「漁業」の領域で“世界の食をもっと楽しく”をミッションに掲げる「フーディソン」
「農業」の領域で“農業を、実りある事業に"をミッションに掲げる「アグリメディア」
2023年4月、事業を通して一次産業の課題と向き合う2社のコラボイベントが開催されました。今回のテーマは「一次産業のあるべき姿」。
一次産業の現場で起きていること、また、今までどのように課題と向き合い、今後は何をしなければならないのかをCEOの目線からお話いただきました。本記事では、CEOのパネルディスカッションの様子をお届けします。「食」や「一次産業」に関わる仕事がしたいという方はもちろん、「ベンチャー企業の社長が考えていることを知りたい」という方にとっても興味深いイベントとなりました。
登壇者・会社紹介
株式会社フーディソン 山本徹
ー経歴
2001年3月北海道大学工学部を卒業後、不動産ディベロッパーに入社。2003年4月に株式会社エス・エム・エスへ創業メンバーとして参画し、ゼロから上場後のフェーズまで人材事業のマネジメント、新規事業開発に携わる。2013年4月に株式会社フーディソンを創業し、代表取締役CEOに就任。2022年12月東証グロース市場に上場。
ー会社紹介
ある三陸のサンマ漁師から「船のガソリン代も稼げない」「息子には漁師を継がせたくない」という話を聞いたのをきっかけに水産業に問題意識を持ち、2013年4月に当社を設立。現在は「生鮮流通に新しい循環を」というビジョンを掲げ、リアルな流通にデジタルを掛け合わせた飲食店向け生鮮品仕入EC『魚ポチ(うおぽち)』、いつも新しい発見のある街の魚屋『sakana bacca(サカナバッカ)』、フード業界に特化した人材紹介サービス『フード人材バンク』を運営。
株式会社アグリメディア 諸藤貴志
ー経歴
九州大学経済学部卒業後、大手不動産会社に入社。新たなプロジェクトや事業の立ち上げを多数手がける。その後、起業を決意。自分自身がやりがいを持ち続けられ、産業として課題が多く、事業機会の大きい“農業”ビジネスを志し、2011年にアグリメディアを創業。
ー会社紹介
私たちは「農業を、実りある事業に」をMissionにサポート付き貸し農園「シェア畑」や、農業特化の人材サービス「あぐりナビ」、法人向けの農業コンサル事業など、農業関連ビジネスを多角展開しています。国内最大規模に成長している各事業を通じて、着実に農業界でも存在感を高めています。
現場の声に衝撃を受けた、一次産業の現場で今起きていることとは
ーーまず、お二人が感じる一次産業の現場での課題について教えてください。
諸藤:アグリメディアを創業してすぐ、現場を把握するために300件ほどの生産者を訪問しました。その時に衝撃を受けたことがあって。「農業の後継ぎがいない」という話は以前から聞いたことがありましたが、それよりも「後継ぎをしてもらいたくない」「子どもには後を継がないように言っている」という生産者がたくさんいると知ったんです。継いでもらえないのではなく、継いでもらおうと思っていない。今農業をしている人たちが、農業には収益の持続性がないと感じているということです。これは大きな課題だと思っています。
山本:それは漁業においても共通している部分ですね。私は、サンマが1kgあたり10〜30円で卸売りされていると初めて知った時に、とても驚きました。サンマは全国的にも有名な魚だし、サンマ漁師は儲かっているのだろうなとイメージしていたんです。そんなサンマ漁師の口から「儲からないので辞めたい」と聞いて、衝撃と同時に「それは辞めたくて当然だよな」と納得感もありました。
諸藤:続けても経済的に自立ができない。だから継がせない。考えてみれば合理的な判断ですよね。収益性がないまま「頑張りましょう!」というのは難しい話で。漁業においても、収益の持続性や後継者については農業と同じく根深い問題なのですね。
山本:そうですね。漁師の8割ほどは個人事業主で、さらにその中の8割には後継者がいないと言われています。漁業も農業も、同じ構造の中で課題があるようですね。
諸藤:逆に、産地での農業は持続性があり後継者もいる印象です。例えば、弘前市のリンゴ農家などがイメージしやすいでしょうか。ブランドのある産地では、農地が余っているという話もあまり聞きません。むしろ、周辺の自治体で農地を取り合うこともあるのだとか。産地と産地ではないところとの格差も大きな課題だと感じています。
ーーでは、課題に対してお二人はどのようにお考えでしょうか?
諸藤:産地ではない場所や農業の持続が難しい場所に対して、どのように機会提供をしていくかが、アグリメディアの課題だと考えています。
場所による格差に対して、事業会社として何ができるのか……。産地じゃないところにブランドを作ったり、そのための情報を集めたり。手段はいくつかあると思います。今うまくいっていない場所に対して、持続可能な農業ができるように機会提供をしていきたいと考えています。
山本:私たちは、価格形成にダイレクトに関わっていきたいと考えています。例えば、「東京では食べられないような美味しい魚が、港町の居酒屋で安く食べられた」という経験をしたことがある方もいるのではないでしょうか。これは、ニーズと価格の適切なマッチングができていないということなんです。全国の魚が集まる東京の豊洲市場では、実は大手のスーパーマーケットのニーズに合わせて魚を全国から集荷して売っていることがほとんどで、小さな居酒屋などのニーズは汲み取れていないことが多いんです。そのため、スーパーマーケットで扱われないような、大量には漁獲されない地方の美味しい魚が大消費地には流通せず、二束三文で売られるという現象が起きています。
今の市場では、地方で活動する漁師や飲食店のニーズを汲み取りきれていません。私たちがこのニーズを汲み取り、マッチングし、適切な価格形成をしていく必要があると考えています。人間の体の血管に例えると、既存の市場流通は太い大動脈や大静脈で、我々はその血液を体の末端までつなぎこむ毛細血管をテクノロジーを活用して作り出している、と言えます。そうすることで、漁師は適切な金額がもらえるようになる。「これだったら漁師を継いでもいい」と思う人が増えるように変えていけるのではないかと思っています。
農業・漁業をより良くするために、事業会社としてできることとは
ーー今後やりたい事業、またはやらなければならないと思うことはどのようなことでしょうか?
諸藤:農業は、ひとつの事業だけでエリア全体を良くすることが難しい分野だと感じています。何かひとつの事業を起こして全体を変えていくというより、農業を軸にして町をどう作っていくか、地域をどう盛り上げていくかが大切だと考えています。
これは、すでに私たちが取り組んでいることでもあり、これからもやっていきたいテーマです。今後は今まで以上に行政と一緒になり、農業を通してどのように地域を動かしていくのかをより力を入れて考えていければと思っています。
山本:今、魚の流通の上流から下流までをようやくつなげられるようになりました。ただ、日本全国にインパクトが出せているかというとそうではなくて。このインパクトを全国に広げていくために、エリアを限定せずに魚を売りたい人と買いたい人をマッチングさせるようなチャレンジをしていきたいと思っています。
また、海外にも日本の魚を買いたい人はたくさんいます。世界にもインパクトを出せるよう、ゆくゆくは海外への展開も視野に入れて現在動いているところです。それが結果的に適切な価格形成につながり、漁師の仕事を次の世代へつなげることへの貢献になると思っています。
ーーご参加いただいている方からも質問をいただいております。「農業や漁業は、変化を嫌う人が多い業界だと感じています。どのように従事者を巻き込んでいっているのでしょうか?」。
諸藤:仰るとおりですね。特に地方では、変化に対してネガティブなイメージを持つ人も少なくありません。そんな中、流れを変えるにはメリットや事例を具体的に示していくことが重要です。小さくてもいいから、成功事例をひとつ作る。そのためにまず、全員ではなくチャレンジに興味がある人を1人だけでも巻き込むようにするんです。その様子を通して、周囲にも具体的にメリットを提示する。そうすることで、徐々に全体が変わる流れができていきます。
山本:根本的には漁業も同じです。お話を聞いていて、面白い具体例を思い出しました。今では当たり前に使われている魚群探知機ですが、はじめは漁師さんは誰も見向きもしなかったそうなんです。そこで、水揚げが上手くいっていない漁師さんを1人説得し、試しに使ってもらうと、村で一番水揚げができるようになったのだとか。他の漁師たちも、その話を聞いて魚群探知機を求めてメーカーに殺到したそうなんです。
リターンのない変化を嫌うのは当たり前のことだと思います。でも、この具体例からも分かるように、逆に考えれば行動原理は水産業界特有ということではないですよね。
諸藤:仰るとおりです。良い事例が広まると、周囲の行動もどんどん変わっていきますね。
ーー続いて、学生さんからの質問です。「農業や水産の分野における課題について、知らない部分が多くあると実感しています。どのようなつながりで課題を発見しているのでしょうか?また、若手社員にも現場で直接声を聞く機会はあるのでしょうか?」
諸藤:会社として、現場で起きていることや生の声を大切にしています。とにかく訪問して生産者と直接話す。新しい事業のヒントにもなりますし、今やっている事業をより良くするためにも、現場の声を拾うことにはかなり力を入れています。各事業部の社員が直接足を運び、持ち帰って事業に活かすというのが当社のやり方です。
山本:産地とのつながりは3つあります。1つ目は日々の売買。魚を仕入れるにしても、まずは現地に行って直接コミュニケーションを取るようにしています。これが一番密なつながりだと感じています。2つ目は、各地域のプロモーション。「地方の産品をプロモーションしたい」と自治体や漁業者からオファーをいただくことがあります。その場合には、デザイナーやマーケター、魚を販売するスタッフなども含め一丸となって現場の思いを汲み取り、形にしていきます。現場に何度も足を運んだり、プロモーションのためにフェアを開いたり。このようなつながりもあります。3つ目は、私自身が漁師の方々と対談をすることです。漁師と会社員では生活の時間帯が違うため、全員で会う機会は作りづらいです。そこで、私が漁師のもとへ出向き、動画を撮って生の声を伝えていくようにしています。
課題が多く残っている業界だからこそ、チャレンジができる。一緒に変えていこう。
ーー学生の方からもう一つ。「何が原動力で社会問題に向き合えているのか」についてお伺いしたいとコメントをいただいております。
山本:私の原動力は「人の役に立ちたい」だと思います。「人とのつながりの中で役に立っていると感じたい」とも言えるかもしれません。
私自身、これまで「自分でなんとかして生きていく」という考えで生きてきました。でも、それだけだとやっぱり幸せになれない。これからは人とつながりながら、共感しあいながら、自分の力だけではなくみんなと世の中を変えていきたい。それができたと実感できた時、今までとは違う幸せを感じられるのではないかと思っています。
「人と一緒にやっていく」ことを通して、世の中に何かひとつでも残すことができればいいなと思っています。
諸藤:「世の中に必要とされていることをやりたい」という思いが私の原動力です。創業から11年が経ちますが、この原動力はずっと増していっているような感覚です。
事業を通じて、農家の方々や自治体、農水省からの良い反応が見えたり、生産者や行政から相談を受けることがどんどん増えたり。「期待されている」と感じるたびに思いが高まっていくんですよね。必要とされることをやりたいという原動力は、創業当時から変わらないどころか、日々増していっています。
ーーありがとうございます。では最後に、本日参加いただいた方へメッセージをお願いいたします。
山本:水産は難しいテーマでもありますが、チャレンジできる余地が多く残っている分野です。ようやくテクノロジーの準備も整ってきて、インパクトを出せる環境に近づいてきたのではないかと思います。ここから、次の世代にも残していけるようなプラットフォームを作るチャレンジをみなさんと一緒にできれば良いなと思っています!
諸藤:アグリメディアでは、「農に関わる人を、より多く、より明るく」というビジョンを掲げています。まだこの課題に対して関わっている人は少ないです。農業界には課題がたくさん残されていますし、優秀な方々が入ってきてくれることで農業界はこれからもっと良くなります。「農業界をなんとかしたい」という強い思いを持った方に、ぜひ入っていただければと思います!
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一次産業には、まだ課題が多く残されています。しかし、だからこそ大きなインパクトを出すチャンスがある世界でもあるということを強く感じられるイベントとなりました。
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編集・取材:みえだ舞子
執筆:momoka