出発の30分前に着いたのに
先週末、弟と2人で愛知に行ってきました。妻方の親族の、卒寿のお祝いです。90歳。すごい数字です。
弟はダウン症で、今日で32歳になります。療育手帳を持っているので、新幹線は障がい者割引が使えます。介護者として同行する僕も対象です。
ただ、この割引、スマートEXでは使えません。乗車券と特急券が一体型の商品なので、手帳による割引が適用できない仕組みなんです。だから紙の切符を、窓口か券売機で買うことになります。
それを分かっていたので、出発の30分前に最寄駅のみどりの窓口に着きました。余裕やと思っていました。
13組待ちでした。
「子ども2枚で買ってください」
さすがに間に合わないと判断して、新幹線の切符は京都駅で買うことにして、まずは在来線の切符だけ券売機で買いました。
ここで僕は、久しぶりすぎて買い方を忘れていました。大人1枚、410円。改札の駅員さんに手帳と一緒に見せると、こう言われました。
「子ども2枚で買ってください」
障がい者割引は乗車券が半額。券売機に「障がい者」のボタンはないので、半額である子ども料金を2枚買って、駅員さんのスタンプをもらう。それがこの割引の、昔ながらの買い方です。
10分以内なら手数料なしで払い戻せますと教えてもらい、急いで払い戻して、30歳を超えたおっさん二人のために「こども」のボタンを2回押しました。
駅員さんは、最初から最後まで親切でした。でも、電車は15分遅れていて、僕の心臓はずっと早足でした。
京都駅で知った、サポートつき券売機
京都駅に着いて、新幹線の切符売り場に向かうと「サポートつき指定席券売機」というものがあることを初めて知りました。オペレーターの案内で、割引きっぷも買える券売機です。10年以上、弟とあちこち出かけてきた僕でも、知らなかった。
10分ほど待つと、駅員さんが窓口を開けて個別に対応してくださいました。指定席をお願いすると、「2人隣どうしの席が空いていないので、前後でいいですか?」。
僕が困った顔をしたんやと思います。駅員さんは「隣、チャレンジしてみますね」と言って、端末を叩き直して、11号車の7番B・Cを取ってくれました。
発車まで、あと少し。結果的に15分で切符を買えました。ありがたかった。本当にありがたかったんですが、同時にこうも思いました。
スマートEXが使えたら、この不安ごと、最初から無かったはずやな、と。
誰も悪くないんです。駅員さんは親切で、仕組みだけが古い。先月のnoteで僕は、企業の障がい者雇用について「個人の善意に委ねられている」と書きましたが、駅の券売機の前でも、まったく同じことが起きていました。
切符を、タッチする弟
そして僕がいちばん忘れられないのは、改札での弟です。弟は、切符2枚を改札のICリーダーに、タッチしました。
当然、ゲートは開きません。弟は不思議そうな顔をしていました。
笑ってしまってから、はっとしました。弟はふだん、ICカードで移動しています。タッチで通るのが、弟にとっての当たり前なんです。キャッシュレスに適応できていないのは弟ではなくて、割引を紙の切符に閉じ込めている仕組みの方でした。
「障がいのある人はテクノロジーが苦手」って、誰が決めたんでしょうね。
90歳と、32歳
めでたい席だったので豪華な食事を前に喜ぶ弟。
妻方の親族たちに囲まれて、90歳のお祝いの席に、今月32歳になる弟が当たり前に混ざっている。良い親族に恵まれたなと心から感謝です。また、その光景を眺めながら、僕はふと、弟の90歳を想像してみました。
2084年。僕はたぶん、もういません。そのとき弟の隣で、切符を買ってくれるのは誰なんだろう。いや、そのときはもう、切符なんて無いのかもしれません。
障がいのある人の人生は長い。働く時期だけでも、老いていく時期だけでもない。90年の全部を、誰かの機転や善意だけに頼らず楽しめること。僕らの会社が「生涯を楽しめる世界」というビジョンを掲げている意味を、卒寿の席で改めて考えていました。
秋から、変わるそうです
最後に、ひとつ良いニュースを。
2026年秋以降、エクスプレス予約とスマートEXで、障がい者割引商品の発売が予定されているそうです。マイナポータルの手帳情報をもとに、窓口に並ばずネット予約で買えるようになる、と。
あの朝の13組待ちも、「こども」のボタンも、もうすぐ昔話になるのかもしれません。仕組みは、ちゃんと変わっていく。少し時間がかかるだけで。
だからこそ僕は、変わるまでのあいだを支える人たち——駅員さんのように、目の前の困りごとに対応できる人たちのことを、もっと増やしたいし、もっと楽にしたいと思っています。僕らの研修サービスも、資格も、全部そのためにあります。
弟よ、32歳おめでとう。来年の誕生月は、スマホで切符を買って会いに行きます。