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22年ぶりに復活した唐津の映画館「THEATER ENYA」映画の可能性を信じ、私達が描く未来のまちの姿【前編】

一般社団法人Karatsu Film Projectは、前身が「唐津シネマの会」で、唐津に実に22年ぶりとなる映画館「THEATER ENYA」を復活させました。日々の映画館の運営を主に、監督を招いてのティーチイン、ショートフィルムコンペティション映画祭「演屋祭」などの活動をしています。

大都市や地方の郊外にシネコンはあれど、近年、映画館は地方からその姿が消えゆく一方です。その理由は、地方は人口減少、少子高齢化が進み、入場者数が減少し鑑賞料金という従来の収入だけでは、映画館が成り立たなくなっているからです。シネコンが建設する時の商圏の基準は30万人以上とも言われています。そうして、人口減少の進みゆく地方都市では、いろんな映画に触れる、観る機会がどんどんと消失しつつあります。

そんな時代の中、人口約12万人(2020年時点)で、もれなく人口減少と少子高齢化が進む地方都市・唐津で、映画館を復活させ、運営を続けるということは、とても困難な挑戦です。
それでも私達がその挑戦を続けるのは、こんな時代だからこそ、地方にとって、映画館という存在が必要であると、その存在意義を信じているからです。

■地方にとって映画館は、文化のインフラストラクチャー

なぜ、映画館という存在がこれからの地方にはますます必要なのか、映画というエンターテインメントの性質について、少しお話したいと思います。

「映画」は、よく「総合芸術」とも言われます。そのワケは、映画は、脚本、映像、演技、衣装、メイク、美術、装飾、照明、音楽、録音、編集・・・など、ありとあらゆる技術やアートを含んだ要素の集大成が映像作品という作品になっているためです。例えば、現代とは違うある時代を物語るとき、観客がそれを自然と受け止め感じることができるのは、その映像が、時代考察の上で編集された衣装、メイク、演技、言葉、風景など様々な要素の調和があってのことです。そして、それぞれの要素の成熟度が高く、それらの均衡や調和が素晴らしいとき、その物語は更に説得力を持ち、ありとあらゆる芸術がたどり着く「普遍的な美しさ、真実」を人々に訴えかけ、深い感動をもたらします。その深い感動は、時を超え、国境を超え、文化を超え広がりゆくものです。

良質な映画は、そのような「総合芸術」の側面を持ちながら、一方で老若男女を問わず楽しめる敷居の低いエンターテインメントでもあります。映画は、皆さんご存じの通り、サンダル・Tシャツ・短パンで、片手にジュースやビールを持って楽しめる、とても大衆的な娯楽でもあるのです。

「映画館が町にある」ということは、このような多様な価値を伝える総合芸術であり大衆娯楽を、毎日その町の人が楽しめるという、文化的なインフラストラクチャーがその町に存在する、という事なのです。

人口が減少し、少子高齢化が進むまちからは、確実に文化、伝統、娯楽が減少し多様性が消失していきます。そのような社会の中で、映画館は、老若男女の人々が、ありとあらゆる芸術、文化、価値観に触れながら、娯楽として楽しみ、享受する場となり、人々がその町で多様な考えに触れ豊かに暮らす、生きるクオリティーオブライフを支える存在となりうるのです。

■文化教育の場としての映画館

人口が減少し、少子高齢化が進む地方都市、特に大学などの高等機関がない場合は、文化藝術の担い手がいなくなり、若い人達がそれらを学び享受する機会は減少していきます。映画は、これまで述べてきたように皆が楽しめるエンターテインメントでありながら、総合芸術やいろんな文化や価値観、視点を学ぶことができる文化教育的な要素も有しています。映画館は、そのような機会を若者を含めた万人が享受できる場とも言えます。
THEATER ENYAでは、若者の文化教育的機会としての映画の鑑賞を、より広く多くの若者が享受できるよう、学生サブスクリプション月額1000円見放題制度を導入予定です。若い人達がより身近に気軽に映画館に足が向くよう、また自分で稼ぐ術のない若者が経済的な理由によって映画館に行けない事がないよう、THEATER ENYAは若い皆さんへ大きなエールをおくります。

■予防福祉の役割を果たす映画館

寿命の長寿化と高齢化は、高齢者人口の増加とともに、「独居老人」(1人暮らしの高齢者)の人口を増加させます。人口の大半を占める高齢者が、いかに孤独ではなく健康で幸福に過ごすことができるか、高齢者のクオリティーオブライフをいかに保つかという課題は、今後地方都市にとって大きな課題の一つと言えます。

高齢者になると、長距離移動や車の運転に制限がでてきます。そのため、徒歩圏内にスーパーや病院など生活するために必要な物資がサービスが受けられなくなる「生活難民」と呼ばれる人たちが出てきます。そのような事が生じないように、国策として地方都市では、「コンパクトシティ構想」や「ウォーカブルシティ構想」が進められています。まちの中心地に人口を集中させ、徒歩もしくは生活圏内に買い物、病院など必要な施設を集約していく構想です。

そのような施策の中、高齢化する地域社会の生活圏内に映画館があるということの価値について少しお話したいと思います。映画の一番多いお客様は、中高年の皆様です。お友達と一緒に来られることも多く、「映画をきっかけで疎遠になっていたお友達と遊びに出るようになったわ」とおっしゃる方や、映画鑑賞後にカフェでおしゃべりに花を咲かせている風景を良く見かけます。ここでは映画を観るということが、家の外に出て友達に会う口実となり、また同じ映画を鑑賞して語り合ったりするきっかけをつくっています。

長寿大国日本ですが、寿命は寿命でも、病気で塞ぎ込みがちであったり寝たきりであるのか、心身健康であるのか、寿命の質が問われています。それは、その町の持続可能な運営にも大きく影響します。高齢化社会で孤独で病気の高齢者が多い地域社会は、それだけ福祉医療費がかかり、一方健康な高齢者が多い地域は、福祉医療費の削減に繋がるばかりか、健康な中高年の方々の外出や消費活動などによって、地域経済の活性化にさえ繋がります。

このように映画館は、友達と会ったり、外出したり、感動したり考えさせられたりするなど、高齢者が孤独ではなく、健康に心豊かにくらす事に寄与する予防福祉的な役割を果たし、地域経済に寄与する事も実現できると考えています。

※【後編】では、「映画館を通した地域活性化を実現する」ことについてお話します。




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