希望の党の政策で内部留保課税が議論されている。
このような場合、しっかりとした理論的なフレームワークでロジカルに分析していくことが必要である。雰囲気にながされてふわっとした議論にながされてはいけない。
内部留保課税で企業行動に影響を与えようという政策を吟味するには、企業価値の理論で分析することが必要となる。そこで企業価値理論の根幹となるEVAの3つの道具(投下資本、利益、投資家の要求するリターン)を使って分析を試みた。
結論は以下の通りである。
内部留保課税はむしろ投資を抑制し、配当を引き下げ、賃金を下げることになろう
内部留保に課税をかけることで、企業が、ためて課税されるよりは、①投資する、②配当する、③賃上げにつかう、
という形でお金が回るようになり、経済が活性化するという考えである。
もっともらしい話であるが、EVAの視点で本当にそうなるのか分析してみると、
答えはNoである。
つまり、内部留保課税が導入されれば、
①投資はむしろ抑制され
②配当もむしろ下がり、
③賃金もむしろ下がる
というのがEVAのフレームワーク(投下資本、利益、投資家の要求するリターン)からの結論となる。
なぜそうなるのか説明しよう。
①なぜ、内部留保課税が導入されると投資はむしろ抑制されるのか?
企業は、銀行からの借金や株主からの資本金、そして内部留保を投下して活用してキャッシュフローを生み出す経済活動を行う。
投下されたお金は「投下資本」と呼ばれる。例えば、銀行から20億円、株主から資本金を30億円、内部留保が50億円で合計100億円を「投下資本」として企業活動に利用しているとしよう。投下資本は以下のように計算される。
投下資本=借金20億円+資本金30億円+内部留保50億円=100億円
資本金と内部留保は株主のものなので、合計で「株主資本」と呼ばれる。
株主資本=資本金30億円+内部留保50億円=80億円
となる。
割合で言えば、この企業は、投下資本を銀行から20%、株主から80%調達していることになる。
資本とは経営資源であり、企業は利用した経営資源の所有者(すなわち借金であれば銀行と、株主資本は株主)に対して、
満足するリターンを超えた利益を上げることが求められる。
銀行が1%、株主が6%を要求していたとしよう。すると投下資本全体では、企業は
1%×20%+6%×80%=0.2%+4.8%=5% のリターンを上げなくてはならない。
つまり5%が「投資家の要求するリターン」となる。
例えば、100億円の投下資本をつかって6%のリターンを上げるプロジェクトがあれば、5%を上回っているので投資が行われることになる。
100億円を使って6億円の利益が生まれるのであれば投資が実行される。
ここでしかし、内部留保に3%%の課税がなされるとどうなるだろうか?50億円×3%=1.5億円、課税しなければならない。
するとリターンは4.5億円となる。そうすると銀行と株主を満足するリターン(5億円)を上げることができない。
銀行や株主から見ればそんな投資は実行するなということになるため、投資が抑制されかねない。
以上から、内部留保課税が導入されると投資はむしろ抑制されることになる。
②なぜ、内部留保課税が導入されても配当が拡大しないのか?
配当政策は理論的には、成長性と投下資本に対するリターンから合理的に導き出される。
わかりやすく言えば、
投下資本に対するリターンが10%で、成長性が7%であれば、10%-7%、つまり投下した資本から生まれたリターンのうち3%ポイント
のお金はあまるということになる。これが理論的には配当原資となる。
しかし、内部留保課税で投下資本のリターンが9%に低下したとすると、9%-7%=2%ポイントしかお金はあまらない。
よって、配当に回す余裕がなくなるので配当はむしろ低下するだろう。
③なぜ、内部留保課税が導入されるとむしろ賃下げとなるのか?
企業が銀行と株主が要求するリターンを上回る利益を上げることを企業活動の主眼とするのであれば、内部留保課税で利益が減ればそもそもそれをなんとかカバーしようとコスト削減をおこなおうとするだろう。
そう考えると賃上げなどする余裕など生まれるはずがなく、むしろ賃下げとなろう。