最近の僕は、事業や投資という観点で、二つの大きな潮流に注目しています。
一つは、人間と機械が統合していく「サイバネティクス」の領域。
もう一つは、人間や自我という枠組みを超えて私達を癒す「地域」という現場です。
一見、まったく異なるこの二つのテーマは、実は深いところでつながっています。
それは、「AI革命の先で、僕らはどこへ向かうのか?」という根源的な問いに対する、僕なりの答えでもあります。
今まさにAIが社会を席巻し、それが「フィジカルAI」としてロボットへと波及していく中で、一つの大きな問いが浮かび上がります。
それは、「人間と機械が統合していく時代に、どんなテクノロジーが必要になるのか?」という問いです。
人間は、機械ではありません。
僕らの身体は、オーガニックな、つまり「有機的な」仕組みで動いています。血管一本一本の動き、ミトコンドリアの働き、そうした生命の根源的なメカニズムは、まだ完全には解明されていません。
一方で、AIとロボットは日進月歩どころか、凄まじい勢いで進化している。その先には宇宙開発があり、資本主義がそれを後押しする。
これはこれで、一つの大きな流れです。
しかし、もう一つの流れがあります。
それは、生命の仕組みそのものを解明しようとする流れです。創薬や人体の研究もまた、AIによる膨大な計算によって、少しずつ分かってきていることがある。
この二つの流れが、やがて交差する。
つまり、有機的な生命体である人間と、無機的な機械が統合していく未来です。
その時に必要となるテクノロジーとは何か。それを模索するのがサイバネティクスだと、僕は捉えています。
分かりやすい例を挙げるなら、イーロン・マスクが手掛ける「ニューラリンク(Neuralink)」があります。
これは、人間の脳波を読み取り、「思う」だけで機械を操作する技術です。例えば、前頭前野で「右へ動け」と意識を集中させると、ドローンがその通りに飛ぶ。これはもう実現している技術です。
松本零士が『銀河鉄道999』で描いた世界観に近いかもしれません。
「機械の体が欲しい」と願う登場人物たち。身体の一部が機械化されている世界。
あのSFの世界が、いよいよ現実の射程に入ってきたのです。実に予測可能で悲劇的な未来です。
そして、その絶望的な未来を救うセーフティネットになるのが「地域」です。
僕は、地方にこそ、世界のあり方を変えるような、本質的な可能性があると見ています。
僕らは2020年頃から約5年間、この地域開発の仕事に携わってきました。具体的な活動として、これらの知見をまとめた書籍『100年続く地方創生の教科書』を出版しました。
その経験から、これからの社会には、都市型の「キャピタリズム」、宇宙を目指す「バーチャリズム」と並んで、第三の潮流、地域に根差した協和型の経済システムである「シェアリズム」が必要だと考えています。
地域開発には、絶対に押さえなければならない5種類のステークホルダーが存在します。
僕らはそれを「5G」と呼んでいます。
- Gyosei(行政)
- Giin(議員)
- Gozoku(豪族)
- Ginko(銀行)
- Guild(ギルド・組合)
この5Gをうまく巻き込まなければ、物事は前に進みません。
地域の暮らしをテクノロジーで支えるアプローチは、3つのレイヤーで考えられます。
1. 人手不足を補うインフラ管理:
労働力不足が深刻な地域において、AIやロボティクスを活用して社会インフラを維持・管理する。具体的には、災害予測(土砂崩れ、水害)、エネルギー供給の最適化(スマートグリッド)、交通(ライドシェア)、農業の自動化、高齢者の見守りなどが含まれる。
2. 地域資源を収益化する新産業創出:
地域に眠る歴史、文化、技術といった無形資産をテクノロジーでレバレッジし、新たな産業を創出して収益を上げる。例えば、伝統工芸品のデザインプロセスにAIを導入して付加価値を高めたり、インバウンド観光客を誘致するためのマーケティングに活用したりする。
3. 暮らしの豊かさと繋がりの向上:
インフラ維持や産業創出とは異なる次元で、住民の心の静けさや人々の繋がりといった「豊かさ」を醸成する。景観の整備やコミュニティ活動の支援などがこれにあたり、AIが直接的に関わるかは未知数としつつも、暮らしの質(ウェルビーイング)を高める上で重要なレイヤーである。
インフラを整え、産業を興した先にある、つながりや心の静けさといった、数字では測れない「豊かさ」をどう高めるか。これはゼロをプラスにする営みです。
しかし、どんなに崇高な理念も、お金が流れる仕組みがなければ持続しません。
地域活性化が、個人の手弁当やボランティアで終わってしまっては、レバレッジが効かない。
そこで必要になるのが、ファイナンスの力です。
ひとつの答えは、東京の大手企業や地域の支援者がファンドを形成し、起業家の挑戦に投資するスキームを構築することです。
具体的には、地域で起業したスタートアップに対して、エンジェル投資家や我々のようなファンド、そして大学自身が出資を行う。
そして最終的な出口戦略として、IPOではなくM&Aを想定します。買い手は、地域の信用金庫や、事業承継に悩む地元の「豪族(ごうぞく)」たちです。
このM&Aによって、初期の出資者は、10年ほどの期間で10倍、100倍のリターンを得る。
そして、回収した資金は、再び次の世代の起業家へと投資されるのです。
こうして、お金と、挑戦する意志と、成功のノウハウが、地域の中で循環し始める。
私は今、まさにこのエコシステムを仲間たちと一緒に立ち上げようとしています。
これは単なるビジネスではない。ファイナンスの力を通じて、地域に眠る可能性を解き放ち、未来そのものを創り出す試みです。
さて本題です。
人間と機械の境目がなくなり、地域から新たな価値が生まれる。
その交差点を私は哲学を用いて解きたいと思っています。
私は一つの仮説を持っています。それは私自身は人間でも身体でもなく、ひとつの意識(宇宙)であるということです。川のせせらぎを聴きながら甥っ子と川魚を釣りながら私はその境地にいます。
釣りは禅です。繊細な魚を釣るためには自分を消さなければならない。姿かたちだけでなく、心も自我もすべてです。そうすることでようやく魚は警戒心を解き餌に食いつくのです。
私はこのような田舎における自然に「溶けてゆく」体験の中で至福を得るとともに本当の幸福を感じます。
それは巨大な資本の下支えによって膨らんでゆくAI、ロボット、そして人間という生命の破壊という予想される未来にも決して侵されない領域なのです。そこに大きな安らぎを得ます。
地域創生という領域は、超高度資本主義機械文明に対する最後のセーフティネットです。
伊勢神宮や高野山に象徴されるような、独自の精神文化、この国の歴史や文化の中にこそ、AIという巨大なパラダイムシフトを乗り越えるヒントが眠っているのではないかと日々感じます。