スポーツ専門職やアスリートたちの幅広いネットワークを持つAscenders株式会社の代表取締役である橋本貴智氏に、創業の経緯や求める人材像などをインタビューしました。
Ascenders創業の経緯
――Ascendersはスポーツ分野に特化したプラットフォームですが、創業者である橋本さん自身もスポーツ経験者ですよね。
橋本:僕はバスケットボールをやっていたんですが、大学受験を機にやめました。最後の全国大会では幼馴染みのいるチームと延長戦まで戦い、1点差で負けて引退。僕は2浪して早稲田大学へ進学し、幼馴染みはプロバスケットボール選手になりました。
――ドラマみたいですね!スポーツ分野で起業しようと思ったのはいつ頃ですか?
橋本:僕が大学4年生のときに、すでにプロとして活躍していたその幼馴染みと「一緒に何かやろうぜ」という話になって。スポーツ分野なら彼の良さも活きるので、彼が現役のうちに一緒に仕事がしたいと思い、スポーツで起業しようと決めました。でも、大学3年生までは起業する気はまったくなかったんですよ。
――では、そもそも起業というものに興味を持ったきっかけは?
橋本:実は大学2年生のときに、有明コロシアムで「大学バスケオールスター戦」をやろうとして失敗しているんです。大雪で中止になり、約900万円の借金を背負いました。保険にも入っていましたし、なんとか返済したんですが、自分で稼がなければならなくなって。そのときに、高校の先輩から「起業に興味はないの?」と言われ、IT領域のベンチャーやスタートアップでインターンやアルバイトなどをしていました。
――共同創業者である宮代さんとの出会いもその頃ですか?
橋本:はい、まさに大学バスケオールスターがきっかけです。チケット代を返金する際に「同い年でこんなイベントを企画した人がいると知って、応援しています」と声をかけてくれて、仲良くなりました。彼は当時スポーツトレーナーをしていて、関西トレーナー会という団体の代表でした。
その宮代が、ある日「トレーナーを辞めようと思う」と言い出して。自分が担当していた選手が家を売って資金を作り、彼に仕事を依頼していたと知って衝撃を受けたそうです。僕はそれを聞いて、「お金の工面やビジネス面は僕がやるから、選手のパフォーマンスに関わる現場は宮代に任せたい」と言いました。トレーナーをはじめ、専門性を持つメンバーが集まって、何百人もの選手を各方面からサポートできる組織を作ろうというのがAscendersの始まりでした。
サポートする人と仕事をマッチングする「Ascenders Partners」と学ぶことに特化した「Ascenders College」
――2016年にAscenders株式会社を立ち上げて、初めの頃はどんな事業をしていたのですか?
橋本:最初は資金調達なども考えておらず、みんなでやれることの形としてコミュニティ事業を始めました。トレーナーや管理栄養士などが専門性を持ち寄って選手をサポートできる体制作りと、成長のために学ぶ環境の提供ですね。みんなが集まれば一人当たりの単価は安くなるので、会員制にして講師の方を招き、専門職が学べる環境を作りました。
――その後、どういった経緯で今の事業スタイルにたどり着いたのでしょうか。
橋本:400人を超え、全国に5拠点ができたあたりで二つの限界を感じました。一つは、リアルを重要視するやり方ではこれ以上大きくならないということ。もう一つは、コミュニティの参加者が二層に分かれてしまい、求めるものが極端に異なっていたことですね。仕事が欲しい人と、学びたい人。同じコミュニティにいても求めるものがまったく違う状況ができていました。
――学びを求める人はただただ教えてほしいという一方通行の状況になっていたんですね。
橋本:ちょうどコロナ禍でもあり、オンライン化に合わせて今の二つの事業ができあがりました。一つは、専門職のための仕事のマッチングや事業立ち上げなどを行う「Ascenders Partners」。もう一つは、学ぶことに特化した「Ascenders College」です。特にAscenders Partnersでは、我々が信頼できる機関として仕事を精査しながら適切な人を選ぶ形にしています。人脈や偶然などの「ご縁」が多い業界なので、仕事が数人に偏りがちです。信頼できる人からの紹介というやり方にも限界があるので、ネットワークを使って他の人もチャンスを得られるようにしたいと考えています。
――となると、今募集しているプランナーという職種は、主にAscenders Partnersで企画提案をするのでしょうか?
橋本:プランナーには「こういう登録者がいるから、こういった案件を取っていくのがいいよね」とか、「こういう仕事を作ることが、会社のためにもなるし今いる専門職のためになる」ということを考えていただきたいです。クライアントである企業やチームと話をして、課題に対するソリューションとしてどんな「人」をマッチングするか。そういった企画提案をしていただくのが、プランナーの仕事です。
――今いる登録者にあわせて、仕事を作りにいくということですね。選手の方たちからはどういった要望が多いですか?
橋本:食事面、治療、トレーニングなど、選手によって求めるサポートは様々です。一つの会社ですべてを担うのは不可能に近いですが、僕らはそれができる組織を目指しています。例えば、ホームページを作りたいときも、僕らなら内部でできます。海外遠征で食事面が心配な方には、料理ができる管理栄養士を帯同させます。多様な課題がある業界なので、僕らが適切な人をアサインして、最終的にはクライアントである選手や企業に選んでもらっています。
――ちなみに、どの競技の選手が多いのでしょうか?
橋本:競技人口が多いサッカーやバスケットボールは、契約選手もチームも多いですね。あとはジョッキーやBMXレースの選手、カイトボーディングというマリンスポーツや女子ラグビーの選手など。競技にはまったくこだわっていません。登録している選手の方たちはリファラルが圧倒的に多いです。業界自体が狭いので、サポートさせていただいた日本代表選手の方や大学などからのご紹介で広がっていきました。
企業にヒアリングし、課題解決のための提案ができるプランナーを募集
――今募集しているプランナーには、どういう役割を求めていますか?
橋本:プランナーは、選手よりも法人を相手にすることが多いです。企業の課題をヒアリングし、様々なソリューションを提案します。また、次のセールスに向けて使いやすいパッケージを作ることも、このフェーズにおけるプランナーの仕事だと考えています。
――クライアントの課題は多岐にわたると思いますが、どういった内容が多いですか?
橋本:一言で言うと「人がいない」に尽きます。やりたいけど人手が足りていない、掘り下げると「お金がない」。そこで僕らが最初に提案するのは、「まずお金を作りましょう。そのための人を雇ってください」ということです。最初は弊社には利益がほぼない、むしろマイナスの契約をしても、ちゃんとやっていけば売上が何百万円と上がっていきます。
――具体的にはどんな事例がありましたか?
橋本:企業に提案してジムを運営したり、すでに施設を持っている場合には再生するための提案を行ったりしています。新しく店舗をオープンするにあたって、スポンサー企業にアプローチしてコンセプト作りから運営までプロデュースすることもあります。リードをどんどん取るよりも、予算に合わせてきちんと提案できるかが重要ですね。テレアポをガンガンするようなことはほとんどなく、今つながっている企業やチームの方たちに対して提案するフェーズにあります。
――Ascendersのプランナーには、どういったスキルがある方が向いていますか?
橋本:二つの能力が必要だと思っています。一つは、コミュニケーション力。課題を聞き出し、相手が何を求めているかを引き出す力は必要です。もう一つは、企画提案力。予算がある企業ばかりではないので、ときには小さく始めるプランを考えるなど、今のフェーズでできることを提案する必要があります。「お金がない」「人がいない」というクライアントに対して、絶妙なラインで「面白いですよね」「先が見えるし、リスクもないですよね」とプレゼンできる企画提案力が、今のAscendersに最も不足している部分です。提案待ちのクライアントがたくさんいるんですよ。
――提案待ちが多いということは、スケジュールのバランスも考えられるといいですよね。
橋本:たしかに、大型プロジェクトが一気に始まるとディレクターが困ってしまうので、優先度を見極められるといいですね。ディレクターと連携して、「今は大型案件が一つ欲しい」「中型の案件がいくつ欲しい」「単純に紹介で済む案件が欲しい」というのをバランスよくできる方。
――職歴としてはどういった経験があると理想的でしょうか。
橋本:戦略コンサルや広告代理店のアカウントプランニング経験者、制作会社のディレクターなど、セールス的な立ち位置で顧客に提案することに慣れている人たちは向いていると思います。大企業との案件もたまにありますが、基本的には中小企業が多いので、中小の金額的なスケール感に慣れている方だとなおよいです。
――競技は何でもよくて、高校や大学でスポーツに専念していたけれども一度離れて様々な業界で5年10年経験した方たちに、「スポーツの世界に戻ってきませんか?」というイメージですよね。
橋本:そうですね。いつかスポーツの世界に戻りたいと思っていた方に、「あなたが培ってきたビジネススキルや知見を活かせる仕事が、スポーツ業界にありますよ!」とお伝えしたいです。
健康のためのライフスポーツや、スポーツに関わる人のセカンドキャリアも支援
――競技とは別の、健康や余暇のためのスポーツについてはいかがですか?
橋本:僕らは「ライフスポーツ」と呼んでいるのですが、運動や健康のためにスポーツをしている人たちを対象の事業のサポートもしています。例えば、子供から高齢者までの運動指導や一般の方のフィットネスもやっています。
――そうなると、実業団を持っているようなプロスポーツの関連企業だけではなく、中小企業も含む幅広い企業に事業を提案できる可能性がありそうですね。
橋本:ボリュームゾーン=人口だと考えると、むしろ一般の人の方が多いですからね。僕らはスポーツこそ「ゆりかごから墓場まで」と考えています。産まれて初めてやるスポーツから高齢の方を運動で健康にするところまで全部やっています。
――選手のセカンドキャリアという点ではいかがですか? 今は選手としてサポートを受けている方が、今後はサポート側に回るというケースも増えていきそうですね。
橋本:今は選手としてサポートを受けながら最終的にトレーナーを目指す人や、ジムの運営を始めた人もいます。また、サポートする人たちもアスリートと同じで、20代後半から30代前半は体も動くし知識もありますが、40歳を過ぎるとトップ選手をサポートするのは身体的に厳しくなります。そうなったときにも、セカンドキャリアとして一般の方を相手にスポーツに関する仕事を続けることができます。
「人」に困らない会社を作り、将来的には総合型スポーツアカデミーを運営したい
――5年後や10年後の展望はいかがですか?
橋本:日本に総合型スポーツアカデミーを作りたいです。過去にも作ろうとした会社は山ほどあったのですが、場所や施設などのハード面がそろっていたのに、運営する人がいないために実現しなかったそうです。だったら僕らが「人」の会社になろう、ソフト面が充実した会社を作ろうと考えました。僕らはチームの運営も、ジムやトレーニングの管理もできます。寮を作るなら食事提供も僕らがやります。人集めに困ったときも、マーケティングやクリエイティブのチームがいます。
――Ascendersが総合型スポーツアカデミーを作るイメージでしょうか。
橋本:いえ、僕らは「持たざる会社」であり、すべてソフト面でやっています。総合型スポーツアカデミーも、僕らは所有しないと決めています。企業に「一緒に作りませんか」と提案してオーナーになってもらい、運営は全領域においてノウハウを持つ弊社が責任を持ってやる形をイメージしています。
――最後に、Ascendersの最終ビジョンを教えてください。
橋本:「スポーツの夢の国を作る」というのが、僕らの最終ビジョンです。スポーツといっても関わり方や好きな競技もレベル感もバラバラ。まとまらず小さい経済活動が個々で行われているだけです。スポーツは個人の想いと理想との乖離はかなり大きいです。個を1つに集めて、個人の活動を超えた形、1社1人でたどり着けない地点に対してAscendersだったら到達できる形をつくります。
そして、スポーツはどうしても選手や観客に目がいきがちで、働く人たちはフォーカスされませんが、スポーツ業界で働く人たちがハッピーになればスポーツに関わる人たちみんながハッピーになると思っています。私たちはスポーツで働く人たちを全力でサポートしていきます。