ミラノ工科大学 ポリミ経営大学院 DBAプログラム(経営学博士課程)1期生として入学
今回の3日間ミラノで参加したKick-off sessionでは、主に「製造業の再構築」「組織目的の再定義」「AIを前提とした経営変革」という3つの軸から、産業と経営の未来像について考える良い機会を頂きました。どの講義も我々が志向する「イノベーションとテクノロジーで日本を豊かにする」ことに直結するテーマ内容でした。
POLIMI DBA プログラムについて
学校名 :POLIMI Graduate School of Management
コース名:Doctorate in Business Administration (DBA)
開始時期:2025年10月~(24~36ヵ月パートタイム形式)
学習方法:リモート中心 週1回オンライン、年1回の対面講義
学費 :個人€50,000(奨学金多数あり、早期申込割引あり)
学習対象:「10年超」の実務経験を有するプロフェッショナル
強み :「技術経営」「イノベーション」「サステナビリティ」
https://www.gsom.polimi.it/en/course/doctorate-in-business-administration/
製造業の再構築「職人が再び輝く時代へ」
欧州では人間中心のものづくりとウェルビーイングの統合した「Industry 5.0」の検討が進められています。欧州ではIndustry 4.0の次段階として、「人間中心」「持続可能」「レジリエント」なポイントとして、効率の最大化から人の幸福と創造性の最大化するIndustry 5.0が研究の主流になっています。特に印象的だったのは、“オペレーターの幸福を最適化関数の中に組み込む”という思想です。ホワイトワーカーがAIによって代替される時代だからこそ、熟練技術者を大切にして輝かせる。もはや、営業職よりも熟練技術者の方が給与が高かい企業も多いそうです。
クライアントのデジタル化支援において、「技術×人間性×現場感覚」の統合設計が鍵。ハードウェアの自動化やAI導入支援では、“人の体験・知覚・身体負荷”を含めた設計思想を持つことが差別化要因になるためだと説いています。これは「生産性の一部としての幸福」として、欧州らしいデータドリブン経営の新しい方向性かもしれません。
熟練職人をリスペクトするランボルギーニ工場の視察
イタリア政府公認の家族経営で100年以上営むビネガー工場の視察
Purpose-Driven Leadership「パーパスを核にした経営と文化の再構築」
企業の目的(パーパス)は、Telos(なぜ存在するかという道徳的羅針盤)とTo put forth(何を優先し前に出すか)の二層から構成されると定義し、拡張的なパーパス(共有・意識的・長期的)は幸福・創造性・エンゲージメントを高め、限定的なパーパス(短期KPI偏重)は、モチベーションと持続性を下げることを示唆しています。
KPIとは目的の証明であり、目的の代替であってはならない。「目的が曖昧な戦略」は中長期で必ず破綻する。逆に目的が明確であれば、短期的な結果が伴わなくても人と組織は動き続けることを示唆しておりました。我々としても、企業理念に基づき、クライアントの目的主導型の支援スタイルを内外に発信しなければなりません。
従業員の役割を“タスク実行者”から“AI協働者(AI-Orchestrator)”へ
講義ではAIを単なる自動化ツールではなく人間的な意思決定能力を部分的に再現するシステムとして捉え、経営者がそれを前提に組織のオペレーティングモデル(Operating Model)を再構築する責任を持つべきだと強調されました。現時点で、生成AIは初期段階では「革新的テクノロジー」として扱われますが、一定の精度に達すると「単なるソフトウェア」として日常業務に埋め込まれるため、この間に生まれる“スイートスポット”こそ、経営者が業務再設計を正当化できる変革タイミングだそうです。
ミラノ工科大学ラボ内でのデモの様子
昨年、ミラノ工科大学自体で自校オリジナルの学習指導AIチューターを内製したが、GPT-4の登場によって、すぐ追い抜かれたという事例が紹介されました。定的な内製主義ではなく、常に“買う・借りる・つなぐ”を柔軟に判断する体制が不可欠とされました。 そのため、AIを所有するよりAIを編成することに価値が移っており、多くの欧州企業のAI戦略設計では、AIを自前開発するよりも、APIやSaaS連携を軸にした「データ・プロセス・人材の再編成」を優先している。当日共有頂いたAIガバナンスフレームワークが私の方で作成したフレームワークと酷似していたため、その場でディスカッションしアップデートし、ジョバンニ教授からお墨付きを頂きました。
とはいえ、単なる業務効率化としてのAI活用では、7〜10%の生産性向上と短期的な成果に過ぎないため、真に企業競争力を高めるためには、エンドツーエンド(E2E)で業務設計を見直すことが必要です。最大のボトルネックは「人材構造」と「役割定義の遅れ」にあると指摘されており、その上で従業員の役割は“タスク実行者”から“AI協働者(AI-Orchestrator)”にシフトしなければならない。管理職として“判断の実行者”から“判断構造の設計者”になっていくことが求められる。
今回のDBAプログラムは、キックオフMTGの議論では単なる知見収集に留まらず、イノベーションコンサルティングを支援する我々の存在意義そのものを見つめ直す良い機会として、人とテクノロジーの関係を再設計し、パーパスを核に、次の社会システムを構想・実装する。これこそが我々の使命かもしれません。