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住宅デザインだけでなく、店舗デザインやSEKAI HOTELのコンセプトデザインもこなし、クジラデザイナー陣のメンター役もこなす松尾 翔。
お客様へリノベーションの企画・提案をする前に、「あともう少しプランをジャンプさせたい(質を上げたい)」という時に必ず意見を仰ぎたいクジラメンバー。
デザイナーとしての細部へのこだわりや、その価値観のルーツとなったエピソードを代表の矢野、ディレクターの田中がインタビューしました。
デザイナーとしてのルーツ
田中:私、実は翔さんとあまり一緒のプロジェクトメンバーになったことないんですよね…笑
矢野:だから今回はインタビュアーで!翔とは採用面接のタイミングからたくさんの話をしてきたけど、とにかく根っからのデザイナー。
矢野:2019年にみんなとホテルのデザイン視察に行った時も、翔がホテル中の細かなデザインについて説明しながら、館内を何周もしてくれた時は本当に感心したよね。
田中:あれはすごかったですね!「この人本当にデザインが好きなんだなぁ」って思ったの覚えてます。
田中:じゃあ早速、翔さんのクジラに就職する前の話から聞いていいですか?いつごろから建築とかデザインの道を考え出したんですか?
松尾:幼稚園の時には大工さんになりたかったし、高校生の時には「将来自宅をデザインしたい」って思ってたね。
松尾:大学は名古屋市立大学の芸術工学部/建築都市デザイン学科を選んで入学したんやけど、あんまり真面目な学生生活は送ってなくて。笑
でも大学院に進学して、そこでイタリア留学したことが大きなきっかけになった。デザインに取り組む姿勢も180度変わって、今の自分に繋がる大きなターニングポイントになってると思う。
田中:イタリア留学で自分の価値観が180度変わるほどの感動とかがあったってことですよね。社内のみんなも翔さんのリノベーションプランに「ここまで細かくこだわるのか」って良く言ってるのも、ルーツはこのイタリア留学かもしれませんね。
松尾:イタリアに行って最初に感動したのは、とにかく住まいの中の雰囲気、空気感。イタリアでの時間が経つにつれて「特にちゃんと意識しなくても、DNAレベルで暮らしをデザインする感覚がイタリアの人にはあるんやな」って思うようになった。
矢野:建築やデザインのプロじゃない、一般の人たちの暮らしにそこまでデザイン感覚を感じたってこと?
松尾:そうです。本人たちはおそらく「デザインしている」という感覚も持ってないくらい自然に感じました。
田中:そう聞くと、翔さんのリノベーションプランって「暮らしの細部にこだわっている」と思えてきますね。
Works|Designer 松尾 翔
戸建リノベーション
松尾:例えばこのリノベーションプランだと、お客様に「一階のリビング部分は間仕切りを設けずに広く使いませんか?」と提案したらとても喜んで頂けたので、真ん中に来る階段の手すりを変に存在感を出さないスマートなものにするために、金物屋さんに手すりの図面を描いて特注したよね。
他にも、本好きのお客様と本棚のサイズや周辺の開放感についていろいろ議論したり、寝室横のフリースペース部分がベッドから可愛く見えるように、「アーチ型の開口」「壁面クロスの柄」「設置する家具」の組み合わせパターンをいくつも検討したり。
田中:当時、オリジナル階段の工事がとても大変だったって聞きましたけど、どうでしたか?
松尾:かね折れ階段(L字に曲がる動線)の多くは、壁を作って階段の重みに耐えられるように作るけど、このリノベーションでは解放感を出しつつ、階段そのものの見栄えもシンプルで軽やかな印象にしたかった。
そして一番の目的は、窓から見える素敵な眺望が住まいのどこからでも見えるように設計したかったので、階段そのものが眺望を遮るものにならないようにしたかった。
▲階段の設計図面
松尾:具体的には、階段の踏み板や桁などの寸法と強度のバランスについて何度も図面を作り直して、僕と施工管理スタッフ・大工さん・階段メーカーで何度も議論した。
矢野:この手間のかけ方って、良い住まいづくりにすごく重要なんやけど意外にお客様に伝わってなかったりするんよねぇ。リノベーションの仕事って、ほとんど結果しか見られない中で、これだけプロセスに労力かけるって素晴らしいと思う。
松尾:最終的に完成した階段を見たお客様の嬉しそうな表情を見た時が、デザイナーにとって報われる瞬間でもありますけどね。
SEKAI HOTEL
矢野:クジラで働くようになって、SEKAI HOTELなどのブランドを作る側としても携わるようになったけど、デザイナーとして心境の変化はある?
松尾:やっぱり、ある程度指示された上でデザインを考えるのと、住まいやビジネス・サービスのそもそもの目的からしっかりコンセプトを考えて、そこに空間のデザインをプランしていくのは全然違うって痛感しましたね。
矢野:面接の時から「空間をデザインするだけでは意味がないから、もっと広くデザインするチャレンジがしたい」って言ってたよね。
松尾:クジラに入社して、「なぜこの空間のデザインを必要とするのか?」という大元のコンセプトから考える機会が増えて、とても勉強が必要だったので苦労しました。でも今となっては空間デザインを考える上で大きな成長となりましたね。
矢野:町工場が多い東大阪で「どんなホテルデザインにしよう?」っていう議論をめちゃくちゃたくさんやったよね。
松尾:最終的に「町工場に泊まれたら面白くない?」っていう方向に落ち着いたおかげで、空間デザインはすごく考えやすくなりました。
松尾:方向性が考えやすくなった分、細かな部分のデザインにはたくさんの手間をかけましたし、たくさんの人に協力していただきました。
田中:SEKAI HOTELの照明のいくつかは、東大阪の町工場とコラボしてデザイン・製造して使ってますよね?
松尾:そう。照明の設計から携わって本当に大変だったけど、「泊まれる町工場」っていうのがとてもいい形で体現されたと思う。
矢野:基本的に建築家やデザイナーって、完成して引き渡したら終わりってことがほとんどやけど、SEKAI HOTELというブランドと長期的に「一緒にやっていく」という感覚については翔の場合どう?
松尾:一番の気づきは引き渡し後もSEKAI HOTELスタッフとのコミュニケーションが続いたことで、デザイナーとしての反省がいくつもあったことですね。
SEKAI HOTELを最初にデザインした時はとにかく宿泊されるお客様のことを考えてプランして、それをSEKAI HOTELスタッフにOKもらう形でリノベーションしていきました。
でもいざ出来上がった客室が営業開始するとSEKAI HOTELスタッフから「掃除しづらかった」「頻繁にメンテナンスが必要で手間がかかる」などの相談がいくつもきました。
事前にあれだけの議論をしてプランしたデザインなのに、これだけ相談が来てしまうことを重く受け止めた時に、SEKAI HOTELスタッフであれ、そこに宿泊されるお客様であれ、建築については素人である人たちの「上手く言えない要望」をもっと引き出せるデザイナーを目指していかないといけないなと思いました。
矢野:ブランドと一緒にデザイナーも成長していくってものすごく素敵やね!
「暮らし」という言葉の意味
矢野:改めて、イタリア留学の時に感銘を受けた時の話も詳しく聞いていい?
松尾:はい。ベネト州のパドヴァ大学に6ヶ月間留学してました。
最初は大学院の先輩に留学の制度を聞いてカルロ・スカルパ(建築家)の出身地であるベネト州で彼の作品を見たいと思って軽い気持ちで。でも行ってみると、日本の建築との違いにびっくりするばかりでした。
矢野:カルロ・スカルパね…(知らない)
松尾:大学院生の自分でもわかるくらいに日本の建築は分業されています。でも、僕がイタリアで見た光景は一人の建築家が「暮らしそのものをデザインする」というものでした。
矢野:「暮らしをデザインする」って良いなぁ。
松尾:いわゆる意匠設計だけやるという感じではなく、その住まいで使うカトラリー(ナイフやフォークやスプーンなど)や食器、カーテンに至るまでその住まいの一員かと思うほど全部を施主と一緒に考えて作るデザインでした。
そんな光景を見ながら過ごしたイタリアでの6ヶ月は、僕にとって建築やデザインの持つ意味を深く考えさせてくれた時間と言えますね。
田中:そこから真面目な学生生活に切り替えたんですか?笑
松尾:まさに。笑
幼稚園の頃から大工に憧れてたのに、大学ではがんばれなかった原因が「憧れていた建築と、実際に見た建築にギャップがあった」ことにだったことに気づきました。イタリア留学を経験したことでもう一回自分が小さい頃に憧れた建築に携われるデザイナーを目指そうって思えてスイッチが入った。
日本に帰ってきてからは、いかに早く一人前のデザイナーになるかばかり考えるようになって、大阪で一番経験が積めそうなデザインオフィスにインターンとして働かせてもらった。もはや大学院の時間すらも無駄に思えてしまって、そのまま中退して働くことにしました。
田中:それで大学院中退したんですか!?
松尾:そう。もうその頃には自分の将来しか見てなくて目標も明確に掲げた。
目標①とにかくデザインを磨くこと
目標②いつかホテルのデザインをすること
目標③デザインを目的ではなく「手段」にしている企業やチームに入ること
田中:目標③について詳しく教えてもらえますか?
松尾:大学に入って、たくさんの建築の事例や教授の話を聞いていくうちに感じた一番のギャップが「建築が目的になってしまっている」ってことだった。
矢野:「作るべきモノではなく、作りたいモノを作ってる」っていう話やね。
松尾:そうですね。意匠的に素晴らしいものでも、住んでいくうちにすぐに雨漏りなどの不具合が生まれたり、住む人の使いやすさよりデザイン性を優先している事例がたくさんあることを知ったことで、なんだか自分が憧れていたものに冷めていく感覚がありました。
でもイタリアで見た「暮らしをデザインする」ということが、自分が幼稚園に通っていた頃から憧れていた建築そのものだと思って、そんなデザイナーを目指せることに夢中になりました。
なのでとにかく自分の腕を磨いて、見た目のカッコ良さを優先する建築ではなくて、人々の暮らしを豊かにするためにデザインを手段として選んでいる企業やチームに入ることを目標にしました。
クジラのデザイナーとして
田中:翔さんのひとつの目標・目的に集中し出したら他が見えなくなる感じ、事務所でもよく見ますねぇ。
田中:そこから大学院辞めるほどの熱量でその目標を追いかけ続けて、クジラに辿り着いたんですよね?
矢野:懐かしいなぁ。一緒に食事しながら翔が「空間だけじゃなくて、全部をデザインしたい」って言ってたの思い出した。
松尾:懐かしいですね。
矢野さんから話を聞いて、クジラは建築やデザインを目的とせずに、お客様の暮らしを豊かにすることを目的としているし、そのために建築やデザインという手段を選んでいるなって思いました。
デザインオフィスの多くは「カッコいい」ことが最優先しすぎている気がします。でもその「カッコいい」って誰目線なんだろうって。
矢野:クジラのミッションが「未来に繋がる『カッコいい』を創る」というのも、誰にとってカッコいいものを作らないといけないのか?っていう深い問いに繋がるよね。
松尾:本当にそう思います。建築について知識が浅いお客様の「カッコいい」を引き出すために、クジラはお客様も含めたチームとしての働き方にものすごく力を入れてますよね。これが前職との一番大きなギャップでした。
田中:私もクジラに入社した時はチームとしての働き方について苦労しました…泣
松尾:お客様からするとリノベーションってたくさんのプロが出てくるんですけど、実は、業者側は個人プレーを順番にこなしてる場合が多いんですよね。営業が接客したら、設計がプラン、契約した後は工事部が作る、みたいな感じで。
でもクジラはお客様から相談を受けるスタートのタイミングから、リノベーションが完成して引き渡すまでずっとチームで動くことを大切にしている。自分のスケジュール管理やチームメンバーやお客様とのコミュニケーション方法、お客様の予算についての捉え方など多くの点でデザイナーとして変われたと思います。
矢野:個人プレーを束ねてリノベーションという仕事をするのは、お客様の住まいの自由度を下げることにつながると考えているから、お客様と我々がひとつのチームとして終始議論しながら、さらにフレキシブルに情報共有しながら動いていくっていうのはかなり珍しい働き方になるよね。
入社して4年になるけど、チームとして働くことにも慣れて、ブランディングなどの「全体のデザイン」にも携わるようになった今はどんな目標を掲げてる?
松尾:まだまだスキルや感性を伸ばし続けていく必要性はありますが、もっとリノベーションの上流から下流の隅々まで関わっていけるデザイナーを目指したいです。
それが、住まいであればお客様がなぜリノベーションしたいと思ったのか?普段はどんな価値観で行動しているのか?新しい住まいでは、日常的にどんな過ごし方をしたいか?などを理解した上でデザインしていきます。
もちろん、お客様が住まいに求めていない過ごし方であっても、それが我々から見た時に「知らないうちにお客様があきらめてしまっている」というような内容であれば、しっかり問いかけていきます。
引き渡した後も、お客様から気軽に連絡もらえるデザイナーを目指して、イタリアで見た「暮らしをデザインする」を体現できるようになりたいです。
住まい以外では、矢野さんと一緒に企業やサービスなどブランディングに関わることが増えてきましたが、クライアントがなぜそのサービスを始めようと思ったのか?からしっかり理解したいです。
一度作って短期間で利益を上げて終わるようなブランドではなく、長期的に社会に愛されるようなブランドを目指す場合、顧客が集う場所のデザインの責任はかなり重いと言えます。
ブランドの根幹から理解し、長期的に伴走できるデザイナーを目指していきたいです。