ユニリーバのイノベーション組織「Unilever Foundry」
今回は世界最大級の消費財メーカーユニリーバのイノベーション組織「Unilever Foundry」についてご紹介します。Unilever Foundryは、2014年に設立され、マーケティングテクノロジー分野に特化したスタートアップ支援を行っています。注力領域として、特にデジタルマーケティングやアドテクノロジー、Eコマース分野が挙げられています。
ユニリーバがUnilever Foundryの設立に至った背景には、Eコマースの発展があります。2014年頃アマゾンの台頭により、Eコマースにはなじまないとされていた消費財に対する購買行動が劇的にデジタルシフトしていました。ユニリーバは、そういった急激な環境変化にキャッチアップする必要に迫られており、その手段としてスタートアップとの協業をはじめとしたオープンイノベーションの推進を掲げました。Unilever Foundryは外部企業との窓口となるために設立され、設立から4年強が経過した現在も、アクセラレーションプログラムの開催やユニリーバブランドとスタートアップとの連携が積極的に進められています。
また、近年ではUnilever Foundryの動きを加速させるような出来事も起こっています。象徴的なのは、2017年2月のクラフト・ハインツからユニリーバへの買収提案です。結果的に買収には至りませんでしたが、一連の買収騒動を機に、ユニリーバは同社の既存株主の利益拡大に注力することを決めました。 その一環にマーケティングコストの大幅な見直しがあり、高コストなエージェンシー頼みのマーケティングモデルから脱却を進める動きが進んでいます。 実際にユニリーバは買収騒動直後の2017年上半期にエージェンシーへの支出を17%削減しており、従来エージェンシーに任せていた仕事をスタートアップと共同で進めることで費用対効果を高めようとする事例もみられます。そのため、最先端マーケティング分野のスタートアップとの連携窓口となっているUnilever Foundryの存在意義は一層重要になっていると思われます。
スタートアップとの連携プロセス
Unilever Foundryは、スタートアップの募集から協業検討・出資までを「Brief」「Pitch」「Pilot」「Partner」というプロセスで運営しています。
Briefフェーズ
スタートアップのプログラムへのエントリー段階です。募集対象となるスタートアップは、プロトタイプが既に存在し、スケールを目指すチームに限定されます。
Pitchフェーズ
書類審査を通過したおおよそ5社のスタートアップがUnilever Foundryの全意思決定者の前でピッチを行います。過去、ピッチ前にイギリスの大手エージェンシー「Karmarama」がプレゼンテーションに関するメンタリングを実施した事例もあり、サードパーティの協力も得ながら手厚くスタートアップをサポートしています。ピッチで高い評価を得ることができたスタートアップには最大5万ドルの資金が提供され、ユニリーバとの協業検討期間に入っていきます。
Pilotフェーズ
スタートアップはユニリーバのマーケティング部に属する社員とチームを組み、ユニリーバ傘下の有名ブランドとの3ヶ月に渡る試験プロジェクトに取り組むことができます。スタートアップが広告支出世界第2位の企業のマーケティングノウハウを得ながら一気に事業拡大を狙うことができるこのフェーズは、Unilever Foundryの最大の特徴といえます。
Partnerフェーズ
実際にスケールアップしたスタートアップに対し、提携・協業やユニリーバのCVC「Unilever Ventures」からの資金提供が検討されます。
外部企業と提携し、Unilever Foundryをフォローアップ
Unilever Foundryは、拠点のイギリスのみならず、アイルランドやシンガポールにも展開しています。具体的には、各国のスタートアップ支援企業と提携し、2017年にそれぞれの国でコワーキングスペースを開設しました。コワーキングスペースのメンバーとなるスタートアップがUnilever Foundryプログラムへ参加したり、Unilever Foundryに参加したスタートアップがコワーキングスペースを使用したりする事例があるようです。外部企業と提携することで、各国のスタートアップコミュニティーに接点を広げ、エコシステム全体をより充実したものにしています。
プロジェクト事例
ここからは、Unilever Foundryをきっかけにユニリーバとスタートアップが連携した事例について紹介していきます。
Intervino
イギリスの国民食とも言えるユニリーバの発酵食品「マーマイト」と、カスタマイズギフトを製作するIntervinoが協業して、ユーザーがマーマイトの瓶に名前を入れることができる「カスタマイズマーマイト」の販売サイトを設立
Vidsy
ユニリーバのアイスクリーム「Cornetto」は若い世代向け動画コンテンツ作成プラットフォームのVidsyと協業して若い世代の消費者をエンゲージするための動画コンテンツを作成
Gametize
ユニリーバのヘアケアブランド「LUX」はゲームコンテンツ作成スタートアップGametizeと協業してクイズ形式のコンテンツをWebサイトに掲載
イノベーション組織マッピング
「Unilever Foundry」は外部スタートアップと連携するアクセラレーションプログラムであることに加え、外部組織とも提携しながらエコシステム拡充を図っており、オープンな組織といえます。
また、既存ドメインである消費財のコマース領域でスタートアップとの連携を目指しています。
まとめ
いかがでしたか、今回はユニリーバのイノベーション組織Unilever Foundryを紹介しました。
Unilever Foundryはユニリーバがこれまで作り上げてきたブランドと、マーケティングテクノロジー分野のスタートアップのビジネスをうまく組み合わせ、数々の協業事例を生み出しています。自社の課題を明確にし、スタートアップの力を借りることでその解決を図る手法は参考になるのではないでしょうか。
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