宿場JAPANで長期のインターンをしていた大学3年生のエミュー(本名:小河恵美里)です。今年の3月まで立教大学の観光学部に通いながら、約半年前からこちらでインターンをしていました。
今回は前回までのインターン出張体験記を通して感じた、宿場JAPANが掲げる「地域融合型ゲストハウス」の可能性についての考察と、インターン出張を終えての所感、私自身の今後の展望をお伝えしていきます。ゲストハウス萬家とゲストハウス蔵の体験記(リンク)をまだ見られていない方は、是非そちらからご覧ください。
目次
①様々な ”きっかけ” と ”つながり” を生み出す地域融合型ゲストハウスの可能性
②インターン出張を終えて
③今後の展望
①様々な ”きっかけ” と ”つながり” を生み出す地域融合型ゲストハウスの可能性
前回まで2回に分けてゲストハウス萬家・蔵の特徴と、品川宿との比較を通して類似点・相違点についてお伝えしていきましたが、ここで改めて「3宿の共通点とは?」を考えてみたいと思います。
まず、地域融合型ゲストハウスを成り立たせるうえで、3つの要素が存在します。一つには「ゲストハウス」、もう一つはゲストハウスがある「地域」、最後にゲストハウスと地域を訪れる「ゲスト」という三角関係です。まもなく発売される宿場JAPAN初の書籍のタイトルに「ゲストハウスがまちを変える」とあります。そこには、ゲストハウスが地域の価値を高める立役者として、地域や、訪れるゲストに様々な ”きっかけ” と ”つながり” を生み出す仕組みができていることが前提にあると思います。では具体的にどんなきっかけや、つながりを生んでいるのでしょうか。
【ゲストハウス ⇄ ゲスト】
まず、当然のこととして、ゲストハウスは地域を訪れるきっかけになっていることを忘れてはなりません。観光地でなくとも、宿があることで旅人がその地域を訪れ、交流人口が生まれるのです。ゲストハウスを訪れるゲストは、観光としてその地を訪れているのであれば、必ず「地域を楽しみたい」や「その地域でしか体験できないことを経験したい」、「美味しいものが食べたい」と思っているはずです。
一方で、地域への強い愛着を持つゲストハウス側としても、「地域を楽しんで帰ってもらいたい」という想いがあります。(品川宿では、外で飲食を楽しんでもらうためにキッチンすらも用意されていません。)宿の近くに住むスタッフも多いため、地域のことにはとびきり詳しいまちの案内人がゲストのニーズに合わせて毎回店先を提案してくれます。このように事前に紹介することで、ゲストの方に安心してまちを楽しんでもらうきっかけを与えているのです。
【ゲスト ⇄ 地域】
ゲストの方はスタッフの紹介をもとに町に出て、地域で食事を楽しんだり、銭湯に行ったり、その地ならではのものを買うなどして、地域にお金を落としてくれます。当然これは地域に活力が生まれるきっかけになっています。ゲストハウスと繋がりがある地域のお店側も、「ゲストハウスから紹介されてきた」という方に対して、親切に対応してくれたり、時には帰り際に手土産をくれたり、おまけをつけてくれることもあるなど、個人店ならではのサービスを受けることができます。このような些細なおもてなしの積み重ねが、ゲストが地域を好きになるきっかけになったり、リピートや、時に移住を考えるきっかけをももたらすことにつながると思います。さらに、例えばゲストが地域のイベントや食べたもの、景色などをSNSでシェアしてくれたり、直接「この地域の雰囲気がとても気に入りました」と話してくださると、それは地域住民にとって、今まで気づいていなかった住んでいる地への良さや誇りを認識する所以にもなると思います。
【ゲストハウス ⇄ 地域】
地域の人にとってゲストハウスは、当然ながら、ゲストにお店を紹介してくれるありがたい存在です。しかし、それだけではなく、ゲストハウスが主催するイベントへの参加は、住民たちの地元意識を向上させたり、空間自体が家でもなく、職場でもない、気軽に出入りできる場所としてのサードプレイスのような役割も果たしていると思います。このコロナ禍で多く失われたものの一つに人との交流があるかと思います。リモートワークで会社や学校に行く必要がなくなり、人と接する機会の減少から、一時期鬱病患者の増加などが社会問題となっていました。そんなご時世でも、人との交流が失われるどころか、小さいながらも激励し合いながらコロナに立ち向かっていこうという気運が高まっていたのがゲストハウスだと思います。
このようにゲストハウスが地域の中で人々の居場所を提供し、”孤立を生みにくい社会へ貢献している”ということ、ゲストに地域を楽しんでもらおうとすることで、結果として”地域内でお金が循環するような仕組み”をつくれていること。外から来た旅人を招き、住民とつなげる役割を果たすことで住民の”地域への愛着や誇り形成を促進している”ということからも、「地域融合型ゲストハウス」は非常に ”サスティナブル” なのではないかという仮説を今回立てることができました。
では、このように理想的な「地域融合型ゲストハウス」のビジネスモデルは誰でも実現可能なのでしょうか。そして実際には何から始めたら良いのか、上手くビジネスとして回していけるのかといったさまざまな疑問が浮かぶかと思います。それらについては、宿場JAPANの代表渡邊がこれまでに3件のゲストハウスをはじめ、一棟貸しホテルやシェアハウスなどの運営や業務委託などを通じて培ってきたノウハウや経験を基に、先日発売された書籍『ゲストハウスがまちを変える』の中で厚く語っていますので、ぜひそちらをご覧ください。
②インターン出張を終えて
このコロナ禍で多くの宿が経営困難な状況に陥り、当然潰れてしまう宿も多く存在します。以前京都のホステルを経営する支配人の方とお話した時に、京都にある小規模宿のおよそ900軒がコロナウイルスによる大打撃で倒産や休業を余儀なくされたと言います。
ゲストハウス品川宿でも、コロナが発生する前までは土日の稼働率がほぼ100%、少なくとも95%が当たり前でした。それが現在は30%ぐらいに落ち込み、この2年苦しい状況が続いています。日本は2020年の東京オリンピックに際して、インバウンドの増加にさらなる期待を寄せ、それに向けたあらゆる対策を講じてきました。しかし、この予期せぬ事態に多くの宿泊業に携わる企業が「インバウンドに頼りすぎた」と実感したのではないでしょうか。
▲コロナ以前のゲストハウス品川宿
これまで、品川区における外国人観光客の誘致事業に力を入れていた宿場JAPANももちろん大きな痛手を負いましたが、この困難な状況にも関わらず、今こうして宿事業を続けられているのは、一つにこれまで地道に築きあげてきた人や地域との信頼関係や、強い繋がりがあるからではないかと思います。「コロナ禍だからこそ結束して乗り越えていこう」。そんな地域と支え合っていく雰囲気を3宿で共通して感じられました。
▲品川宿の”まちの顔”として地域から愛され続けていた”クロモンカフェ”が建物の老朽化のため今年の1月末で閉店。現在も子供食堂で余った食材を提供していただいたり、ゲストハウス品川宿のウクライナ人ゲストのボランティア受け入れの際に物資を支援していただくなど、いつも多大なるサポートをしてもらっています。
また、今回の出張を通して新たに萬家と蔵という比較対象ができ、改めて品川宿の良さや、改善点を俯瞰的に見ることができたり、一方で、半年間インターンをしていても実は地域や、品川宿が行っている取り組みに関して見えていない部分が沢山あるという気づきにも繋がりました。
この出張インターンを最後にインターンを卒業になりましたが、このような貴重な機会をいただけたこと、懇切に受け入れをしてくださったゲストハウス萬家・蔵の方々にこの場をお借りして感謝申し上げます。
③今後の展望
最後にインターンを通じて考えた自分の将来の展望について、少しばかり書かせていただきたいと思います。
私は約9ヶ月ほど、宿場JAPANでインターン生として働かせてもらいました。入った当初は自分がインスタグラムの運営に興味があったり、学校でマーケティングを学んでいたので、それの実践の場として宿場JAPANが経営している一棟貸しホテル(Bamba Hotel, Araiya,Kago34)の運営をメインに半年間、仕事に携わっていました。ゲストハウス品川宿でも週に2、3回は働いていましたが、毎日のように入っていたわけではないので、今回のインターン出張で初めてゲストハウスに集中的に携わることになりました。
▲昨年の年末に発表したインターン成果発表の資料から添付
初めて短期の住み込みスタッフとなり、インターンをしてから初めての人疲れも経験しましたが、私はこの出張インターンを通じて改めて、人生のどこかで地域融合型のゲストハウスを運営したいという思いが強くなりました。それはインターンを続ける中で、何かの形で人に居場所を提供する仕事に就きたいという自分軸を見つけ、それがゲストハウスで実現可能であることに加え、今後の持続可能な観光産業のあり方を考えた時に、「地域融合型のゲストハウス」は住んでよし、訪れてよしの観光まちづくりに欠かせないビジネス形態であると考えたからです。
自分軸は主に4つあり、1つに「人と関わる仕事に携わりたい」ということ。2つ目に「地域の人と旅人が繋がれる場をつくりたい」ということ。3つ目に「自分が自分らしくいられる場、自分探しの場を提供したい」ということ。最後に「食を通じて人を感動させたい」ということです。これらの軸は私がゲストハウスで働き始めてから、普段の生活のなかで、自分が住んでいる地域の人と交流する以前に顔も名前も知らなかったり、自身の将来の夢について語ったり、家やSNS上以外で自分らしくいられる機会や場所が少ないなどと感じたことがきっかけになっています。
ゲストハウスでの仕事を振り返ると、興味深いことに、ゲストさんが多くが交流の場で自分の将来のビジョンや、現在挑戦していることをアウトプットをしていました。他の人に夢を語る方は、話すうちに内容がより具体化してモチベーションが高まっていたり、最近チャレンジしていることを話す方は、他の人から褒められたり、激励されたりすることで自信が増しているように感じられました。ゲストハウスに泊まる方の特徴として、自分自身のことについて話すことはもちろん、相手の話を聞くことも好きな方が多い傾向にあります。ゲストハウスという場が、そもそも気軽に初対面の方と気軽に話せる場であることに加え、スタッフも話の聞き上手な方が多いので、皆さん思わず楽しく語ってしまうのです。私は普段の生活で、なかなかこのように夢や自分が挑戦していることについて語る機会もなければ、コロナ禍で色んな方の人生に対する価値観や考え方に触れる機会もなかったので、ゲストハウスが将来について考える刺激的な場所であることに気づきました。
▲ゲストハウス品川宿のコモンルームで宿泊のゲストさんと談笑
この日もゲストさんと自転車で日本一周に挑戦しているというお話や、トゥクトゥクに乗って日本一周してみたいというお話をしました。
また、ゲストハウスが地域にあることで、ゲストハウスに立ち寄った近所の方と旅人がつながったり、ゲストハウスの紹介を通じてゲストさんが訪れた店先で店主と仲良くなり、それが地域への再来訪のきっかけになることがあります。そして、イベントでは地域住民の間でも対面での交流が生まれ、それが移住者にとっては地域コミュニティへの入り口になると同時に、住民同士の繋がりを強化するきっかけにもなっていたりします。このように、ゲストハウスが地域と旅人をつなぎ、お客さんに「第二のふるさと」だと思ってもらえるような経験価値を提供できたり、地域コミュニティの親密性を高めるきっかけを創り出すことができれば、地域の方のまちに対する愛着や誇りを生み、自発的に「まちを良くしていこう」という行動を促せたり、ゲストもまた、地域を好きになり、何度も訪れるリピーターになる可能性が高まると思います。結果としてそれは、コロナ前に社会問題となっていたオーバーツーリズムによる観光公害の予防策から生まれた、「住んでよし、訪れてよし」のまちづくりへの一つの策になっているのではないかと考えています。
(執筆:小河恵美里 企画・編集:今津歩)