出勤するときいつも目に留まる、高層マンションのベランダがある。緑がにょきにょきと顔を出している、3階のベランダ。春になると花が咲き、夏には青々と葉が茂る。秋にはその葉も色づき、冬には枯葉がさみしく揺れている。どんな人が暮らしていて、他にどんな植物が育てられているのかはわからない。けれど、あのベランダには、必ず季節がやってくる。植物たちは3階から、私たちに季節を知らせてくれているのだ。スマホを見ながら通り過ぎるのは、あまりにもったいない。それに気づいてからというもの、私は少し斜め上を向いて通勤している。ちょっと目線を高くすると、小さな発見があるものだな。
5月、空気の澄んだ季節になると、「今年もバラが咲きましたね」と家主に届くはずのない小さな声でつぶやいている。(文・尾松)