オンライン診療サービス「Oops(ウープス)」を運営する株式会社SQUIZは、2025年3月3日に “いろんなこころに、すっと頼れる診療を” をコンセプトにしたブランド「Oops HEART」をスタートすることになりました。
“相談できる医師や場所を、もっと身近な存在に” をブランドメッセージに、AGA治療やピル処方などの領域に対してアプローチをしてきたOopsが、なぜ心のケアやメンタルヘルスの領域にチャレンジするのか。一体どのようなブランドなのか。
「自分の心と対話する行為が、もっとあたりまえになる世界にしていきたいです」「自分の心をもっとすきになれる人が増えたらいいなと願っています」
このように想いを込める、Oops HEARTの事業責任者の野村と、ブランドプロデューサーの阿部に、話を聴いてみました。
野村吉貴
Oops HEARTの事業責任者。2014年大阪大学基礎工学部を卒業後、株式会社サイバーエージェントに新卒入社し、SEMコンサルタントとしてキャリアをスタート。2017年に株式会社ビズリーチへ転職し、その後スタートアップを経験。マーケティングや人事など、複数の職種を経験した後、2023年に株式会社SQUIZへ入社。現在は人事責任者を務めながら、Oops HEARTの立ち上げに携わる。
阿部奈菜美
Oops HEARTのブランドプロデューサー。2017年九州大学工学部卒業後、レバレジーズ株式会社に新卒入社。キャリアアドバイザーとして従事する傍ら、独学でWebデザインを学び、2018年株式会社LIGにデザイナーとして転職。副業で大規模なリブランディング案件なども手掛け、2021年ボストン・コンサルティング・グループのBCG X(旧BCG Digital Ventures)にStrategic Designerとして転職。複数領域における新規事業創出や戦略立案を担当。2024年30歳の節目で株式会社SQUIZに入社し、Oops HEARTの立ち上げに従事。
“本質的” に心のケアに向き合いたい
ー新ブランドのリリースおめでとうございます。Oops HEARTには、どのような想いが込められているのでしょうか?
野村:「いろんなこころに、すっと頼れる診療を」をコンセプトに、どこに住んでいてもスマホから心のケアにアクセスできる、オンライン診療ブランドです。一人ひとりの悩みや性格に合ったお医者さんと出会えることや、治療法が見つかることを大切にしています。
“心の不調” と聞くと、皆さんはどのようなことを想像しますか?一度心が不調になると、「これまで積み上げてきたものが崩れてしまうんじゃないか」「自分の役割や仕事がなくなってしまうんじゃないか」と、回復に時間がかかりそうなイメージを抱かれている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
精神科やクリニックって、まだまだ「どんな治療をされるんだろう」「なんとなく怖いところだな」というネガティブなイメージが先行しているように感じます。骨折などの身体的なケガと違い、心の浮き沈みは目に見えにくく、“回復した” という変化も分かりにくいですよね。
阿部:近年はメンタルヘルスへの注目度が高まり、著名人がうつ病などの心の不調を経験したニュースを耳にするようになりました。でも、“乗り越えた” という“光の面” がフォーカスされることが多く、「心が強いから自力で回復できたんだろうな」という印象をどうしても抱いてしまいます。
「この人の症状は自分と比べて軽いんじゃないか」「私はそんなに強くないから、もう元に戻れないのかな」という感情になると苦しいですよね。本当は、心が不調になった人それぞれに、悩んだことや辛いことがあったはずなのに。
心が不調になると、「周りにどう思われるだろうか」「迷惑をかけちゃわないだろうか」と、つい気になってしまうと思います。メンタルヘルスへのイメージが変わり、周囲からの理解が得られると、我慢してまで頑張り続ける必要なく、もっと自分を愛することができるようになるかもしれません。
野村:Oopsはこれまで、EDやAGAなどの“相談しにくかった悩み”や“子宮や卵巣から起こる様々な悩み”に対し、"本質的"に向き合うこと。偏見や情報の非対称性という課題を、クリエイティブやコミュニケーションデザインを通じて改善することにチャレンジしてきました。
課題は精神科にあるのではなく、悩みや性格に合った治療や、心の不調に対するイメージへの偏見にあるはず。僕らだからこそ、メンタルヘルスや心のケアの領域をもっとよくしていけるはず。そのような想いで、Oops HEARTを始めることになりました。
頼れる存在がいるだけで、気持ちは楽になる
ー阿部さんには、心や自身とどのように向き合った原体験があるのでしょうか?
阿部:私自身は、感受性が強く、毎日ジェットコースターのように感情が上下するタイプなんですよね(笑)感受性が強いからこそ人生が豊かだなと感じることも多いですが、自分の"影"の部分に目を向けるのが苦手で。
というのも、幼い頃から「自分には価値がない」とずっと感じてきたように思います。常に “価値がある自分でいなきゃ” という気持ちで、「この環境で求められているのはどんな自分だろう」と考え続けてきました。うまく適応できないと感じた途端、「もうおしまいだ」とネガティブな感情でいっぱいになり、ふさぎ込んでしまうこともあって。
どうしてだろう、仲のいい友だちにさえ、自分の辛さについて話すことができなかったんです。そんな状態でいる自分がみじめで、恥ずかしくて。「明るいね」「落ち込むことがなさそうだね」と周囲から思われてきたから、沈んでいる一面を見せたくないし、築いてきたものが全部壊れてしまうんじゃないかって。怖くて、相談できませんでした。
しかも、当時の私は、心の専門家に頼る選択肢を取れなかった。きっと、沈んでいる自分を受け入れられなかったし、認めたくなかったんだと思います。でも、あのときの私に、頼っていいと思える存在がいたら。医療の力を安心して借りることのできる、手が届きやすいサービスがあったら。
このような原体験があり、Oops HEARTに携わっています。
野村:心や精神科の領域って、本当に難しい。「正しい知識を必要な人に届けたい」という想いが人一倍強いからこそ、誰もが自分の心と向き合いやすくなれるようなブランドにできるように頑張ってくれています!
ー野村さんは、どのような原体験を経て今に至るのでしょうか?
野村:正直、社会人になるまでは苦労が少なく、順風満帆な日々を送ってきました。もちろん、仕事もできて順調に活躍していくものだと思ってた。しかし、いざ就職をすると、100人いた同期の中で下から数えた方が早いくらい、全く仕事で結果を出すことができなかったんです。
仕事ができない自分を認められなくて、虚勢を張って、大丈夫なフリをし続けてきました。自分と向き合うことから目を背けていると、ある時から、定期的に40度の高熱が出るようになりまして。「仕事はできないのに、見栄を張っている、その上休むなんてもってのほかだ」そんな感情に支配されましたが、もちろん長く続くわけもなく、会社に行けなくなりました。
思えば、自分の弱さをさらけ出せる場所がなくて苦しかったんだと思います。これまで周りから頼られることが多く、失敗してもすぐに笑い話にしちゃうような性格で。同僚や親に心配をかけたくなかったし、ダメな自分を見せたくなかった。だからいつも、「熱出ちゃったんですよ~」ってはぐらかしてた。でも、本当は話を聞いてほしかったんです。
何かとストレスがかかりやすい社会で、自分と向き合うことは大変です。人が悩み、変化していく本質を忘れることなく、医療のプロの人たちと手を取り合うことで、もっと自分らしく生きれる人が増えていくのではないか。
一番最初に僕が実体験で感じた課題と、これからチャレンジしていきたいことが、やっとリンクした感覚があります。Oops HEARTは自分がやるべき、“想いを込められる領域” なんだなと。“話しても大丈夫” と思える存在がいるだけで、気持ちは楽になるし、救われる人はたくさんいるんじゃないかなと思います。
お医者さんと患者さんが “対等” な診療体験
ーお二人の想いや原体験も経て、改めてOops HEARTにはどのような特徴があるのでしょうか?
阿部:一つ目は、 “根本的な” 治療を提供することです。
人にはそれぞれの人生があり、日々いろんなことが起こる。悩みや症状の形はさまざまで複合的だからこそ、「ある症状に対しては薬の処方を」「この症状に対してはカウンセリングを」などと、固定化された治療法はないのではないかと考えています。
薬を処方することが目的ではなく、あくまでも対処法の一つとして薬を位置付ける。症状によって、適切な治療の形は複数存在するからこそ、一人ひとりの心の状態に合わせて寄り添えるブランドでありたいという想いがあります。
野村:僕らは決して、「今の世の中にない、新しいものを生み出したい」と思っているわけではありません。悩みを持つ人がちゃんとお医者さんに相談できる。会話をしていく中で、悩みの原因が見つかり、治療を通して状態が良くなっていく。そんな場を提供していきたいんです。
症状を根本的に解決するために、薬が必要なら処方をする。一方で、本人が薬を飲みたくない場合は、処方しない選択もできる。境遇や心情に合わせて、本質的に寄り添いたいという想いを強く持っています。
阿部:二つ目は、患者さんご自身が手綱を持って、心と向き合い回復していけるように伴走することです。
“患者さんとお医者さんが対等” な関係性で診療を受けられるのが、Oops HEARTのポイントです。一般的には、お医者さんの方が立場が “上” で、お医者さんの言うことは “正しい” というイメージがまだまだあるように思います。
でも、最終的に治すのは “患者さん自身” なんですよね。症状や性格と向き合い、自分の足で改善に向けて歩んでいけるように、治療の仕組みをつくることも大切にしています。
Oops HEARTが介入することで、お医者さんとの距離が近づき、信頼関係が芽生えていく。お医者さんからの一方的なコミュニケーションではなく、患者さんの意見もお医者さんに届けるような仕組みをつくっているので、まさに “伴走” 的な関わりになることを目指しています。
野村:診療を受けている時間よりも、クリニックに行っていない時間の方が圧倒的に長いんです。だからこそ、日常の中で自分自身と向き合えるようなサポートを大事にしたい。お医者さんから言われたことだけでなく、自分自身で考えて気づけたこともある方が、向き合い方への選択肢が広がりますよね。
ーOops HEARTは、“根本的な治療” “ご自身で手綱を持つこと” を大切にしているんですね。実際はどのような流れで診療を受けるのでしょうか?
阿部:最初に診療を受ける初診では、お医者さんと30分間カウンセリングをしていただきます。他のクリニックと比べて長めにお時間を取っており、様々な精神科医と議論を重ねた上でこの時間を設定しました。
ちゃんと一人ひとりの心の状態を “お互いに” 理解し合い、「このお医者さんなら信頼できるかも」と安心して本音を話せるようになるためには、じっくり時間をかける必要があると思っています。お医者さんから一方的に意見をもらうのではなく、ご自身で気づきを得られるように、“問いかけ” を大切にしたカウンセリングを提供しています。
ていねいに質問をしてもらいながら、ただ話を聞いてもらえるだけで、気持ちが軽くなることもあると思うんです。2回目、3回目と治療が進む中で、「私いけるかも、大丈夫かもしれない」って、自然と前向きに回復していけるようなブランドにしていきたいですね。
いろんな心の変化に、ずっと寄り添える存在に
ー最後に、Oops HEARTを通じてお二人はどのようなことを実現していきたいですか?
野村:“自分の心と対話する行為が、もっとあたりまえになる世界” にしていきたいです。
とはいえ、一人で対話できるようになるのは難しいと思うので、私たちを上手に使ってほしいです。
ブランドをつくる過程で感じたのは、“患者さんに本気で向き合っているお医者さんが、世の中にはたくさんいる” ということ。少しでも辛いと感じたら、ぜひカウンセリングを試してほしいですし、この記事を通じて “頼れる人はここにいるよ” ということを知ってもらえたら嬉しいです。
悩んだとき、しんどいときには、「精神科医に頼っていいんだ」と誰もが手に取れるようなブランドにできるように、Oops HEARTは頑張っていきます!
阿部:自分の心をもっとすきになれる人が増えたらいいなと願っています。
人が持つ性格はそれぞれで、光もあれば影の面もあります。影の部分は、実際にネガティブなイメージを抱かれることが多いし、私自身も “わるいものだ” と扱ってきました。でも、実はそこに本当の気持ちが隠されているんです。自分の影にちゃんと向き合ってこそ、もっと光の面が輝いていくんじゃないかなと。
Oops HEARTは、人が持つ “光と影” の両面に向き合う存在になりたいなと思いますし、「自分の影の部分にもしっかり向き合えてよかった」と実感してもらえるように伴走していきたいです。そして、心のあらゆる面を受容できるようになると、もっと自分のことをすきになれるんじゃないかと信じています。
時には、自分のことが嫌になり、心が沈む状態が訪れるかもしれません。でも、どんな心の状態であっても、心は唯一無二の心友のような存在ですし、その境遇が人生の支えになる瞬間も必ず訪れると思っています。私たちは、いろんな心の状態にずっと寄り添える存在でいたいですし、「自分の心と向き合うことの大切さ」に気づけるようなきっかけをたくさん育んでいきたいです。
企画・編集:阿部奈菜美、野村吉貴
取材・執筆:林将寛
撮影:omame