2026年1月、平安伸銅が15年かけて取り組んだ組織やブランドづくりについて深ぼるイベントを実施しました。
長年変わらなかった組織体制から、いかにして「DRAW A LINE」という新境地を切り拓き、新しい組織を生み出したのか。本記事ではイベントで語られた挑戦の舞台裏をご紹介します。
【登壇者】
写真右から 執行役員:羽渕 彰博(以下、ハブチン) 代表取締役:竹内香予子(以下、かよ) CCO:青木亮作(以下、青木)
「突っ張り棒」の概念を変えた商品開発の裏側
ハブチン:青木さんと平安の関わりも、もう10年くらいになりますよね。ベテランの域!
青木:そうですね。最初は平安さんからメールをいただいたのがきっかけでした。
かよ:当時(2010年)は、今とは雰囲気がまったく違う会社でした。20名ほどの組織で、スーツ・固定席・黙々と作業する環境。カタログの世界観も30年間変わっておらず、ずっと同じルールが続いていました。何かアップデートしなきゃと言う想いで、外部のデザイナーと関わり始めたんです。

ハブチン:そこから青木さんと出会い、共同のプロジェクトが始まったんですね。
青木:依頼いただいた当初は、社内から「突っ張り棒はオワコンだからやめてほしい」と言われていました。
でも検討する中で、逆にこの技術を活かすしかないという結論になったんですよね。
かよ:正直、最初は青木さんの意見に私自身半信半疑でした。黒い突っ張り棒や縦型の突っ張り棒はすでに世の中にあったので、既存の商品と差別化できず、価格競争に陥ると思っていたので。ただ、TENTさんが「これだ」と言い切る姿を見て、腹をくくりましたね。
青木:結果、展示会での反応はめちゃくちゃ良くて、僕の人生でも伝説的でした!「何これ?」と興味を持たれて、「突っ張り棒なんだ!」と驚かれる。
ハブチン:それまで隠すものだった突っ張り棒に、インテリア性を持たせたのが新しかったですよね!
かよ:最初から「主役として見せる」ことを前提にしていたのが大きかったですね。
“憧れのあの家具売り場に並ぶ”という具体的なゴールを描いた上で、開発を進めました。
青木:そうなんです。最初からプロダクト単体ではなく、写真・カタログ・コピー・ブランドを含めた「体験全体」を設計したことで一貫したメッセージを伝えられるようになったと思います。
クリエイティブなことにはいつ取り組むべき?平安伸銅が取り組んだブランドの土台作りとは
ハブチン:就任直後はかなり地道な改善をされていましたよね。初期投資の資金はどう捻出したんですか?
かよ:経営の『人・物・金』の中で、まずは金に取り組み、2010年からの5年間で、赤字契約の見直しや値上げ、無駄の削減などを徹底し、利益体質をつくりました。
ハブチン:まずマイナスをゼロに戻す。その後に初めてゼロから1をつくるフェーズに入る、ということですね。
初期は徹底したコスト改善、次にブランドや人事制度の整備。順番を間違えると成果は出ないですよね…
かよ:そうなんです、マイナスからのスタートは大変ですが、とても重要なプロセスだと思います。資金がない状態でビジョンやデザインに投資しても本質的な解決にはなりません。まずは利益が出る状態をつくる。その上で初めて、ブランドやクリエイティブに投資するべきだと考えていました。
青木:僕はブランドを立ち上げる段階で入ることが多いですが、マイナス期を、既存商品の見せ方を変える工夫で乗り越えた経験は強い。苦しみながらも自分たちの武器で突破することで、確実に筋力がつくなと感じます。
組織づくりは未来づくり。5年かけて辿り着いた、自走するチームの作り方
かよ:DRAW A LINE以降、入社してくる人の価値観が変わってきました。それまでは、既存事業を安定して回すことが得意な人が多かったのですが、2019年頃からは“新しいことに挑戦したい”という人が増えてきました。
その結果、既存メンバーとの間で前提や価値観の違いが生まれ、関係性のトラブル、いわゆる適応課題が出てきたんです。
このままでは組織がうまく機能しないと感じて、組織の設計を見直す必要があると考えました。具体的には、デザインや営業の役割を分けたり、意思決定の流れを社長直下から中間管理職を育てる体制に変えていきました。
ハブチン:そうですね、ちょうどその頃、ブランドが増えてきて、内製化のフェーズに入っていきましたよね。自社でブランドをつくっていくために、ブランドマネージャーを置いて組織化を進めたのがフェーズ2です。僕も人事制度や育成に関わるようになりました。
かよ:当初は、ブランドごとに事業責任者を置こうと考えていました。ただ、各プロダクトはニッチな事業なので、大企業のように一ブランドに一人ずつ優秀な人材を配置する体制は現実的ではないと分かりました。
青木:外から見ていると、ブランドマネージャーも立っていて、運用もうまく回っていたので、「いい状態になったな」と思っていました。なので、それを解体すると聞いたときは驚きましたね。
かよ:確かに、オペレーションとしては綺麗に回っていました。ただ、その状態ではDRAW A LINEを立ち上げたときのような、突き抜けたものが生まれにくくなっていたんです。
このままでいいのかを考えたときに、もう一度、中小企業らしく、一人ひとりが複数の役割を担いながら、ニッチな領域で新しい価値を出していく形に戻す必要があると感じました。
ハブチン:一度集約して、“平安としてどんな価値を提供するのか”に立ち返ったということですよね。
青木:僕としては、『もう一度パンクな状態に戻す』ということなんだろうな、と受け取りました。多少崩れる部分もあると思いましたが、その方向性には納得していましたね。
ハブチン:人事として意識していたのは、育成と配置です。
制度を整えること以上に、一人ひとりと対話して、役割を見直していくことが重要でした。その中で、中堅層が育ち、少しずつ役割を担うようになっていったのが大きかったと思います。
かよ:対話をして役職から外れていただいた方も、別の役割で引き続き活躍していただいています。その上で、中堅メンバーがマネージャーを担う体制へと移行しました。
この変化は、15年ほどかけてようやく形になってきたという感覚ですね。
ハブチン:トップが全体を見る体制から、現場に任せることで、経営はより未来に時間を使えるようになってきましたよね。
社外・社内を問わない共創の関係性
ハブチン:組織が再び変化を求めるフェーズに入ったからこそ、昨年、青木さんにCCOとしてより深く関わっていただくことになりましたよね。
僕もそうですが、青木さんも“プロ契約”という形で関わっていただいていて、これは他社にはあまりない仕組みだと思います。

かよ:プロ契約を導入した背景には、会社の規模的な制約がありました。高度な専門性を持つ人材を採用したくても、フルタイムで一人分の仕事が常にあるとは限らない役割もありますし、正規雇用という枠に縛ることで、その人の可能性や活躍の幅を狭めてしまうこともあると感じていました。
それならば、平安伸銅のビジョンに共感し、『一緒に船に乗る覚悟』を持って関わってくださる方には、雇用形態にとらわれず、社内のメンバーと同じようにコミットしていただく方が良いのではないかと考えたんです。
実際に、前任の人事責任者が退職したタイミングで、これまで伴走支援してくださっていたハブチンさんに入っていただいたり、経営の背景まで理解している青木さんにクリエイティブの責任をお願いしたりしてきました。
ハブチン:他にも、障害のあるスタッフがリモートでプロ契約に近い形で働いていたり、逆に社員が外部企業とプロ契約で関わったりと、雇用に縛られない働き方が広がってきています。
ただ、うまくいくことばかりではありません。青木さんとは、最初の3ヶ月はかなりぶつかりました(笑)。タックマンモデルでいう“ストーミング(衝突)”のフェーズを乗り越えて今があります。

青木:そうですね、ぶつかっていた期間はストレスもありましたが、最近はそのフェーズを抜けてきた感覚があります。
ぶつかる原因として、最初はクリエイティブのアウトプットの問題だと思っていたんです。でも実際はもっと根深い、“人”や“構造”の問題、つまり認知やコミュニケーションのズレでした。
そもそも、かよさんやハブチンのような、経営や人事の領域にいる人は、『対話=相手の顔を見て話すもの』という前提がありますよね。具体的に言うと、ビジョンを言葉で掲げ、それに基づいて行動が生まれる、みたいな。
一方で、僕たち設計やデザインの人間は、具体物を中心にコミュニケーションを行います。何かしらの“モノ”を真ん中に置いて、『ここがいい』『ここは弱い』と議論する。だから、相手の顔を見ていないことも多いんです。
“対象物を中心に語る”文化なんですよね。

かよ:その前提を知らなかったので、打ち合わせのときに青木さんが全然こちらを見てくれなくて、「嫌われているのかな」「理解してもらえていないのかな」と本気で悩みました(笑)。
ハブチン:でも青木さんのおかげで、ものづくりに携わる方々のものの見方を理解することができました。社内のエンジニアも、一見するとコミュニケーションが苦手そうに見えることがありますが、モノを前にすると一気に話し始めるんですよね。
青木:そうなんですよ、例えば、普段あまり話さない職人さんでも、「この溶接きれいですね」と声をかけると、一気に語り出すみたいなことがありますよね。
ハブチン:現代は言語能力が高い人の方が目立ちがちですが、非言語やモノを中心としたコミュニケーションの中にも、すごく大きなクリエイティブの可能性があると感じています。
青木:重要なのはお互いの考え方ややり方を否定せず、この両者の思考を行き来することが、良いものづくりには不可欠だと思います。
ハブチン:そうですね、共創していくためは、相手の前提を知った上で相互理解が不可欠ですね。
編集後記
私たちは、ついつい他者に対して「自分と同じように考えてほしい」と願ってしまいます。しかし、画期的なものづくりは、全く異なる視点を持つ者同士が一つのモノを見つめたからこそ生まれるのではないでしょうか。
今回の対談では、人それぞれでコミュニケーションにおける前提の違いがあるということが語られました。時には認識のズレから衝突が生まれることもありますが、それも互いの専門性を尊重し合うための大切なプロセスです。
違いはある、でも見ている先は一緒。
そこに確信を持てたとき、組織は同じ船に乗るチームへと進化するのかもしれません。
平安伸銅工業はこれからも、一人ひとりの私らしい暮らしを広げていくために、「違い」を力に変える共創を大切にしていきます 。
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「平安伸銅の組織文化に興味がある」
「こんな切り口で一緒にプロジェクトをやってみたい」
「なんだか面白そうな会社だな」
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