台湾発の女性向け漢方ライフスタイルブランド「DAYLILY(デイリリー)」。漢方薬局を営む父を持つ台湾出身のEriと、その大学の先輩である小林が立ち上げ、今や台湾のフラッグシップの他、国内に5店舗を展開しています。
今回はEriと小林にブランドにかける想いや、組織づくりのこだわりについて話を聞きました。
台湾の日常に溶け込んでいる漢方を若い女性向けにアップデート
―まずは2人の関係について聞かせてください。
小林:Eriは私の大学の1年後輩で、同じゼミに所属していました。デザイン思考を学ぶゼミで、Eriは「音楽と漢方」私は「ブランディングとデザイン思考」をテーマに研究していました。
当時は事業を立ち上げるなんて全く考えておらず、大学卒業後はお互い別の広告代理店に就職。私はクライアントの新規事業開発をする部署で働いていました。
―漢方の事業を始めたいと思ったきっかけは何だったのでしょうか。
小林:大学時代に、Eriに漢方の研究の相談をされたことです。日本で漢方と言えば薬のイメージが強いですが、台湾ではライフスタイルの延長で日常的に使うもの。日本にはないその感覚が面白いとずっと思っていたんです。
勝手にEriは漢方の仕事をすると思っていたのですが、就職すると聞き、それなら一緒に漢方を仕事にしたいと思って相談しました。私は先に会社を辞め、在職中のEriと一緒に開業準備を始めたのです。
―Eriさんは日本に来た時に漢方の扱いの違いは感じましたか。
Eri:私は父が漢方薬局の経営者なので、普段から漢方に触れていましたし、日本に留学に来た時も漢方を持ってきていました。その話を日本の友達に話したらびっくりされたので、日本と台湾では文化が大きく違うんだなと思いましたね。
日本では体調を崩してから漢方を飲む人もいますが、台湾ではちょっと疲れた時や肌の調子が悪い時に自分で処方して飲むくらいポピュラーなんです。多分、日本の方が疲れた時にコンビニなどで栄養ドリンクやサプリを買って飲むのと同じ感覚ではないでしょうか。
―小林さんが会社を辞めてまで漢方の事業を始めたいと思った理由を教えて下さい。
小林:単純に、私達が使いたくなる漢方があってほしいと思ったからです。台湾では日常的に漢方はあるものの、日常的であるが故に若い女性の気分が上がるようなおしゃれな店はありません。どのお店も薬局らしい堅い空気があって。だから、それをそのまま日本に持ってきても誰も使わないな、と。
もっと若い女性が使ってみたくなるようなおしゃれな漢方ブランドを、私自身が欲しくて作りました。
未経験にも関わらず、独立から半年で開業に至った秘密とは
―二人とも広告代理店勤めだったとのことですが、どのように物販事業の準備を進めたのか聞かせてください
小林:私たちはお店づくりの経験もノウハウもなかったものの、Eriの実家をはじめ、様々な人に話を聞きながら学んでいきました。最初、私がEriに提案した時に企画書をつくり、そこからは2人でそれをアップデートしながら、様々な人にみせてを繰り返して、気づいたら話が進んでいった感覚ですね。
本格的に動き出したのは台湾のメーカーにプレゼンをして、一緒に商品をつくれることが決まってから。多くの人を巻き込んだのを実感して、そこからはちゃんと形にしなければいけないと、クラウドファンディングなど様々な施策を考え実行しました。
―順調に開業に至ったのでしょうか。
小林:私が会社を辞めクラウドファンディングで資金を集め、店をオープンするまで約半年。Eriが会社を辞めて加わったのはさらに半年後です。
それだけ早く店を始められたのは、Eriの実家の薬局でショップインショップとして始めたから。昔ながらの漢方薬局の隣で、今らしいアップデートされた漢方を販売したのです。最初は日本で開業することも検討したのですが、台湾からスタートさせることでブランドとしての信用度を高めたいと思いました。
―日本での展開についても聞かせてください。
小林:台湾の店舗が軌道にのった頃、表参道でポップアップショップを開きました。駅からは少し離れた場所だったにも関わらず、予想以上の方にご来店いただき、テレビにも取り上げてもらったのです。
それがきっかけで様々な商業施設から声をかけていただき、今では国内で5店舗を展開しています。
お客さんとのフラットな関係性が愛される理由に
―これまで日本ではあまり馴染みのない漢方が、なぜ受け入れられたのか理由を教えて下さい。
Eri:これまでの漢方は効果・効能をメインに伝えてきましたが、それは間違いなく必要なことではあるものの、ワクワクはしないなと……。それよりも「楽しくハッピーな暮らしを支えるために、漢方を取り入れませんか」と使う人と同じ目線で提案したのです。
それは接客にも表れていて、シスター(店舗スタッフ)にも問診ではなく友達と話す感覚で接してもらっています。いい意味でお客様扱いしすぎないことが、馴染みやすさに繋がったのではないでしょうか。
―どういうお客さんが多いのでしょうか。
Eri:予想よりも幅広い年齢層の方に利用してもらっています。私たち2人が20代なので、最初は若い方にしか響かないと思っていたのですが、50代60代のお客様も少なくありません。
性別は圧倒的に女性が多いです。女性にヘルシーな生活を送って欲しいと思ってブランドを立ち上げ、女性向けの商品を作っているので当然ですね。ただし、今後はどうなるかはわかりません。男性向けの商品も作るかもしれませんし、いずれは性の境目もなくなるのではないかと思っています。
―順調に事業を展開しているようにも感じますが、事業の成長スピードの自己評価を教えてください。
小林:事業展開を急いでいるわけではないので、自分たちのスピードを評価したことはありません。一つのブランドを作り、それを根付かせるには時間がかかるもの。加えて漢方はもともと長い歴史があるものですから大切に育てていきたいと思っています。
今はやっとブランドを立ち上げたばかりで、これから何年もかけて根付かせていくところです。スピードは気にしていませんが、まだまだやるべきことはたくさんあると思っています。
―VCなどから出資も受けていますが、成長を求められないのでしょうか。
小林:出資してくださる方も、同じようにブランドや文化を根付かせることに価値を感じてくれているので、いたずらに成長を急がせるようなことはしません。もしもマイナスなことがあっても、批判ではなくどうすれば良いかを一緒に考えてくれるパートナーたちです。
出資はしてもらっていますが、上下関係は感じていません。お互いに対等な関係であると感じているので、率直な意見を交わしています。
仕事で人生を豊かにできる人と働きたい
―今の組織について教えて下さい。
小林:フラットであり自由な組織です。ヒエラルキーもなければ、強制力もありません。私たちが大事にしている「Health first」のバリューはありますが、それも人によって解釈が違いますし、その多様性を大事にしています。
ブランド作りというと同じような人が集まりがちですが、私たちは多様な組織でありたいと思っています。ブランドに対する解釈がそれぞれ違ってもいいですし、お互いの解釈を聞いて刺激し合える関係性が理想です。
―それぞれ解釈が違う人どうして組織を作るのは難しいと思いますが、今はまとまっているのでしょうか?
小林:組織がまとまらないのは正解を求めるからであって、誰の解釈が正しいと考えなければ組織はまとまります。逆にいろんな解釈が生まれることこそが私たちの価値なので、自分たちと違う解釈こそ大切です。
逆に大きな組織で画一性を求められてきて、それが意外と心地いいと思っている人は、私たちと働くのが難しいかもしれません。ヒエラルキーがあって、解釈が決まっている組織のほうが向いている人もいますし、それが悪いわけではありません。ただルールがなく、フラットすぎる私たちの組織に入ってきたら困惑してしまって、お互いが働きにくくなってしまうのではないかなと思っています。
―どんな人ならデイリリーにマッチすると思いますか。
小林:性別も国籍も問いませんし、楽しく心地よく気持ちよく働ける方ならどんな方でも構いません。強いて言うなら、新しい文化を日本に根づかせていく仕事なので、答えのない中で常にベターを探す努力を楽しめる人ですね。
Eri:あとは仕事で人生を豊かにできる人。例えば最近入社した社員は旅行が好きで、自分で旅をしながら働いています。どうしたら楽しく働けるかわかっているので、仕事では高いパフォーマンスを出しますし、仕事で人生を豊かにしています。彼女のように、デイリリーで働くことによって人生を健康的にできる人だと尚いいですね。そのために私たちもサポートを惜しみません。
小林:私たちは使う人々の日々を豊かにする商品を扱っているので、私たちの人生も豊かでなければいけません。デイリリーで働くことで人生が豊かになれば、それほど嬉しいことはないです。
仕事は人生の時間の中でも大部分を占めるので、自分に合わせて、豊かに生きられる働き方を見つけてほしいんです。
―最後にこれからのビジョンについて教えて下さい
小林:現在取り組んでいるのは、産後病後の身体をケアする薬膳スープや火鍋です。今後はそういった食事を食べられるお店も作っていきたいと思っています。
新型コロナウイルスの影響で、私たちも店舗のあり方について考えたのですが、私たちが店舗を持つ意味は決してブランドの宣伝をするためではありません。お店に足を運ぶことで漢方やヘルシーなライフスタイルを体験できる、身近な存在として感じられる場としての店舗にしていきたいとずっと思っています。
これまで製品販売をメインに事業を展開してきましたが、今後はそのようなお店も増やしていきたいですし、最終的にはどこの国でも、DAYLILYの商品が手に取れる状態をつくっていきたいので、日本・台湾・アジアに限らず、様々な国と地域に届けていきたいと思っています。