツでは株式上場企業の『市場撤退=有限会社化』の動きも出ています。(同国では有力企業の非上場有限会社が多い)。
わが国でも上記会計制度の浸透に対する経済界から同様の要望があり、関係省庁の指導にも変化が出てきています。

以上のような環境の中で、私たちは、企業経営の目標実現に向けた幅広いステークホルダー対応を実現するため、環境技術・法令・各種社会制度・企業会計等を広く踏まえて経営者及び社会の負託に応えていけるよう努力していきたいと考えています。

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