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任せるのは仕事、託すのは夢。

「自分の居場所を守るために自分の仕事を手放さない」

という属人的で独りよがりで非合理的なやり方は市井でも蛇蝎のごとく嫌われてるわけですが、いざ自分が誰かに何かを任せるとなったときにものすごい苦悩と葛藤がありました。今回は、そもそもなぜそのような感情が湧いてしまうのか、どのようにその気持ちを消化してきたか、というところについて書いていきたいと思います。

新しい事業には新しい人が必要になる

2020年4月に自分が側島製罐に入社してからはこれまでやったことのない新しいことに挑戦し続けてきました。BtoCの通販だったり新商品企画だったり営業企画や生産管理的なことだったり、全事業横断的に大小様々とあるわけなのですが、最初は自分のお手製で何とかなっていたようなことが徐々に限界を感じるようになってきます。例えば通販だと、最初は内情を理解して応援購入してくださってた方ばかりだったのが、少しずつマスの一般消費者の方にもリーチできるようになってきて、お手製の販促物や顧客対応が期待値に合わなくなってくるわけですね。

側島製罐は数年前まで「モノを作って売る」というだけを生業としていた会社で、営業→調達→製造→物流→経理、という製造業の基本フローを最低限カバーできるだけの業務オペレーションしか存在しておらず、イラレすら導入されてない中でデザイナーでも何でもない自分がテンプレに毛が生えたようなサービスを提供している状態ではとても対価を十分に提供できてるとは言えない状態で悩んだ末、デザイナーを採用を決意する、といった具合で、通販以外にも、営業企画・広報・デザイン・新規事業・コピーライティング・展示会への出展・BtoCの営業・現場の5Sの推進など新しく始めたことについて、仕事を作って、その仕事をしてくれる仲間を増やして、ということをこの3年弱でやってきました。

「自分がつくった仕事」に対する偏愛と権利意識

さて、いざ新しいポジションを作って、人を募集して、新しく入ってくれた仲間に次々に仕事を任せていくわけなのですが、当初は強烈な心理的抵抗感に襲われていました。表面的な感情としては「自分が作った大事な仕事なんだから、自分が期待する通りにやってほしい」というものです。

正直、まさか自分がこんな感情を持つことになるとは、と驚くとともに大混乱していました。というのも、上の世代が全然仕事を手放さず下の世代が苦労する、という構図はこれまでの人生で散々見ていて辟易していましたし、自分がそういう立場になったときには必ず手離れよく任せようと決意していたはずだったのです。頭ではわかっていても簒奪されるようなこの感覚に感情が追いつかず、実際に任せるようになってからも「やっぱり自分がやった方が良いんじゃないか」と行動しそうになる衝動を抑えるのに必死で、まるで大事に育てた我が子がある日突然里子に出されてしまったかのような理不尽と哀惜の気持ちが入り乱れてしまっていました。

移譲するのは権限ではなく心

あんなに他の事例を反面教師で自戒していたにも関わらずこのようなコントロールし難い感情が湧いてきてしまった原因は何かと考えてみると、「仕事」を任せていただけになっていたからだと分析しています。今まで作ってきた新しい仕事は、自分たちの未来を見据えてのものでした。どうすれば自分たちが世の中をもっと良いものにできるかとか、いつか自分たちの作ったモノやサービスで世界を動かしたいとか、そんな熱量が溢れるような夢に仕事は根差していたはずでした。しかし、自分が抵抗感を抱いたのは、この想いを置き去りにして業務の部分だけを任せていたからだと思うんです。芽が出始めた木の枝を切り落として花瓶に生けたところで、枝は木に成長することはありません。託さなければいけないのは木そのものだということですね。思い返してみれば、自分がそもそもなぜその仕事をやりはじめたのか、それが他の人に仕事を委ねるときのスタート地点であるべきだったと今になって理解できます。誰かにその仕事を渡すときの抵抗感は、その夢を十分に伝えきれてなかったことに起因していたわけです。

自分が作った仕事を手放すのって、怖いんですよね。自分の存在意義が消えてしまって居場所がなくなってしまうんじゃないかという不安と恐怖が入り混じって、やっぱり今の仕事にしがみつきたくなるのが人間の自然な心理だと思うんです。だけど、それを真の意味でリリースしない限りは、自分も組織も次のステップには進めません。自分が独占し続けたところで価値は頭打ちになりますし、それに見て見ぬふりをして自分が仕事を抱え込み続けるというのは自分の存在意義をアップデートすることからの逃げであり欺瞞です。自分のために仕事にしがみつき続けているようでは、世の中どころか会社を変える事すら叶わないのは自明です。そして逆に、誰かに管理されている与えられた仕事、という所与のものからは帰属意識が生まれず、中途半端に任される方が実効が上がらないのも同様です。僕のような事業家がやるべきことは、夢を描いて仕事を作り、それが形になり始めたところで力量のある人に想いを含めて余すことなく渡しきることこそが、本当の意味での仕事の引き渡しだと思っています。

というわけで、最近はようやく託すことに対して抵抗感はなくなりつつも、まだまだ口を出したり手を出したりもしてしまう石川の感想にお付き合いいただき感謝です。読んでくださりありがとうございました。

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