「タバコって健康に悪いし、臭いし…なんで吸うの??」
非喫煙者の僕にとって、タバコを吸う人の気持ちは全く理解できないものでした。 気持ちが理解できないどころか、喫煙者に対して嫌悪感までありました。
喫煙所の横を通る時は息を止めて小走りで通り過ぎてましたし、とにかくタバコ独特の臭いが不快に感じるのです。
タバコはなんの意味もない。ただ、不健康になって、臭いだけの悪習慣だ。
ーーそんな風に思っていました。
しかし、喫煙者との会話をきっかけに、考えが変わり始めました。タバコ事業に興味を持ち、多くの喫煙者にリサーチを行った時のことです。
これまでタバコを一方的に『意味のない悪習慣』だと決めつけていましたが、実際に喫煙者に話を聞いてみると、皆が口を揃えて『ストレス発散』『気持ちの切り替え』『心の支え』といった言葉を使うことに気づきました。
タバコは単なる悪習慣ではなく、ストレス社会を生きる現代人にとって『重要な精神的な支え』の一つだったのです。
現代人は、仕事のプレッシャーや人間関係の悩み、将来への不安など、常に大きなストレスにさらされています。
・仕事がうまくいかず上司に怒られて気持ちが落ち込んだ
・家庭でパートナーとの関係がうまくいかず悩んでいる
・将来の経済的な不安で眠れない夜が続いている
きっと、あなたもこんな経験あるのでは無いでしょうか?
そんなストレスだらけの現代社会で、タバコは日常のストレスから一時的に解放される貴重な時間を提供していたのです。
一方で、最近は屋内禁煙に留まらず、喫煙所の減少、タバコ税の増税など非喫煙者ファーストのルール作りが活発化しています。健康被害や受動喫煙の問題を考えれば、これは正しい方向性だと思います。
しかし、それによって現代社会で頑張る人の精神的な支えが一つなくなってしまっていることも事実です。
このジレンマを目の当たりにした時、僕は複雑な気持ちになりました。
健康被害の観点では禁煙政策は正しい。非喫煙者にとってはより快適な環境が実現される。しかし一方で、喫煙者にとっては精神的な支えを失い、ますます生きづらい世界になってしまう。
この対立構造の中で、果たして本当に『みんなが幸せになれる解決策』は存在するのだろうか。
——そんな問題の解決に、起業家としての人生を賭けることにしたのです。
目次
満員電車、受験勉強…ストレスだらけの日常から逃げたくて高校起業
初めての起業、その結果は…
本当にやりたいことはなんだろうか?
電子タバコ事業を立ち上げるきっかけ
難航した電子タバコの開発
リキッドの開発
デバイスの開発
「Dr.Chill」が目指す世界
満員電車、受験勉強…ストレスだらけの日常から逃げたくて高校起業
そもそも、僕が「起業しよう!」と思った理由は、ストレスから逃れるためでした。
僕の家庭は教育熱心で、小学生の時から塾に通わされ、勉強を中心とした子ども時代を過ごしていました。中学受験をして、渋谷教育学園幕張という中高一貫校に進学しましたが、そこでも大学受験に向けての勉強に追われる日々。
毎日、満員電車に揺られながら片道1時間もかけて通学する。学校が終わった後も塾で勉強する。そんなストレスだらけの学生生活を続けるうちにふと思いました。
「これいつ終わるの…?」
「受験勉強頑張って大学入って、就活頑張って企業に入った後もずっとこのストレスに耐えないといけないの?」
周りの友達は熱量高く受験に向けて頑張っていて、みんな本当にすごいなと思っていました。でも僕には、そんなストレスだらけの人生に耐えられる自信がなかったのです。
『もう無理だ。大学受験も、就職活動も、全部やめてしまいたい』
そんな現実逃避の気持ちが頭をよぎった瞬間、僕は逃げ出したくて高校2年生の時に起業という選択をとりました。
よく起業家が語る『世界を変えたい』『社会に革命を起こしたい』みたいな壮大な理由とは真逆で、僕の起業理由は単純で情けないものでした。
「大学受験の勉強をしたくない」「就活したくない」といった、ただのストレスからの逃避でした。
正直、恥ずかしい理由です。でも、これが僕の起業の出発点でした。
そんな不純な動機での起業でしたが、この選択が後に電子タバコ事業へと繋がっていくことになります。ストレスから逃げたかった僕だからこそ、現代社会で頑張る人たちのストレスに深く共感できたのかもしれません。
初めての起業、その結果は…
起業してからはSNSや広告を中心にWEBマーケティング事業を行っていました。高校生の僕にはお金もないし、人脈もない。そんな中で出来る事業は限られていました。パソコン1台あれば始められるWEBマーケティングが、事実上唯一の選択肢だったのです。
学校の授業中は睡眠時間として使い、本格的な作業は夜中に行うという不健康な生活を送っていました。同世代の友達が部活や恋愛を楽しんでいる中、僕は一人でパソコンに向かっている毎日。
そんな生活を続けた結果、高校生としてはそれなりの収入を得ることはできました。
しかし、それは所詮高校生レベルの話。大人たちを説得できるほどの実績ではありませんでした。
『そんなのいつまで稼げるかわからないでしょ!』
『ちゃんと大学は出ておきなさい!』
この言葉に、僕は何も言い返せませんでした。確かにその通りだったからです。結果として、大学進学を目指すことになりました。
もちろん全く勉強してこなかったので、国公立など目指せるわけなく、国数英の3教科で受けられる私立大学に片っ端から申し込みを行い、ギリギリ受かった大学に入学したのです。
ーー今振り返ると、大学進学は最良の判断でした。現在のビジネスパートナーの1人は大学時代の友人ですし、大学という看板がビジネスで役立つ場面も多々ありました。あの時反対してくれた両親や学校の先生には、心から感謝しています。
本当にやりたいことはなんだろうか?
大学に入学した後は受験勉強のストレスから解放された反動もあって、毎日遊び続けてる生活を送っていました。遊び代を稼ぐため、授業には出ずに日中は家で仕事をするという本末転倒な大学生活を送っていました。
この時も仕事は変わらずWEBマーケティング事業をやっており、通販企業をメインに新規顧客の獲得支援を行っていました。具体的には、企業からお金をもらって広告クリエイティブを作り、自分で広告運用まで一貫して行うという仕事でした。
正直に言うと、お金はそこそこ稼げましたがストレスの多い仕事でした。
企業からお金をもらっている以上、ちょっとでも顧客獲得効果が悪化したりすると案件を貰えなくなってしまう恐怖が常にあったのです。良い商品じゃないものでも良いと嘘をついて、商品を販売しなくちゃいけない場面もありました。
「これって僕は本当にやりたいことなのか…?」
そんな漠然とした悩みを抱えている時、僕は1本の動画に出会いました。
孫正義さんの新卒採用学生向け講演会でのプレゼンテーション「【志】を語る」という動画です。
フルバージョンはこちら
この動画を初めて見た時、衝撃を受けたことを覚えています。
とにかくストレスから逃げたくてスタートした起業ですが、この時初めて「起業を通じて何がしたいのか」を真剣に考えました。
僕が本当にやりたいことは、自分で価値のあるプロダクトを生み出し、それを必要とする人に届けることなのではないか。他の人のプロダクトではなく、自分で本気で良いと思うプロダクトを作って、ビジネスをしたい。
そんな想いが僕の中で芽生え始めました。
ただ、その時はまだ「何を作るか」は見えていませんでした。
電子タバコ事業を立ち上げるきっかけ
この頃から、僕は自分が本当にやりたい事業について深く考えるようになっていました。
自分が心から良いと思えるプロダクトを作りたい。
でも、それが一体何なのかがわからない。
そんな悶々とした日々が続いていました。
生活するためのお金は稼がないといけないので、仕事はずっと続けていました。この時、仕事のストレス発散のためによく使っていたのが、電子タバコだったのです。
電子たばこは、たばこ葉を使用せず、装置内もしくは専用カートリッジ内の液体(リキッド)を電気加熱し、発生する蒸気(ベイパー)を愉しむ製品です。
たばこ葉を使用していないため、たばこ事業法上の「たばこ製品」には該当しません。
僕は非喫煙者でしたが、電子タバコはニコチンもタールも入っていないので、考え事をする時によく使っていました。フルーツの香りでリラックスできるし、何より深呼吸をするような感覚で気分転換になったのです。
電子タバコを使ううちに、僕はその魅力を実感していきました。特に、普通のタバコと違って嫌な臭いがせず、むしろ良い香りがすることに感動していました。というのも、僕は普段、喫煙者の友人と一緒にいる時、タバコのあの独特な臭いが本当に苦手で、いつも嫌な思いをしていたからです。
ーーそんな時、ふと思いました。
「もし喫煙者の友人たちが普通のタバコではなく電子タバコを吸ってくれれば、僕も快適に過ごせるし、彼らの健康にも良いのでは…?」
そこで、喫煙者の友人何人かに電子タバコを勧めてみました。
「これ、普通のタバコより体に良いし、めっちゃいい香りだよ」
しかし、友人たちの反応は予想と違いました。
「うーん、なんか物足りないんだよね」
「味は良いけど、満足感がない」
「電子タバコ吸ったことあるけど、タバコとは別物だよね」
その時僕は気づいたのです。電子タバコが非喫煙者にとっては「良い香りでリラックスできるもの」でも、喫煙者にとっては「物足りないもの」だということを。
ーーもし喫煙者も満足できる電子タバコが作れたら…?
喫煙者は健康被害を気にせずに、これまで通りリラックスやストレス発散ができる。非喫煙者は煙や臭いに悩まされることなく、喫煙者との人間関係も改善される。職場や飲食店でも、電子タバコなら受け入れられる場所が増えて、みんなが同じ空間で快適に過ごせるようになるかもしれない。
全ての人にとってストレスの無い世界を作ることができるかもしれません。
「これだ!」
僕がずっと探していた「自分が本当にやりたい事業」が、ついに見つかりました。
喫煙者も満足できる電子タバコを作ろう。そう決意した瞬間から、僕の電子タバコ事業が始まったのです。
難航した電子タバコの開発
喫煙者も満足できる電子タバコを作るため、電子タバコの製造工場を探し始めました。
まずはインターネットで検索し、10社以上の工場に連絡を送りました。片っ端からサンプルを送ってもらって、ヘビースモーカーの友人の意見を聞きながら試してみたのです。
「どう?これならタバコの代わりになりそう?」
しかし、友人の反応はいつも同じでした。
「うーん、やっぱり物足りないかな」
「吸いごたえが全然違う」
正直なところ、どの工場のサンプルも到底喫煙者が満足できるようなものではありませんでした。電子タバコの開発は想像以上に難易度が高いものだったのです。
電子タバコの開発は大きく分けて2つの要素があります。リキッド(中に入れる液体)の開発とデバイス(本体機器)の開発です。
リキッドの開発
まずはリキッドの開発から取り組みました。
リキッド開発の最大の難しさは、ほんの1滴の差で味が変わってしまうため、完璧なバランスを見つけるのが非常に困難なことでした。
まさに料理の世界と同じです。名シェフが作る料理も、調味料の分量を少し間違えるだけで台無しになります。リキッドの場合、香料の配合比率、甘味の度合い、喉への刺激感——これらのバランスが0.01%でもズレると、『これは良い』から『何か物足りない』に変わってしまう、極めて繊細な世界でした。
さらに困ったことに、リキッドの工場とのコミュニケーションは英語になるため、日本語でも表現の難しい味覚の情報を、英語で正確に伝えなければいけません。
「もう少し甘みを抑えて、キック感を強くしてほしい」
「後味にほんのり香る程度のフルーツ感がほしい」
こんな微細なニュアンスを英語で伝えるのは至難の業でした。
何回もサンプルのやり取りを重ねていくうちに、段々と作りたいものに近づいてきました。しかし、どんなに試作を重ねても何かが決定的に足りませんでした。喫煙者の友人に試してもらっても『惜しい』という反応ばかりで、『これだ!』という手応えがいつまでも得られない状態が続いたのです。
ーーこれ以上はテキストでは伝えられない
そう判断した僕は、直接工場のある深圳まで行くことにしました。
現地でリキッドの調香師と直接会い、僕が本気で喫煙者が満足できるような電子タバコを作りたいことを熱意を込めて伝えました。調香師の方も僕の想いに共感してくれて、『一緒に最高のものを作ろう』と熱心に協力してくれることになったのです。
その後、僕の滞在時間の許す限り何十種類のパターンのリキッドを試しました。言葉だけでは伝わりにくいニュアンスも、実際に一緒に試すことで正確に伝えることができたのです。
「これです!この感じです!」
「もう少しだけこの香りを強くできますか?」
細かい調整を何回も重ねて、ついに日本人の口に合うオリジナルのリキッドを開発することに成功しました。
デバイスの開発
リキッドの開発と同じくらい重要なのがデバイスの開発でした。
デバイスの開発では、とにかくデザイン性を重視しました。
とにかく軽量で普段使いしやすく、高級感のあるデザインで、吸っている様子がスマートでかっこいい。そんなデバイスを作ることが目標でした。僕が作る電子タバコは従来のタバコと違って「スマートな大人が吸っているもの」という印象を与えたかったのです。
ーーしかし、ここで大きな壁にぶち当たりました。
デバイスの性能は搭載するバッテリーの品質に大きく依存します。
軽量化を目指してスタイリッシュなペン型のデバイスにすると、高性能スペックのバッテリーを搭載できず、煙の濃さが物足りなくなってしまったのです。
まさにジレンマでした。
煙の濃さを多少我慢してコンパクトなデザイン性をとるか、煙の濃さに妥協せずデザイン性を捨てるか...
僕は本気で良い商品を作りたかったので、どちらも妥協したくありませんでした。「妥協した商品では、結局喫煙者に満足してもらえない」そう思ったのです。
どうにかして、コンパクトなデザインの中に搭載できる高性能スペックのバッテリーを開発できないか...。
現地の担当者に協力をしてもらいながら、高性能スペックのバッテリーを小型化してくれる工場を必死に探しました。
探し続けてついに1社、理想スペックのバッテリーを小型化して製造できる工場が見つかりました。
ーーしかし、そこでも大きな問題がありました。
そこは超大手企業にしか納品しないような工場であり、最低発注ロット数が信じられないほど大きな数字で、僕の資金力では到底発注できるようなレベルではなかったのです。
「やっと見つけたのに...」
絶望的な気持ちになりました。でも、ここで諦めたら僕が作りたい商品が作れなくなってしまいます。
僕はバッテリー工場の担当者に、自分の想いを必死に伝えました。
僕の思いに共感してくれた現地の協力者も一緒に説得をしてくれました。
ーー何度も話し合いを重ねた結果、
特例として僕たちのような小さな会社にもバッテリーを製造してくれることになったのです。
こうしてコンパクトなサイズの中に高性能なバッテリーを搭載することが実現しました。
その努力もあって、弊社の電子タバコブランド「Dr.Chill」は、そのコンパクトでスタイリッシュなデザイン性が非常に好評で、煙の濃さも同サイズの電子タバコの中では最高レベルのクオリティーになっています。
「Dr.Chill」が目指す世界
電子タバコはたばこ葉を燃やさないので、発生させる蒸気に含まれる有害および有害性成分の量が紙巻たばこや加熱式タバコの煙に含まれる量と比較して、はるかに少なくなっています。
このような喫煙に伴う健康リスクを低減させる可能性のある製品はRRP(Reduced-Risk Products)と呼ばれ、今後のタバコのスタンダードになっていくでしょう。
喫煙者の方々へ あなたがタバコに求めているリラックス効果や心の支えを、健康リスクを気にせずに得られる選択肢を提供したい。
非喫煙者の方々へ 不快な臭いや副流煙に悩まされることなく、大切な人との時間を過ごせる環境を作りたい。
そして社会全体へ 対立ではなく共存を。排除ではなく理解を。みんながストレスなく生きられる世界を。
実際に「Dr.Chill」は販売を開始してから、ありがたいことに累計5万人を超える方にご購入いただき、多くの方に好評をいただいております。
僕はこの電子タバコが普及することで、すべての喫煙者、そして非喫煙者にとってもより良い世界になることを確信しています。
そのために、僕たちは立ち止まりません。顧客からのフィードバックを受けて、毎日1日足りとも欠かさず工場の担当者とどうすればもっと良くなるかを議論し続けて、商品を改善していっています。
一人でも多くの方に「Dr.Chill」を通じて、新しい選択肢があることを知ってもらいたい。そして、少しずつでも「全ての人がストレスなく生きられる世界」を作りたい。
これからも、すべての人にとってより良い世界を目指して、「Dr.Chill」と共に歩んでいきます。
ご支援いただいているすべての皆様、本当にありがとうございます。