この会社を継ごうと意識するようになったのは、大学1年生の時、教養科目で日本庭園のことを学んでいたときです。その授業で先生は「エイジングの美」という話をしました。
建物や製品などは完成したときが一番良い状態で、使っていくうちに古くなってだんだん悪くなっていくけれど、庭園は違う。完成したときにはまだ樹木は根付いてもいないが、年月が経つにほど樹形が整い、庭石には苔が生えて美しくなっていく。
...という話でした。この話を聞いて、100年を超える社歴のある会社には、得がたい価値がある、自分はその会社を継ぐことができる立場にあるなら、それを活かさない手はないだろうと考えるようになりました。
ただし、ただ歴史があるというだけでは財産にならないということは、常々感じていることです。例えば森信建設ではこんな工事もやってくれるんだね、と言われたことが何度もあります。どうしてそんなことを言われてしまうのか、それは当社が日頃どんな工事をしているか、皆さんに伝える努力をしていないからです。私がこの会社に戻ってきた頃、会社の倉庫にはこれまで建ててきたたくさんの建物の図面や写真がありましたが、WEBサイトに掲載している実績はほんの一部でした。今もまだ全てを掲載できてはいないですが、色んな建物を建てたり、色んな改修工事に取り組む技術がある会社であることは、ようやく伝わるようになったかと思います。
私は、目の前で起きている問題を、過去の経験を活かして解決できたことが度々あり、歴史をきちんとまとめることは、未来を切り拓く力になると思っています。そのためには、歴史を使いこなせる財産にすることが必要です。これまで建設してきた図面などの資料、いつ何をいくらで修理したかという修繕履歴、これを検索や比較しやすく蓄積しなければ、当社で建物を建設したお客さんがずっと当社に世話してもらいたいと思える顧客満足につながりません。
AIの活用やディープランニングなどの最新ITの世界でも、その推論の根拠となるのは地道なデータの蓄積であり、これはまさに歴史を財産として活用しているということです。
当社には歴史がある。それを使いこなせるかたちにすれば、大きな武器になると思っています。