①に引き続きサブリメイションでコンポジターとして活躍されている3人のインタビューをお届けします。
いまサブリメイションではCGクリエイターという形で求人をかけているんですが、ジェネラリスト志向の方が将来的にコンポジターには向いていますか?
大石:対応しやすいと思うんですよね。
本田:AfterEffectsを触るからといってそれだけだと思っていると多分辛いと思う…。AfterEffectsだけというのが希望ならば撮影さんのほうが合いますね。あくまで自分たちの場合はアニメCGスタジオのコンポジターなので。
大石:理解がないと前工程にアプローチができないですし、様々な対応もできないというのがあるので。
長嶋:素材の出し方が分からないと、何もできない!ってなっちゃう。
本田:レンダリング時間も具体的に自分でテストしないと把握できなかったりするし。あとは、ボタン押せば素材が出力できるような仕込みをあらかじめしておいて、アニメーターが素材出力することも可能なようにしてますね。なので、アニメーター自身は自分が今出力している素材がどういうものなのか把握してないんじゃないかな。それでも何とか回るようにしていくっていう(笑)。
ちなみにそういうのは手順書みたいなのを作ったりは?
本田:作ることもあるけど、プロジェクトが進んでいく中で結構変わってくから。
長嶋:BGの出し方教えてって言ったら手順書は無いって言われた(笑)。
本田:だってBG(=背景)は毎回違うし。欲しかったのは「どういう意図でこういう素材を出しているか」でしょ?
長嶋:そう!
本田:それは美術ボードを見ながら、モデルを見ながら、毎回その都度考えるから!
長嶋:そうなんだ!
本田:だからお腹痛いのよ(笑)!
想定される演出内容を見据えて、素材を毎回試行錯誤して決めていると。
本田:植物が入る度に頭抱えたりとか、半透明のもの同士で干渉するから出せないとか。
大石:素材出しの仕込みの段階で設計してるんですけど、さらにもっと「もしも」の時用の素材とかあったりするんですよ。
長嶋:保険の素材はいっぱい出力していますね。
本田:カメラが動く前提とかあったりするんで。
あー3Ⅾだから…。
大石:何か見えてしまうことも...。デフォルトでは使ってないんだけど、マスク素材が用意してあって、万が一の時はそれを使うみたいな(笑)。
本田:カットリストや演出のコンテを確認しながら、たまにしか見えないけどマスクが必要なもの、数カットしか出ないならスペシャル扱いにする、など洗い出しをします。5カット以内だったら、モデラーまで戻すのではなくコンポジター側でマスクの仕込みをやってしまおう、という場合もありますね。仕込みがある関係上、背景モデル自体こっちで考えてるっていうのもあります。構造を何も把握してない人が作ると仕込みをするにしても後で構造がぐちゃぐちゃになる可能性があるんです。
サブリメイションの「手描きと区別がつかない」というレベルのCGはコンポジターのこういった努力もあるのかな、と思うんです。
大石:やっぱりアニメ系の3Ⅾ会社である以上、元々手描きの補助として生まれたところがあるので、その結果としていかに手描きに馴染むかっていうのはずっと研究してるところではありますね。
長嶋:違和感が出なければいいなっていう。
本田:特にこっちのプロジェクトではCGとセル画が混ざったりすることが多いので、昔から言ってるのは作画の画が流れた後CGになった時に、「夢から覚めないようにする」っていうのが一番!
違和感がないようにということですか?
本田:推しの子が映った次の瞬間に3Ⅾになって視聴者が「スン…」ってならないようにする、っていうのを目標にしてたりするんで…。
長嶋:なるほど!
本田:多分間にセルが挟まらないってなるとまたちょっとアプローチが違ってくると思う。
求められるものが違ってくると。
本田:セルでは再現できないエフェクトを入れられたりするかな。それでもやっていいこと、やれないこととか色々あったりして、プロジェクト毎で何がそうなのか多少の空気読みが必要になるのを考えると少しキャリアが必要になるかもしれない。
そうすると新卒でいきなりコンポジターへの配属は厳しいですかね?
本田:まぁ、手先の技術だけでどうこうという話でもないので…。
大石:画づくりをする部署ではあるんで、絵を描いている人が強いなって印象はありますね。
本田:背景込みの絵を描いてる人は向いてますね!
大石:1枚絵として完成させてるという経験が大事で。自分の所の新人お二方とも絵を描ける方で、やはり飲み込みがすごく早くて。いなかったらどうしてたんだろうっていう…。ほんとにもう頭が上がらない!
確かにあのお二人は早々に一線級で仕事をしていますね。
大石:仕上げの工程なので、何が良いか悪いかは全体としての完成が見れないと、バランス取れないんで…。
本田:求められるゴール自体は演出次第で変わってくるんだけれども、多分そういうことをやったことが無いと光に対する意識なんかもなかなか無い気がする。
大石:どこにハイライトが入るとかっこいい!とか、こうなると可愛い!とか、そういう画としてのこだわり。
長嶋:それは慣れというか経験次第では…(笑)
本田:グッとくる瞬間の逆光のセオリーって実写映画とかでもあったりするんで、そういう風なことを意識して鑑賞したことがあるかということですね。
大石:影の入り方がかっこいい、かっこよくないとかそういうの見てるっていうのはありますね。「あ、この瞬間の影の入り方かっこいいな!」とか、「このハイライトにグローが入ってるとすげぇ感動する」とか、そういう画の部分をよく見ますね。
日常でもそういう部分が気になってしまう?
大石:やっぱりそういう意識はありますね。朝日を見るにしても「こういうのが朝日っぽいな」とか、「こういう時の朝日の逆光がこうなるとかっこいいな!」とか!何がかっこいいかとか良いかとか常日頃考えてしまう…。
本田:夕焼けとか朝日とかのシーンって人を感動させやすいけど、それはどこのどういう要素だろうな?とかね。
大石:影が伸びてて、オレンジと影の黒い色のグラデーション感だとか。あと時折アニメ的な嘘として、絶対影が落ちないのに怒った時とか落ち込んだ時に影が落ちるんですよ。それは現実じゃありえない。でもアニメ的な気持ちの表現、精神的な部分を陰で表したりとかもするっていうのもあるんで、そういった知識も必要だったりしますよね。
本田:これもよくある話だけど、地面光ってるのに接地感無くなるから落ち影置いたりする(笑)!
大石:画として何か違和感がある、じゃあその違和感に対してどうしたら説得感が出るか、っていうのをどうにかする感じですね。キャラクターの気持ちが落ちこんでいるのか明るいのか、じゃあ影の量はどうなるとか。画としてキャラクターが立ってる場面がほんとに立ってるように見えないという時は、立ってないように見えるのはどうしてなのか、どうしたら立ってるように見えるのかっていう解決法も出さないといけないですね。
なるほど。
大石:背景とキャラがちゃんとひとつの画として存在してると分かるように。
本田:普通の時と普通じゃない時でライティングを変えて表現することもありますね。
非日常性をそれで演出する?
本田:この瞬間にこの子可愛いとか、かっこいいとか思ってもらわないといけないシーンではちょっと逆光だったり、ちょっとハイライト強めだったり、違和感でほんの少し引っかかりを持たせることで視線を誘導したりとか…。背景であれば、そこがどういう場所か、暖かい寒いなど、そういう色味的な部分も含まれますね。
聞いてると難しそうだけど、面白そうな仕事だなと感じます。考えるのが好きな人は結構向いてそうですね。
本田:そうですね。ただ本当に考えることはめちゃくちゃ多いんで…。
聞いてるだけで考えすぎてお腹痛くなってきそうです(笑)。
本田:一番大変なのは、こっち側は色々とすごい考えるんだけど、見る人には何も考えずにスッと入ってきて欲しい!というところですかね(笑)。
長嶋:違和感ないように。
大石:気づかれないような工夫をしてさらっとOKもらった時の方が「ヨシ!」ってなります。逆に、すごいこだわってたりしてそれなりに時間かけてるものに対してサッと特に指摘もないままOKになったりすると、それはそれで「あ、いけた!」みたいな達成感があったりします(笑)。
では、最後に興味を持ってくれた人にメッセージなどお願いします!
本田:割と新卒時代からこっち側にいるけど…、おすすめしないからね!?
大石:この3人は流れでこっち来てる人達だから…。なりたくてなってる人ほぼいないんすよ!
長嶋:なんか割り振られた、みたいな(笑)。
本田:気づいたらどうもここが俺の住処らしい(笑)。
それはそれで、腕を認められたということだと思いますけど(笑)。
本田:やっぱり写真撮ったりとか、普通に絵を描いたりとかをやってきたからやれてるところもあるんで、色々とすることを考えたりしながらやってきたことの積み重ねが今に繋がっていますね。とにかく手を動かしてやってみるというのは無駄にはならないんだろうな、と。
長嶋:色んなことやってる人の方ができそうですよね。これ!って特化してるよりは。
本田:夕日や朝日見て実際に感動したことあるかどうかで引き出しの量も変わるし…。海に沈む夕日みたいなものも、ただオレンジでオプティカルフレアだ、とか考えちゃうと感動がアレになっちゃったりするから(笑)。この引き出しとか考えると色々なモノを見ておいて損はしないだろうなと思う。
サブリメイションのやってきた作品でもジャンルが豊富ですよね。きらびやかなアイドルの世界から、血みどろなアクション系であったり、宇宙戦艦がビーム撃ったり爆発したり。
大石:SFもアイドルもやってますからね!
本田:やったことのないジャンルとかあるんだろうか…。だからこそ、色々観とかないとね。
大石:何がかっこいいとか可愛いとか分かってないと。
本田:その引き出しがあれば、それだけで取っかかりになったりするんで。多分自分の好みを言語化できる人って、監督どうこうに関わらずほとんどいないんですよね。コミュニケーションを取っていくとそこで引き出しがきっかけになって、SF感が足りないと言われたら「この監督ならパイプ足してみるか」とか。
大石:コンポジターは基本的には後工程ではあるもののルック開発も担当するので、どんな感じのルックにするのか作っていくにあたって、監督が何が好きかを把握しておくとOKをもらいやすい。
本田:やっぱこう、興味の無い人からすると同じに見えても、同じSFでも違うじゃないですか。アイドルだってそう。なんとなくでも傾向であったり雰囲気を掴んでおくと楽だよね。
長嶋:めちゃくちゃ詳しいという必要は無いですね。
本田:そうね、ただ適度に使い分けられるくらいには必要かな。
長嶋:まずは引っかかりさえあれば。
なかなか楽しい話を聞けたのですが、最後にまとめると…?
本田:何とかして終わらせて納品するお仕事です(笑)!終わったことにするお仕事です!
大石:エラーさえなければね!
本日はお忙しい中、ありがとうございました!
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