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現代社会は、目覚ましいテクノロジーの進化とともに、かつてないほどの変革期を迎えています。私たちの生活様式、働き方、そしてコミュニケーションのあり方も、その波に乗り大きく変容を遂げてきました。とりわけ近年、世界を覆った新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、人々の物理的な接触を厳しく制限し、これまで当たり前のように存在していた地域社会における集いの機会を否応なく奪い去りました。
しかし、このような未曽有の事態においても、私たち人間にとって地域社会との繋がり、そして温かい人々との交流が、心身の健康を維持し、日々の生活に潤いと豊かさをもたらす上で、決して欠かすことのできない要素であることに変わりはありません。むしろ、物理的な距離が生まれたからこそ、心の距離を縮めたいというニーズは、より一層高まっていると言えるでしょう。
このような社会情勢における喫緊の課題意識から、革新的なオンラインコミュニケーションアプリ「つどエール」は誕生しました。
このプラットフォームは、地理的な制約、時間的な制約、そして身体的な制約といったあらゆる障壁を超え、デジタルな繋がりを通じて、地域に根ざした多様な活動と心温まる交流を力強く支援することを目的として開発されました。
本稿では、「つどエール」が、現代社会におけるコミュニティの再構築という重要なテーマにどのように貢献し、私たちの生活にどのような新たな価値をもたらすのか、その多岐にわたる可能性について深く掘り下げていきます。
その具体的な事例として、身体教育医学研究所・岡田真平所長、指導員の倉崎直子様、そして住民サポーターとして地域を支える小林和利様のモデルケースとなった、自然豊かな長野県東御(とうみ)市の皆様への貴重な取材内容を交えながら、その全貌を明らかにしていきます。
目次
- 地域に根差した研究と実践 - 身体教育医学研究所の理念
- 高齢者の健康と交流を支える「集い」の場
- 新型コロナウイルス流行が奪った「集い」の機会
- オンラインでの「集い」の再現 - 「つどエール」の誕生
- 高齢者にとって使いやすいツールを目指して
- 現場での手応えと新たな課題
- 「つどエール」のこれから - デジタルが拓く新たな可能性
- 取材を終えて
岡田 真平
公益財団法人 身体教育医学研究所 所長
身体活動と健康の関係性、特に予防、教育、政策の観点から研究。
エビデンスに基づいた知見と実践の経験を融合して、自治体や企業等の支援に従事し、アプリ開発などの社会実装を推進する橋渡し役も担う。
地域に根差した研究と実践 - 身体教育医学研究所の理念
岡田所長 私たちは、「誰もが『からだを育み、こころを育み、きずなを育み』ながら、住み慣れた地域で健やかに、そして自分らしく暮らし続けることができる社会」の実現を心から願い、そのための研究と実践活動に日々邁進しています。長野県東御市は、私たちの研究活動における重要な拠点の一つです。
私たちの活動は多岐にわたります。未来を担う子どもたちのための創造的な運動遊びや、豊かな自然に触れる里山探検プログラム。健康寿命の延伸を目指した高齢者の介護予防教室や、生活習慣病予防のための運動指導。さらに、障がいの有無に関わらず、誰もが共に楽しめるユニバーサルスポーツの普及活動など、幅広い領域で活動を展開しています。
これらの活動を通して得られた貴重なデータや知見を基に、保健・医療・福祉・介護・教育・スポーツといった多様な分野からの視点を取り入れた調査研究を行い、その成果を教育や啓発活動、そして積極的な情報発信を通じて社会に還元しています。
そして、これらの活動から自然と生まれる、地域に根ざした広範なネットワークを最大限に活かし、誰もが安心して、そして健やかに暮らせるような地域社会づくり、ひいては公共政策の形成に貢献していくことを、私たちの重要な使命と捉えています。
高齢者の健康と交流を支える「集い」の場
取材当日、東御市にお住まいの65歳以上の皆様を対象とした、活気あふれる介護予防教室が開かれていました。
ここでは、 指導経験豊富なインストラクターをお招きし、参加者の体力レベルやニーズに合わせて、運動強度別に計6つの教室が開講されています。教室の内容は、日常生活に必要な筋力向上トレーニング、認知機能の維持・向上に役立つ脳トレレクリエーション、そして、高齢者にとって特に重要な課題である転倒を予防するための体づくりを中心とした、多岐にわたる運動プログラムが提供されています。
その中でも、今回見学させていただいた「貯筋教室」 は比較的運動強度の高い教室です。参加者の皆様は真剣な表情で、笑顔を交えながらインストラクターの指導のもと熱心にトレーニングに取り組んでいらっしゃいました。
貯筋教室の様子
倉崎指導員 もちろん、筋力向上や転倒予防といった身体的な効果は非常に重要です。しかし、この教室が持つ意義は、運動効果だけではありません。ここは、参加者の皆様にとって、地域社会との大切な交流の場となっているのです。
教室に参加される皆様からは、「こういった場所に定期的に足を運ぶことが、日々の生活の活力になっている」「ここで顔を合わせる仲間がいることが、運動を続ける目標になっている」といった声をよく聞きます。運動を通じて体を動かすことの爽快感とともに、仲間との会話や笑顔が、心身の健康を支える大きな力になっているのだと感じています。
新型コロナウイルス流行が奪った「集い」の機会
しかし、2020年に世界的に大流行した新型コロナウイルス感染症は、これまで当たり前のように存在していた「集い」の場を一変させました。
倉崎指導員 緊急事態宣言の発出などにより、公共施設の使用が禁止され、楽しみにされていた介護予防教室も、やむを得ず休止せざるを得ない状況となりました。毎週のように顔を合わせて、共に運動し、語り合っていた参加者の皆様との交流が、突然途絶えてしまったことは、私たちにとっても大きな痛手でした。
その後、感染状況が落ち着き、久しぶりに参加者の皆様にお会いした際、以前とはまるで別人のように、心身ともに元気をなくされている方が少なくありませんでした。コロナ禍で自宅から外出する機会が極端に減り、活動量が大幅に低下してしまったことが、その大きな原因だと考えられます。
そのような状況を目の当たりにし、「何とかしなければならない」という強い思いと、この困難な状況下でも、地域の方々の繋がりを維持し、健康をサポートするための新たな手段として、「つどエール」を利用しました。
当時を振り返る倉崎指導員
オンラインでの「集い」の再現 - 「つどエール」の誕生
「つどエール」開発における最初の、そして最も重要な目標は、これまで対面で行われてきた地域の方々の「集い」を、オンライン上で可能な限り忠実に再現することでした。
倉崎指導員 地域社会との交流が、物理的な接触を伴う形では実現することが極めて困難な社会情勢において、オンラインでの繋がりは、まさに唯一の希望の光でした。これまで培ってきた地域の方々の繋がりを、何としても絶やしたくない。その強い思いがありました。
高齢者にとって使いやすいツールを目指して
市場には、Web会議システムやコミュニケーションツールなど、オンラインで繋がるための様々な製品が存在します。その中で、なぜあえて「つどエール」というオリジナルのアプリを開発する必要があったのでしょうか。
岡田所長 確かに、オンラインでコミュニケーションを取るためのツールは数多く存在します。しかし、それらの多くは、ビジネス用途や若年層の利用を主な対象としており、高齢者をメインユーザーに想定した製品やツールはほとんどありませんでした。
東御市を含め多くの地域には、スマートフォンの操作に慣れていない高齢者の方がたくさんいらっしゃいます。そのような方々にとって、複雑な操作や多くの機能を備えた既存のツールは、かえって利用のハードルを高めてしまう可能性があります。
そこで、私たちがJ.B.Goode Inc.に依頼した内容は、スマートフォンに不慣れな高齢者の方でも、より直感的に操作できるインターフェースを持ちながら、リアルな活動の場と同水準のコミュニケーションを実現するシステムを開発することでした。
また、ログイン認証やアカウント登録なども、高齢者にとっては大きな障壁になります。個人情報のセキュリティを確保しつつ、利用者の皆様に負担をかけない方法をプロジェクトチームで模索しました。
その結果、特定のひらがな4文字を合言葉とする認証方式を採用することで、煩雑なIDやパスワードの管理から解放され、スムーズに指導員と地域住民が繋がる仕組みを実現することができました。
現場での手応えと新たな課題
実際に「つどエール」を地域の活動に導入してみて、どのような手応えを感じているのでしょうか。
倉崎指導員 長い間、参加者の皆様の声を聞くことができず、顔を見ることもできない状況が続いていたので、まずはオンライン上で再会できたことに、大きな安堵感を覚えました。
しかし、参加者の皆様はもちろん、私たち指導する側もオンラインでのやり取りには慣れていないため、最初は手探り状態でセッティングを行っていました。
小林様 アプリのインストールや基本的な操作方法のサポートなどで、参加者の皆様のお手伝いをさせていただく中で、徐々に皆様がスマートフォンの使い方に慣れてこられたのを感じています。私も含めてですが、「つどエール」が、思わぬ形でスマートフォンの使い方を学ぶ良い機会になったのかもしれません。
左:小林様、右:倉崎指導員
岡田所長 開発段階では想定していなかった課題も明らかになりました。
倉崎さんが仰るように、アプリの利便性を高めるために、開発側のJ.B.Goode Inc.の皆様とは本当に密なコミュニケーションを取りましたが、実際に利用者の皆様が苦労される部分は、Wi-Fiへの接続設定であったり、アプリのインストールといった、導入の初期段階に集中していることが分かりました。
また長年住民サポーターとして、教室の運営をサポートされている小林様の奥様は「つどエール」をきっかけに教室に参加することになったとお伺いしました。
小林様 オンラインだからこそ実現できた嬉しい出来事もありました。実際に私の妻は、以前から体調に不安を抱えていたので、体操教室への参加を勧めていたのですが、なかなか重い腰が上がらずでした。
ただ、つどエールが出来たのでオンラインで自宅にいながら参加ができるということでスタートすると、徐々に体調も優れてくるようになり、今では一緒に参加するようになりました。
もし対面式の教室のみであれば、いきなり知らない場所に飛び込むことへの抵抗感があったかもしれませんが、オンラインであれば、そうしたハードルが低く、まずは気軽に試してみることができたのだと思います。対面での教室にも積極的に参加するようになり、地域との繋がりを深めています。
「つどエール」のこれから - デジタルが拓く新たな可能性
新型コロナウイルスの感染状況も落ち着きを見せ、社会活動は徐々に正常化に向かっています。「つどエール」は、最初のコンセプトとして掲げた「オンライン上での『集い』の再現」という役割を、一定程度果たすことができたと言えるでしょう。しかし、「つどエール」の可能性は、それだけに留まりません。
岡田所長 パンデミックという特殊な状況下においては、物理的な制約を乗り越えてオンラインで繋がることに大きな意義がありました。しかし、現在のように対面での交流が比較的自由になった社会においては、「オンラインで集まる」ということ自体の重要性は、以前ほど高くないかもしれません。
しかし、「集い」というものは、本来、会場に物理的に集まることができる人たちだけのものではないはずです。健康上の不安、あるいは天候、移動手段の問題から、なかなか外出することが難しい方々もいらっしゃいます。そうした、これまで「集い」に参加したくてもできなかった方々に向けて、必要な情報を提供したり、オンラインならではの交流の機会を設けることが、「つどエール」の次なる重要な目的になると考えています。
デジタルをうまく活用することができれば、物理的な制約を受けません。例えば、オンラインであれば、自宅にいながら専門家の話を聞いたり、遠隔地に住む仲間と交流したりすることができます。また、過去の教室の動画をアーカイブとして残すことで、いつでも好きな時に学習したり、運動したりすることも可能です。
私たちは、「つどエール」が持つこれらのデジタルならではのメリットを最大限に活かし、誰もが取り残されることなく、より包容力のある地域社会の実現に貢献していきたいと考えています。
つどエールの未来について熱く語り合う3人
取材を終えて
新型コロナウイルスの感染拡大という、未曾有の危機の中で生まれたオンラインコミュニケーションアプリ「つどエール」が、物理的な距離を超え、人々の間に新たな交流の形を生み出していることを、今回の取材を通して強く感じました。
特に印象的だったのは、高齢者の方々が、最初は戸惑いながらもオンラインでの交流に積極的に参加し、徐々に慣れていく様子や、自宅にいながらにして体操教室に参加できるようになったというエピソードです。これは、デジタル技術が、これまで社会との接点を持ちにくかった人々にも、新たな希望と可能性をもたらすことを示唆しています。
これまで、健康上の不安や移動手段の問題など、様々な理由で地域社会との繋がりを持つことが難しかった人々も、「つどエール」という架け橋を通じて、再び温かい繋がりを取り戻し、社会の一員として活躍できるようになったことは、地域社会全体にとって大きな進歩と言えるでしょう。
岡田所長がおっしゃるように、今後は、「つどエール」が持つデジタルならではのメリットをさらに活かし、情報格差の解消や、よりきめ細やかなサポートの提供を通じて、誰もが取り残されない、より包容力のある社会の実現に貢献していくことが期待されます。
「つどエール」は、単なるオンラインツールではなく、人々の心と心を繋ぎ、地域社会に新たな活力を生み出す、希望の光となる可能性を秘めていると感じました。今後の発展と、それが地域社会にもたらすであろう豊かな未来が、今から楽しみでなりません。