18歳のとき地元・愛媛で車のトップ営業マンになり、21歳で上京し、PRの世界へ飛び込む。23歳で独立し、NY留学も経験ーー株式会社akoの代表・楠橋明生の人生は、こうして見ると華々しい成り上がりのストーリーに見える。
でも実際のところ、その日々は自分の「持ってなさ」に向き合い、限られた手札をどう活かすか、もがき続ける連続だったんじゃないか、と思う。
学歴もキャリアもない、けれどたしかにある自分の強みを、いかにして武器に変えるか。その泥臭い試行錯誤は、「過小評価されているものを、正しく評価されるようにしたい」というakoのいまの理念にも繋がっている。
歯の健康や水分補給を大切にし、勤務時間中に緑を見にピクニックに行く。そんなakoの日常は、会社にしてはかなりゆるくも見える。しかし、それこそがakoの目指す「人間らしい」働き方だという。
今回インタビューを行ったのは、地元・愛媛時代から彼を知る編集者。近すぎず遠すぎない距離感だからこそ聞くことのできた、楠橋とakoのリアルな姿をお届けする。
目次
◾️18歳で車のトップ営業マンに
ーー知り合ってから7〜8年くらい経ちますけど、明生くんの経歴についてちゃんと聞いたことがなくて。今回は改めて教えてください。最初は地元の愛媛で就職したんですよね。
はい、18歳で車屋さんに就職しました。新車とか新古車の営業だったんですけど、入って3ヶ月目にはトップの成績でした。めっちゃ売ってましたよ。
ーー3ヶ月で! 営業に向いてたんですかね。
いま思うに、構造化が得意だったんですよね。車を買う時って、選択肢を絞るのがとにかく難しいんです。それこそ車種でいうと100とかあるので。
その中で、「この場合はこう」みたいな風に分類して、絞っていくんです。そうしたら割と最後はその選択肢しかなくなったりするので「じゃあこれでいっか」みたいになる。
ーー漠然と薦めるんじゃなく。
そうです。車に限らず、その分岐が見えてない営業は苦労すると思います。で、めっちゃ車を売ってたんですけど、18歳で本当に世間を知らなかったので、車売る以外できてないことが多すぎて、社内の評価はめっちゃ低かったです。笑
いろんな人からいろんなことを言われました。最初は「そういうもんかな」と受け止めてたんですけど、あるとき研修の講師で来た大阪の天才営業マンみたいな人が「楠橋くんは営業マンとしてすごい、ヤバい」と言ってたんです。
ーー初めて評価された。
今、客観的に見ると、高卒でそれだけやってるってなかなかすごいと思うんですけどね(笑) その人以外にも、だんだん社外の人には同じように言ってもらえるようになって。
ーーそうやって頑張って結果を出しても社内で評価されないことにモヤモヤは感じてました?
ありましたね。どんどんそれが強くなっていって。もともと、独立心は強いほうだったんです。高校3年生の最後、2月くらいには実家を出て地元で一人暮らしをはじめたり。高卒で地元で働くのにわざわざ一人暮らしするって、そんな人いないですよね。
ーーあんまりいないと思います(笑)。それは実家が嫌だったとか?
というより、早く独り立ちしたかったんだと思います。自分のやったことで誰かが代わりに怒られるのも小さい頃からいやで、自分のことは自分で責任をとりたい、みたいな気持ちがずっとありました。
あと、シンプルに会社員があんまり向いてなかったんだと思います。2010年代ってまだまだ色々ゆるくて、残業代とか曖昧だったんですが、来た時間と帰る時間にきっちりタイムカード押さないと怒られるとかも意味わからなかったですし。
押さないといけない理由を聞いても「決まりだから」みたいになるじゃないですか。そういうのが積み重なって、「みんな理由まであんまり考えてないんだな」と気づいて。なので、とにかく組織で働くのが合わないな、しんどいなっていうのがずっとありましたね。
◾️いくら本を読んでも愛媛が出てこなかった
ーーそのあと22歳で上京すると思うんですけど、どんなきっかけがあったんですか?
ずっとモヤモヤしてるなかで、本を読んでる時間が一番楽しかったんです。東京へ出るとか考えたこともなかったんですけど、当時いくら本を読んでも愛媛が出てこなくて。東京と大阪ばっかりだったんですよ。
ーーその時はどんな本を読んでたんですか?
車屋の社長に薦められて、生まれて初めてちゃんと読んだ本が『論語』でした。
ーーだいぶ渋いですね。
そのあと、稲盛和夫さんとかダイエー創業者の中内功さんの本とか、有名なビジネス書はその時に大体一周して。あとは『龍馬が行く』とか。高知の話だと思ってたけど、龍馬がいるの、ほぼほぼ江戸やん、東京やん、とか思ったり。
ーーたしかに(笑)。それで東京を意識するように。
はい。今治でお世話になってた「MACCHI」ってゲストハウスがあるんですけど、そこで「ALL YOURS」ってアパレルのイベントがあったんです。そこに、上京して入社することになる「70seeds」の代表も一緒に来ていて。
47都道府県をツアーし、日本各地で試着・販売イベントを開催していたALL YOURS。今治ではMACCHIを中心に「春の銀座祭り」と題した5日間にわたるイベントが開催され、会社員時代の楠橋も参加(右から2番目)。聞き手の友光も東京から参加(左から4番目)していた
そこでの出会いをきっかけに、上京して「働かせてください」って。当時は結婚して子どももいたんですけど、家族とは離れて単身で東京に行きましたね。別に内定とかはなかったんですけど。
ーーかなり思い切りがありますよね。それこそ龍馬かという。明生くんはそのエピソードの印象が強くて、最初は“現代の矢沢永吉”みたいな人かと思ってました。だんだんそれも変わってくるんですけど。
◾️関係値よりも、企画の面白さで勝負する
ーー上京してPRの仕事をはじめて、それまでの車の営業とは異業種だと思うんですが、最初は大変じゃなかったですか?
でも、根本は一緒なんですよ。PRってクリエイティブ業界っぽさがありますけど、もともとセールス職だった人は多いんです。
ーーイメージで別物と思っちゃってたところはありますね。言われてみると、どっちも「ものを売る」職業ではあるのか。共通してるコツみたいなものってあるんでしょうか?。
例えば、「今日、ケンタッキーにしない?」ってCMあるじゃないですか。結局ああいう呼びかけが、ものを買ってもらう上で一番効くと思うんですね。お客さんにとって決める理由ができるから。
お客さんから人として信頼してもらうのは大前提で、その上で背中を押すみたいな。「自分から買ってください!」って意外と言う営業が少ないんですよね。僕は営業時代にそれが言えたので、うまくいったのかもしれないですし、PRにも通じてたと思います。
ーーなるほど、面白いですね。当時はどんな仕事をしてたんですか?
今もそうなんですけど、当時から企画を考えるのが好きでしたね。例えばクライアントの案件で、『東洋経済オンライン』の記事の企画を考えて、それがランキングのトップ3にも入るくらい読まれたり。
ーー営業とPRは通じるとはいえ、企画も最初からすんなりできました?
企画みたいなことはまったく未経験だったので、そこは距離がありましたね。でも、他人の企画に触れてみて、「これは自分でもできそう」って思いました。さっき構造化の話をしましたけど、「この要素とこの要素をくっつればいいんだ」とか「意外性が大事なんだ」とか、見えてくるじゃないですか。そしたら企画を考えるのも面白くなって。
あと僕、飲み会や勉強会へ行って、コネクションを広げて……みたいなのが得意じゃなかったんです。お世辞も苦手ですし。
PRの世界に入ってみて、ぶっちゃけ企画力とかよりコネクション、関係値で生まれてる仕事もけっこう多くないか?と感じたんですよね。別に悪いことではないのですが、でも僕は企画で勝負するしかない、面白い企画でゼロから突破しなきゃ、と思ってました。
ーーその面白い企画を考える上でも構造を見るのは大事になりそうですよね。世の中を俯瞰で見て、「こういう企画が刺さりそう」とか「ここが空いてる」とか考えるわけじゃないですか。
まさにそうです。社会にこういうコンテンツがないよね、とか見るのは今でも得意です。こう見えて常識人だと思っているので(笑)。
そうやって企画を頑張ってるうちに、関係値よりも企画の面白さを大事にしてる人が他にもいるのが見えてきて、こういう人たちとやっていけばいいんだ、となりました。
それで、1年ほど働いて独立しました。理由としては、やっぱり最初のほうに話した会社員が合わなかったことも大きいんですけど、そういう自分の役割、目指す方向が見えてきたのもありましたね。
◾️「ニューヨーク最高」とはならなかった
ーー23歳で独立して、そのあとニューヨークにも留学してますよね。このエピソードも僕の中で明生くんの「成り上がり感」をつくってるんですが……。
語学の勉強とか、アメリカでPRを勉強するために行きました。けど、そこで「ニューヨーク最高」とはならなかったんですよね。
ーーというと?
色々ありますが、日本でいう東京駅みたいな、グランドセントラルって駅があるんです。その近くに住んでて、朝に薬局へ買い物に行ったら、行き交う人がみんな疲れた顔してて、日本と一緒やんって。なんかそこで自分の思ってた海外像が一回キレイにリセットされたみたいな感じです。
ーーそんな感じなんですね!
そうですよ。あと、これは自分自身の問題ですけど、ニューヨークでも全然、普通に浮いちゃったんですよね。友達はいっぱいできたんですけど、語学学校でも、日本と同じで変わったやつってポジションだったんです。
ーーアメリカは自由の国、みんな個性的……みたいなイメージがありますけど。
いやー、普通にちゃんとしてる人がいっぱいいました。(笑)それに、ここで頑張って勉強しても、この先、英語で勝負するのは難しいなと思ったんですよね。アメリカ人になりきらなきゃ無理だなって思いました。僕の感覚ですけど、やっぱりアメリカ人になりきっている人はめちゃ馴染んでいると思いますし、僕もその方向性も考えたこともあります。
留学してから英語を勉強しまくって、相対的に見て、26歳から勉強したやつの中ではできる方だと思うんです。でも、当たり前ですけど帰国子女とかネイティブと比べると全然で。そこで、苦手な領域で戦ってちゃダメだ、と思ったんです。
でも、世界中に友達ができたことや英語を使った仕事には今でも繋がっていますし、僕は企画でキャッチコピーみたいなことも結構やるのですが、キャッチコピーはラップ的な韻とかダジャレ的な繰り返しが使われることも多いのですが、それが日英両方でできるようになったので、めちゃくちゃボキャブラリーが増えたのが、思いがけない収穫でした。笑
ーーそういう諸々をひっくるめて「ニューヨーク最高とはならなかった」という。明生くんの話を聞いてると、自分の得意・不得意について、かなり敏感なように思います。
苦手な領域で戦い続けると、人に合わせ続けなきゃいけないじゃないですか。僕はそれが無理なので。諦めっていうより、自分の得意なところで戦おうって感じなんですけど。どうしたら少ないリソースの中で自分を活かせられるか、をずっと考えてて。
ポテンシャルの話でいうと、僕って何もないと思うんです。学歴もないし、大企業で働いた経験もない。けど、そんななかでも客観的に見ると得意なもの、強みはあって、それを世の中でどう活かすか。これって、僕が今やってるPRの仕事もまったく同じなんですよ。
ーー価値が正しく評価されてないものを、面白い企画や見せ方でちゃんと知ってもらう。
そうです! 面白いし、社会に対して価値もめちゃくちゃ発揮できてるけど、まだ見つかってない人や会社っていっぱいあると思うんです。最初は僕も自分に矢印が向いてて、学歴とかはコンプレックスでしたけど、今はもう経歴の無さこそ自分の強みだと思えてて。今は矢印が社会に向いています。
あらゆる世の中の過小評価されてるものを、ちゃんと適切に評価されるようにしたい。それがakoのやっていきたいことですね。
◾️水はちゃんと飲んだほうがいいし、地元の友達を大事にしてほしい
ーーここまでのビジョンの話も面白かったんですが、それ以外で、明生くんがakoにおいて大事にしてることってありますか。
人間らしく働けることですね。「ちゃんとフロスしよう」とか関わるメンバーに僕はよく言うんですけど、たぶん普通の会社だとあんま言わないですよね。
ーー言わないと思います……それはエチケットに気をつけよう的なことですか?
いや、健康ってめちゃくちゃ大事じゃないですか。人生のレベルで考えると。最近の研究だと歯の健康が認知症とかにも繋がってるかもみたいな話もあって、だからフロスも絶対したほうがいいので。「最近ちゃんとご飯食べてる?」は普通の会社でも聞くと思いますけど、akoでは「水をちゃんと飲もう」とか。
ーー水を飲む。
僕、水をちゃんと飲む人間を信用するんです。2時間の会議でも、人が水を飲んでいるかを気にしていて。絶対そのほうが健康にもいいし、頭も回ると思うんです。
あとは打ち合わせ中に立っちゃうような人も信頼できます。1〜2時間座りっぱなしも体には良くないじゃないですか。社会人のマナー的に会議中は席を立たないとかはあると思いますが、そうじゃなくて、自分の体を大事にできたり、それができる関係性を相手と作ったりするほうがよっぽど大事だと思うんです。自分を大事にできる人って、他人を大事にできると思いますし。
ーーそこなんですね。なんか見えてきました。健康を大事にすることは、つまり自分や他人を大事にすること。
はい。リモートワークも柔軟に実施しているので、出張で近くに行ったら親には会って欲しいし、地元の友達も大事にしてほしい。
ーー体だけじゃなく、心の健康も大事にしている。そういうのが結果、仕事にも繋がるってことですかね。
そう思います。いまって人を大切にしない人が多すぎると思うんです。資本主義のせいかわかんないですけど、その逆張りでもあるかもしれないですね。
逆に、無駄な会議とかはあんまりないですよ。合理化できるところは合理化して、余った時間でメンバーが集まって、お花見や新宿御苑でマット敷いてサンドイッチ食べたりしてます。
それもいわゆる会社の行事的なことじゃなくて、緑を見るのって大事じゃないですか。午前中仕事して、午後からピクニックに行って新宿御苑の緑を見て、戻ってまためっちゃ密度の濃い仕事する、みたいなことも当たり前にやってます。
ーーakoの目指す人間らしさがかなり伝わったと思います。今回の採用でどんな人が来てほしい、はありますか?
自分がちゃんと理解できてる人がいいですね。それこそ会社員なんか合わないって僕みたいな人でも、そういう自分を理解できてたらいいと思うんです。ある種の諦めって覚悟でもあると思うので、僕の話やakoのやってることに共感できるところがあれば、ぜひ飛び込んでもらえたら嬉しいです。
取材・執筆:友光だんご