連載第5回のテーマは、これまでで一番地味に見えて、実は一番エンタメの根っこに近い話—「契約書」 です。
僕は企画やイベントの仕事と並行して、グループの法務も担当しています。著作権、秘密保持契約(NDA)、クリエイターさんとの業務委託契約、タレントの所属契約書、そして海外企業との英文契約まで。日々、多岐にわたる契約書とにらめっこしています。
「エンタメの会社なのに契約書?」と思った方にこそ、今回は読んでほしい。契約書は、エンタメを縛る紙じゃない。エンタメを守る仕事なんです。
法務は「ダメ出し係」ではない
法務と聞くと、多くの人がイメージするのは「それはできません」と言う人だと思います。企画にブレーキをかける存在。現場の敵。
僕も企画側の人間だった頃は、正直そう思っていました(笑)。でも自分が契約書を見る側に回って、考えが180度変わりました。
法務の仕事は「やめさせること」ではなく、「どうすればやれるかを設計すること」 なんです。
たとえば「このキャラクターでコラボグッズを作りたい」という企画が来たとします。ダメ出し係なら「権利関係が複雑なので難しいです」で終わり。でも僕の仕事は、「どの権利を、誰から、どの範囲で許諾してもらえば実現できるか」を分解して、通り道を作ることです。
サムネイルにも書いたとおり、法務はブレーキじゃなくて、挑戦するための保険。保険があるから、思い切りアクセルを踏めるんです。
契約書は「未来のケンカ」を先に終わらせる道具
契約書って、何のためにあると思いますか?
僕の答えは、「まだ起きていないトラブルを、仲が良いうちに解決しておくため」 です。
エンタメの仕事は、始まるときはみんな笑顔なんですよ。「一緒に面白いものを作りましょう!」と盛り上がって、握手してスタートする。問題は、うまくいかなくなったときと——実は、うまくいきすぎたときに起きます。
グッズが想定の10倍売れた。この利益、どう分ける? 動画がバズって海外から配信の話が来た。その権利、誰が持ってる? 担当者が退職した。約束は口頭だけだった——。
契約書は、こういう「未来のケンカ」の争点を、まだ誰も感情的になっていない段階で一つずつ潰しておく道具です。だから僕は契約書を作るとき、この案件が大成功した未来と、大失敗した未来の両方を想像しながら条文を読みます。Vol.04で「当日を先にフィクションとして生きる」という話をしましたが、契約書はその法務版。まだ来ていない未来の通し稽古なんです。
クリエイターを守れない会社に、エンタメを作る資格はない
僕が特に大事にしているのが、クリエイターさんとの業務委託契約と、タレントの所属契約です。
イラスト、脚本、音声、デザイン——RACZの仕事は、才能あるクリエイターさんたちの力なしには一つも成立しません。その人たちとの契約が曖昧なまま仕事を始めるのは、僕に言わせれば才能への敬意が足りないということです。
報酬はいつ、いくら払われるのか。作った作品の権利はどこまで譲渡で、どこからが本人に残るのか。クレジットは載るのか。二次利用されたら対価はあるのか。——こういうことが契約書に明記されているから、クリエイターさんは安心して全力を出せる。
良い契約書は、実は最高のファンレターに似ています。 「あなたの仕事をこれだけ真剣に扱います」という意思表示だからです。逆に、ふわっとした条件で走り出す案件ほど、最後に必ず誰かが泣く。それだけは絶対にやりたくない。
海外契約は「日本の常識が通じない」からこそ面白い
そして最近ぐっと増えているのが、海外企業との契約です。
これがまた、面白くて怖い世界で。日本の商習慣の「そこは空気を読んで」「今後の協議で決めましょう」が、一切通用しません。書いていないことは存在しない。逆に、書いてあることは一言一句が武器にも刃にもなる。
準拠法はどちらの国の法律か。もめたときの裁判はどこでやるのか。「usage rights(使用権利)」の範囲にSNSのショート動画は含まれるのか。一つの単語の解釈で、数年後のビジネスの自由度がまるで変わります。
大変ですが、僕はこの仕事が好きです。だって、秋葉原発のコンテンツが海を越えるための最後の関門を任されているわけですから。契約書にサインが揃った瞬間、「これでうちのエンタメが世界に出られる」という手応えがある。これは企画が通った瞬間と、まったく同じ種類の興奮です。
おわりに—「作る人」と「守る人」は同じ人でもいい
企画を立てて、イベントを回して、契約書も読む。「手を広げすぎでは?」と言われることもあります(笑)。
でも僕は、これは一本の同じ仕事だと思っています。面白いものを作ることと、面白いものを守ること。どちらが欠けても、エンタメは続かない。そして続かないエンタメは、ファンを悲しませます。
RACZには、企画もクリエイティブも権利まわりも、境界線を引かずに丸ごと関われる環境があります。「作るのも好きだけど、仕組みを考えるのも好き」——そんな二刀流の素質がある人は、この業界で本当に強い。
契約書の向こう側にあるのは、条文ではなくて、誰かの「好き」です。それを一緒に守りませんか。
まずは気軽に、話を聞きに来てください。
次回 Vol.06 もお楽しみに。