Finatextグループでは、新たな時代の金融システムの担い手を育てることを目的に、様々な分野を代表する研究者や実務家、政策決定者等の講師陣から最先端のテクノロジー・金融システムを学ぶ講座「近未来金融システム創造プログラム」を2017年から開講しています。
東京大学本郷キャンパスを会場に隔週で開催されている本講座。毎回約80名の受講生が参加し、これまで東大生をはじめとする大学生や大学院生、社会人など累計300人超が受講しています。
去る2月4日、第3期最終講義「総括討議パネル」が伊藤国際学術センターにて開催されました。その様子をFinatextインターンで本プログラムの事務局でもある佐々木さんにレポートしていただきました!
第3期「近未来金融システム創造プログラム」最終講義『近未来の金融システム』
第3期の最終講義は、「【総括討議パネル】近未来の金融システム」と題し、blockhive
Group co-founder, CEOの日下光氏、大阪大学准教授の安田洋祐氏、衆議院議員・前内閣府大臣政務官・金融担当の村井英樹氏、一橋大学院客員教授・前金融庁総合政策局長の佐々木清隆氏らをパネリストに迎えて開催しました。モデレーターは、本プログラムの統括責任者であり、Finatextグループのナウキャストにて会長を務める赤井が担当いたしました。
以下、セッションで提示されたテーマごとにレポートしていきます!
講義を振り返って
はじめに、第3期の講師も務めたパネリストの皆さんにそれぞれの担当回を振り返っていただきました。
日下氏は「社会経済のデジタライゼーションと金融」、佐々木氏は「FinTech vs. RegTech vs. SupTech」、安田氏は「資本主義と金融」および「金融リテラシーって何だろう」をご担当。第3期も金融とテクノロジーを産官学の観点から多面的にとらえたレベルの高い講義が展開されました。
役に立つ金融になるための条件
振り返りの後は、「役に立つ金融になるための条件」について議論が交わされました。
佐々木氏は「そもそも、銀行法上の国民経済の健全な発展や国民の富の増大といった大義が重要」とし、村井氏は「FinTechが進めば、結局役に立たない金融機関は淘汰されていく」と話しました。安田氏は、「決済事業者における現在のゼロ金利下では、将来金利が上昇した際のリスクが度外視されている。実際に収益が悪化した際に連鎖倒産の可能性もある」と懸念を示しました。
デジタライゼーションは本気か?
昨今話題に上がるブロックチェーン技術ですが、実際にブロックチェーンを使ったデジタライゼーションは本当に既存の金融を変えうるのでしょうか。
日下氏は、エストニアで電子政府やブロックチェーンを活用した官民サービスを実際に体験した経験から、「世界的にもブロックチェーンの時代は来ており、レギュレーションとイノベーションは切り離せない。日本では仮想通貨ばかりがフォーカスされてしまい、ブロックチェーンの浸透には時間がかかる。ビッグプレイヤーが取り組めていないことも問題である」と指摘。村井氏は「ブロックチェーンの技術自体は日本でも使われるようになるし、そうなるとBtoB企業のポイント経済圏が作り上げられてくるのではないか。ポイント経済圏ができてくれば中央銀行が危機感を覚えて動き始めるのではないだろうか」と、ブロックチェーンの進歩がデジタライゼーションを加速する可能性について期待を示しました。
金融の解体とFinTech
多彩な金融サービスを展開するFinTech企業が存在感を増す中、金融業界はどう変わっていくのでしょうか?
安田氏は「価値経済、お金を基準とした通常の市場経済とは異なる基準でワークする経済圏が出てくるのではないか。しかし、ある種のセーフティネットは期待できるものの、信用という相対的な尺度に依存していることが問題点」と指摘します。佐々木氏は「金融は元々バーチャルなもので、お金の流れが見えることが金融機関の強みだった。今ではお金の流れのみならず、データそのものが価値を持つ時代になっており、データをどう活用するかが今後金融をディスラプトするうえで重要になってくる」と述べました。また、近年話題に上っている“アマゾン銀行”について村井氏は、「日本でアマゾン銀行を設立することは、法律上は可能だが、アマゾンの世界戦略を見ると必ずしも日本の煩わしい規制をかいくぐってまで銀行を作ることをしないのではないか」という見通しを示しました。
規制vs.利用者ニーズのバランスと金融システムの近未来
仮想通貨流出問題などを受け、新しい金融テクノロジーに対してネガティブな見方が広がる中、いったいどこまで新しい技術を規制するべきなのでしょうか。
佐々木氏は、規制当局に所属していた経験を踏まえ、「近年プラットフォーマーにデータが集中するようになっているが、データそのものが持つ意味合いが根本的に変わってきており、それが金融においても起こっている」と指摘し、安田氏は「従来のモノ作りは大量生産大量消費の売り手独占でカスタマイゼーションが犠牲になっていたが、データによってカスタマイズされて量と質のトレードオフがなくなっていく。今起きているのは買い手独占、それがある意味で問題なのではないか」と、独占市場の変化について語りました。また日下氏は「個々人のデータ『マイデータ』とビッグデータとを分けて議論しなければならない。プライバシーと利益のトレードオフが起こっていることが根本的な問題だ」と指摘。それに対して村井氏は「BtoB企業に対しての規制を本格的に始めていく予定で、そのためのガイドラインも作成している。しかし実情として現場レベルでは混乱がある」という認識を示しました。ポリシーメイキングの現場では、プラットフォーマーに対する規制をどう行っていくのかについての議論が依然として続いているようです。
日本を金融先進国(近未来の金融リーダー)に飛躍させることは可能か?
中国の躍進やAI技術の発展、収益性の悪化など、既存の金融機関はビジネスモデルの見直しを迫られています。
日本の潜在的な金融先進国としての能力について、村井氏は「日本は個人の金融資産が大きいので、FinTechによって貯蓄から投資へ金融資産が動き出せばよいと思う。FinTechをはじめとした新しいサービスを伸ばしていかなければならない。しかし、規制は既得権益に優位に向かいやすい。政治家もマスで見るときれいに動いてくれるわけではない」とし、日下氏は「ポテンシャルはある一方で中途半端に市場規模がでかい。競争領域と非競争領域の違いがあいまいで、今までと違う線引きをしないとガラパゴスが進んでしまうのではないか」と警鐘を鳴らしました。佐々木氏は「そもそも金融は何のためにあるのか。外見のツールは変わっても、機能は今と根本的には変わらないのではないか。最終的には国民経済の発展のためにある」と、三者三様の回答となりました。
「近未来金融システム創造プログラム」への期待と注文!
最後の結びとして、「近未来金融システム創造プログラムへの期待と注文」という名目で、各講師陣から現状の金融の課題とその課題解決に向けての糸口を語っていただきました。
日下氏は「デジタル社会は非常に速く変化している。結局は『べき論』に戻り、技術もサービスも自分の中で明文化することが大切」とし、村井氏は「皆さんに新しい時代の金融の主役になってほしい。いろんな分野を知り、未来を見通さないといけない」と若者に向けエールを送りました。佐々木氏は「金融を担うのは金融機関だけではない。国民のために低コストで社会課題を解決するプレイヤーが出てきてほしい。ぜひ若い人にはチャレンジしてもらいたい」、そして安田氏からは「日本は社会課題が目に見える形で出てきている一方で、既得権益者がいまだにいる。すでに出来上がったツールや理論を勉強するだけではなくて、社会のニーズを把握することが必要だ。また大企業は自社のカニバリゼーションを避けるためにイノベーションに踏み出せないのではないか、そういったものの解決には制度が必要でありゲーム理論的な発想が必要になってくる」と、社会課題の解決のための金融であり、技術であることを改めて強調しました。
以上で第1部のプログラムは終了となり、第2部では懇親会がファカルティクラブにて開催されました。この懇親会も本プログラムでは重要な役割を果たしており、受講生同士のみならず、受講生と講師をつなぐ場となっています。この日も講義では聞けなかったレベルの高い議論が交わされており、1年を通じてコミュニティが洗練されてきているのを実感しました。
レポートは以上となりますが、最後にお知らせです!
第4期も開講決定&東京大学の特別演習に協力!
これまで続けてきた「近未来金融システム創造プログラム」の経験を活かし、2020年4月から始まる東京大学大学院工学系研究科の「システム創成学特別演習4C」科目の講義に協力することが決定いたしました!!
第4期となる新年度も引き続き「近未来金融システム創造プログラム」では、次世代の金融システムを創造していくという気概と意欲のある方を募集します。プログラムの詳細やプログラム受講生の募集開始は、続報をお待ちください!
佐々木さん、レポート&お知らせありがとうございました!
皆さんもぜひ、第4期プログラムの公開を楽しみにお待ちください!