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真の顧客体験とはビジネスゴールへの到達をサポートすること - プロダクトエバンジェリスト&ソリューションアーキテクトが語るデジタル時代における企業と顧客との関係性

ここ5年ほど、マーケティングの世界を中心によく聞く言葉のひとつに「カスタマーエクスペリエンス(Customer Experience、CX)」があります。日本語では「顧客体験」と訳されることが多いのですが、スマートフォンやデジタルアシスタント、ソーシャルメディアといったデジタルタッチポイントが世の中にあふれてきたことで、企業はそれらを通した顧客との新たな関係性の構築に取り組む必要が出てきました。対面やデジタルタッチポイントを含むあらゆる顧客との接点において、いかに心地よさを顧客に感じてもらい、サービスや製品、そして自社に対してのロイヤリティを高めてもらうのか - 顧客体験の向上は21世紀を生きるすべての企業にとって重要な課題となっています。

現在、多くのITベンダから顧客体験の向上を目的としたクラウドベースのCX管理プラットフォームが提供されています。その中にあって「コンテンツを軸に顧客体験をスケールさせていく」という他社にないユニークな特徴をもつのが「Adobe Experience Cloud」です。本稿ではこの製品を担当するグローバル サービス統括本部 プロダクトエバンジェリスト兼シニアソリューションコンサルタント 安西敬介氏とデジタルマーケティング シニアソリューションアーキテクト 澤田諒介氏に、デジタル時代における真の顧客体験とは何を指すのか、そして顧客とより良い関係性を築くために企業は何に留意すべきかをお訊きしました。

【澤田諒介】
―アドビ カスタマーソリューションズ統括本部 プロフェッショナル サービス事業本部
ソリューション アーキテクト部 シニア ソリューション アーキテクト

顧客自身も気づかないビジネスゴールを深掘りする

--安西さんはプロダクトエバンジェリスト、澤田さんはソリューションアーキテクトとロールが異なりますが、Experience Cloudにはそれぞれどういうかたちで関わっているのでしょうか。

安西: 私の場合、デジタルマーケティング市場においてExperience Cloudの認知度を高め、活用に踏み切るきっかけを拡大していくことがプロダクトエバンジェリストとしてのおもな仕事になります。その根底にあるのはExperience Cloudでアドビのお客様に成功してもらうというミッションです。それはつまり"お客様のお客様"、いわゆるエンドユーザにより良い顧客体験を提供できるよう、Experience Cloudでお手伝いするということでもあります。CXを企業のインフラとして扱い、エンドユーザへ提供しやすくする、そのための全般的なサポートを担っているという感じでしょうか。

澤田: 私も製品の活用にフォーカスしているという面では同じです。ただしソリューションアーキテクトの場合、それぞれのお客様の課題に製品をよりフィットさせることが重要な仕事となります。「顧客体験の向上」とひとくちにいっても、お客様ごとに課題は大きく異なります。個々のお客様の課題や提供したい顧客のビジョンを把握し、Experience Cloudをどう活用することで最適解を得られるのかをサジェストしていくことが求められます。

--個々のお客様の課題、つまりニーズを本当の意味で正しく把握するということは、簡単なように聞こえて、実際には非常に難しい作業のように思えます。とくに顧客体験のようにかたちとして見えにくいものを扱う場合はなおさら難易度が高いのではないでしょうか。

安西: お客様から出ている要望だけを見ても、それは表面的で限られた情報に過ぎないので本当のニーズを掴むことはできません。ここで我々がやるべき仕事は個々のお客様のビジネスに向き合い、真のビジネスゴールを探り出すことです。お客様自身が気づいていないかもしれない最終的なビジネスゴールを明確にするためにヒアリングを重ねていく必要があります。

たとえば証券会社のサイトを構築するとして、通常ならそうしたサイトのゴールは「訪問したユーザの○%が会員登録をする」といったものになりがちです。しかしそれはサイトのゴールであって、ビジネスのゴールではありません。エンドユーザが会員登録後に実際に株式や金融商品の取引を行い、利益を上げることが証券会社のビジネスゴールであり、エンドユーザのゴールでもあるはずです。表面的な情報にとらわれずに、お客様のビジネスゴールへの到達をサポートすること、それがエンドユーザの顧客体験向上につながっていきます。

澤田: ビジネスゴールを描く重要性はそのとおりで、ただ、ソリューションアーキテクトとして難しく感じるのは、同じ企業であっても部署によってビジネスゴールの定義が異なってしまうときですね。最近は日本でも"組織を横串で"など横断的なコミュニケーションが推奨されるケースも増えてきましたが、やはり部署間の認識のズレ、とくにビジネスゴールのような重要な指標における認識のズレは、デジタルマーケティングにおいてはあまり良くない。そうしたズレを吸収し、円滑なコミュニケーションを図る上でも、Experience Cloudのようなツールの活用は効果的だと思います。

--デジタルマーケティング、とくにCXのような分野では日本企業はかなり海外から遅れているというイメージが強いのですが、ツールの導入も含め、どういった点から改善していくべきだと思われるでしょうか。

安西: 私は日本企業が特段、CXで遅れているとは思っていません。もともと日本には「おもてなし」という言葉があって、むしろカスタマーエクスペリエンスの訳としては"顧客体験"より良いんじゃないかと思うんですが、そういった個に寄り添った"おもてなし"の提供をデジタルマーケティングで実現できている企業もあります。もし日本企業に課題があるとしたら、先ほど澤田が指摘したように組織ごとに情報がサイロ化されすぎて、ビジネスゴールや目的意識が部署間で共有されにくいところではないでしょうか。ただ、それも企業によってずいぶん差があるように思います。

澤田: 同じ会社で、同じ製品やサービスを扱っていて、同じエンドユーザを見ているはずなのに、見ているゴールが違うというのは、顧客体験だけでなく、ビジネスのさまざまな面に影響します。担当者ベースでもそうしたことは起こりがちで、「自分のやるべきことや指標は理解している。でもそれ以外の担当者のことは知らない」というケースはよく耳にします。一方で国内外を問わず、顧客体験の向上に熱心に取り組んでいる企業は会社を横断してビジネスゴールをチームでしっかりと共有できているところが多い。お互いにディスカッションを重ね、ゴールに向かって一緒に進もうという明確な意志があります。だからプロジェクトの進むスピードも速い。そうした企業の場合、社内を巻き込むパワーが強いので、ともにストーリーを描けるという強みが生まれやすくなります。

安西: カスタマージャーニーを組織を横断して一緒に描けるようになったら本当に強いですよね。とくにデジタルタッチポイントが増えた現在、数多くのそれらを管理するにはやはり組織を横断し、同じゴールを共有できることが顧客体験の向上における大きな差別化要因になると思います。

デジタルマーケティングはマーケティングの世界をどう変えたか

【安西敬介】
―アドビ カスタマーソリューションズ統括本部 プロフェッショナル サービス事業本部
プロダクトエバンジェリスト兼シニアソリューションコンサルタント

--日本でもようやくデジタルマーケティングという言葉が一般的になりつつありますが、デジタルマーケティングの台頭によって昔はしなくてよかった苦労をしているという声もあります。プロのマーケターとして「デジタルマーケティングの弊害」について思うところはありますか。

安西: デジタルマーケティングの前と後での最大の変化はエンドユーザひとりあたりの情報量が信じられないくらい増えていることでしょうね。これはタッチポイントが増えていることと大きく起因しますが、ひとりあたりの情報量が増えすぎたことで、昔のマーケティングではできていたエンドユーザの管理が難しくなってきている。マーケティングの本質自体は変わっていないのですが、昔はマニュアルでできていたことができなくなっているという側面はたしかにあります。デジタルマーケティングの前と後というよりはインターネットの前と後といったほうが正確かもしれません。

澤田: そうした膨大なデータを管理するためにExperience Cloudのようなマーケティングツールが利用されるわけですが、今度はツールの操作やデータの管理にマーケターが忙殺されることになってしまい、本来のマーケターとしての仕事ができなくなってきているという問題も出てきました。最近ではマーケティングサイトが1つあるとして、それに紐づくタグは1ページあたり20から30にもなると言われています。それだけの情報をツールで管理するのはマーケターにとってかなりの負荷だといえます。

--つまり、タッチポイントが増えたことで今まで取れなかった情報が取れるようになったのに、その量が膨大すぎて、ツールでも管理することが難しく、マーケターがツールでの作業に追われて本来のマーケターとしての仕事に集中できなくなっていると。そうした現状をExperience Cloudはどう打開できるのでしょうか。

安西: Experience Cloudは「マーケターを本来やるべき仕事に戻す」ためのツールとして、極力、ユーザが取るべきアクションを減らすように設計されています。バックエンドにはAIを実装しており、既存のツールでは1週間かかっていた分析を、ワンクリックで数分までに短縮することが可能です。また、チーム間でのワークフローを最適化し、コミュニケーションの分断を生じさせることなく、スムースなマーケティング業務の連携を実現できます。

アドビは長年、デジタルマーケティングのリーディングカンパニーとしてグローバルで数多くの企業のCX改善に貢献してきました。Experience Cloudにはそうしたデジタルマーケティングにおける知見が数多く実装されており、機能アップデートひとつひとつにもきちんと意味があります。その機能を実装することで、何ができるようになるのか、どんなアクションが取れるようになるのか、どういうフィロソフィーの下で開発されたのか、などすべて明確に説明することができますが、業務量削減とシームレスな連携はその中でも重要なポイントです。また、顧客体験の向上にはリアルタイム性が重視されますが、Experience Cloudはターゲットとするエンドユーザの動きをリアルに把握し、パーソナライズすることも可能です。

--パーソナライズされすぎること、つまり必要以上に自分の情報を知られていることに嫌悪感を抱くエンドユーザもいると思うのですが、そうした配慮はなされているのでしょうか。

安西: 顧客体験とはエンドユーザが"気持ちよく"感じてもらうことが重要です。なので行き過ぎたパーソナライズはできるだけ避ける必要がある。私はパーソナライズにおいては「さりげなく、逃げ道を作る」ことを推奨しています。たとえばレコメンデーションなどでも「あなたはこれが好きなんですよね!?」みたいな押し付けがましさを感じさせるのではなく、「もしかして、これが好きなんじゃないかなと思いまして…」くらいの控えめな感じが好まれるように、一歩引いた感覚は残しておいたほうがいいと思っています。ただ、その匙加減は企業ごと、エンドユーザごとに異なってくるので、そこが各企業の顧客体験における差別化要因のひとつにもなるのではないでしょうか。

澤田: そうした意味で、我々の仕事はお客様がエンドユーザに対して提供するあらゆる顧客体験を設計しやすくすることだとあらためて思います。サイトに頻繁に訪れてくれる常連のようなエンドユーザに対し、まるで初心者のように対してしまえば、そのユーザは不愉快になってしまうでしょう。場合によってはそのサイトから離れてしまうかもしれない。個々のエンドユーザとそのステージに合わせたコミュニケーションを行い、徐々に深めていく - それはやはりエンドユーザの行動をよく観察するというマーケティングの原点に戻ると思います。Experience Cloudはデジタル時代において、マーケティングの原点に戻ることをサポートするツールだといえるかもしれません。

クロスディビジョンはアドビにとってのフィロソフィー

--お話を伺っていると、アドビ自身もまた顧客との関係性の構築に試行錯誤してきた結果、Experience Cloudのようなツールが生まれたのかなという気がします。

安西: そのとおりで、アドビの特徴はExperience Cloudに限らずアドビ自身がアドビ製品の"ゼロカスタマー"であるという点です。我々自身がアドビのツールを裏側で使いこなしているからこそ、お客様にも自信をもって勧められるという部分はたしかにあります。

--先ほどのお話で、Experience Cloudはチームを横断した共同作業をサポートするとありましたが、アドビ社内も実際に組織横断的な動きは多いのでしょうか。

澤田: それは基本ですね。アドビには基本的にクロスディビジョンで仕事をするという文化というかフィロソフィーが根付いているので、たとえば私と安西がこうやって同じインタビューを受けるということにも違和感ありません。

安西: お客様がアドビ製品に興味をもってもらうこと、業界でアドビ製品が注目を集めること、これらは部署が異なってもアドビ共通のビジネスゴールです。そのゴールに対して、それぞれのロールを担いながら進んでいく、それが自然にできている組織だという自負はあります。

--最後にアドビで働くプロのマーケターとして、プロダクトエバンジェリスト、ソリューションアーキテクトそれぞれの立場から心がけていることがあれば教えてください。

安西: お客様とお客様の業界に対し、つねに興味や好奇心を持ち続けるようにしています。なぜこの人はこのサービスを作ろうと思ったのが、このサービスで何を実現したいと願っているのか、この業界ではいま何がホットなのか、そうしたことにいつもアンテナを張り巡らせることで、より最適なビジネスゴールを探り出せるお手伝いをしていきたいと思っています。

澤田: ソリューションアーキテクトはお客様の課題を見つけ出すことが仕事なのですが、そのためには"仮説を立てる力"が重要だと実感しています。いままでとは違う解決策があるのではいか、別の組み合わせがあるのではないか、つねに疑問を投げかけながら仮説を立て、新しい可能性を探し出していく - そうしたいくつもの試行錯誤の中から予想や期待値を超える結果が生まれると信じています。

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