目次
「相談相手のいない孤独」を知っているから、ファーストの仲間になった
家業での葛藤:立ちはだかった「昭和型ビジネス」と「感情の壁」
「温かく真剣」な社団の魅力
独立への情熱:「お茶の多様性」を広める使命
アトツギを「後継者」から「挑戦者」へ変える腕の見せどころ
家業に戻り、事業承継の直前まで進みながらも、「相談相手のいない孤独」と「親族経営の壁」に直面したアラン。その経験を乗り越え、現在は一般社団法人ベンチャー型事業承継のメンバーとして、アトツギが「ひとりじゃない」と思える環境づくりに情熱を注いでいます。
2026年には姫路で新たにお茶屋を独立開業するという、異色のキャリアを持つアランはなぜ、自らの挑戦と並行してまで、アトツギ支援の最前線に立つことを選んだのか?
アトツギの抱える「論理」と「感情」のギャップを知り尽くしたアランが語る、ベンチャー型事業承継の魅力、そして「後継者」を「挑戦者」に変えるための哲学に迫ります。
「相談相手のいない孤独」を知っているから、ファーストの仲間になった
―― アランは家業のアトツギとして承継直前の状況まで経験したと思いますが、社団との出会い、そして今この場所で働くことを選んだ一番の原動力は何だったのでしょうか?
家業のお茶お茶屋に入社した直後に感じていたのは、経営に対する漠然とした不安と、相談相手がいない孤独感でした。
アトツギ甲子園の記事をきっかけにファースト(当時のU34)の存在を知り、藁をもすがる気持ちで参加しました。そこでアトツギ同士の「繋がり」ができたことが、本当に大きかった。気持ちが楽になり、経営知識を深め、いつでも気軽に相談できる仲間や先輩経営者ができました。
家業を退職して自由に働けるようになったとき、この「ひとりじゃない」と思えた体験への感謝を、全国のアトツギにファーストの価値を広げることで伝えたいと思いました。2026年の独立開業までの約1年間、社団を通じて、かつての自分のように悩む人の役に立ちたいという強い想いが原動力になっています。
家業での葛藤:立ちはだかった「昭和型ビジネス」と「感情の壁」
―― 承継の過程で、先代との方針の違いから退職という大きな決断をされました。具体的にどのような課題に直面し、そこから何を学びましたか?
課題は、祖父が作った「スーパーへの薄利多売」という昭和型ビジネスモデルが、20年前から成り立っていなかったことです。売上の85%を占める既存事業を変える必要がありましたが、父にとってはそれが長年守り続けてきた大切な事業という自負が非常に大きかった。
会社の状況悪化に焦り、既存事業を否定するような「雑なコミュニケーション」を取ってしまい、関係が悪化してしまいました。
今振り返ると、「会社を数十年間続けてきたことの意義」、それが父にとってどれだけ意味のあることかを理解すべきでした。また、承継について父の本心を聞き出すのが難しかった経験から、間に信頼のおける第三者(メンターやサポーター)に入ってもらい、感情的なわだかまりを取り除くサポートの重要性を痛感しています。
でも、この経験も、アトツギの「理不尽」や「ハードシングス」を理解する糧になっています。
「温かく真剣」な社団の魅力
―—ファーストメンバーとして、そしてスタッフとして社団に関わってきたんですね。「ベンチャー型事業承継」というコミュニティはアランにとってどのような場所ですか?
最初から抱いている印象は、「温かく優しい、けれど事業については真剣」ということです。
新ブランドのピッチをさせてもらった時も、メンバーやメンターからのフィードバックは、愛情があるからこその厳しさで、とても鋭い意見が多かったです。でも、それは全て「チャレンジする姿勢を全力で応援してくれている」からだと感じました。
実際に働いてみて感じるのは、アトツギの課題は千差万別に見えて、親族間のコミュニケーションの難しさなど、共通する悩みが非常に多いことです。だからこそ、この「温かく真剣」な繋がりが、アトツギ特有の課題を乗り越える力になると信じています。
独立への情熱:「お茶の多様性」を広める使命
――2026年には姫路でお茶屋さんを独立開業されます。どのようなビジョンをお持ちですか?
家業にいる頃に始めた「お茶の多様性を楽しめる人を増やす」活動を広めていきたいです。
茶業青年団での活動を通じて、産地による違いやその背景を知ることが純粋に面白かった。この体験を、家業の強みを活かしたティーバッグの新ブランドなどで、同年代の方に手軽に楽しんでもらいたいです。
播磨屋茶舗の系譜を汲んだ私(一度は姫路を出たかったしお茶に興味がなかった人間)が、あえて姫路で開業することに意味があるのではないかと思っています。今後の目標は、2023年まで本社として使っていた旧本店をもう一度「お茶屋さん」として使えるようにすることです。
アトツギを「後継者」から「挑戦者」へ変える腕の見せどころ
――アランが考える「社団に向いている人」の共通点や、アトツギ支援で最も大切にしている哲学を教えてください。
向いているのは、辛抱強くアトツギの発言の背景を知ろうとする姿勢と、背中をしっかり押せるリーダーシップがある人です。
アトツギは、やるべきことが明確でも、論理ではなく感情的な理由で前に進めない時があります。また、元々「経営がしたい」タイプでない人も多く、チャレンジに慣れていない人がたくさんいます。
大半の理由が論理ではないので、「やればいいじゃん」と思ってしまいがちですが、その状況に寄り添い、一歩踏み出す変化をサポートすることが大切です。最初は嫌なことでも、回数をこなすと慣れたり好きになることがある。その変化を目の当たりにすると、心の底からアトツギの可能性を感じられます。
「頼りない」と思う後継者であっても、「アトツギ(挑戦者)」に変わるためにはどうすれば良いかを真剣に考えることこそ、私たちの腕の見せどころだと思います。