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参院を「良識のサンドバッグ」に:先行して参院の被選挙権年齢を18歳に引き下げては

『若者の政治離れが喧伝されている』という書き出しで筆を取ることも億劫になるほど,若年層と政治の関係性が希薄になっている.いわゆる主権者教育にせよ,政策形成過程への若者の参画にせよ,「〜すべき」という論は溢れているが,それらが具体的な政策になる機会は少ない.政策形成の渦中にいるキーパーソンと話をしてみると,「それいいねぇ」という反応こそ得ることが出来ても,のれんに腕押しの感は否めない.

2019年は亥年の選挙イヤー,統一地方選挙と参議院通常選挙という大きな選挙に多少なりとも関わりながら,「若者は政治に特段期待していない」し,「政治も(そこまで)若者の政治参加を期待していない」ということを改めて感じた.体裁としては,お互いの重要性を語るのであるが,実態としてはお互いに強い関心がないのだから,投票率が上がらないことは当然だろう.投票日が近くにつれて,選挙啓発の文言が物悲しく見えたことは否めない.ただ,それであっても(最早,釈迦に説法ではあろうが)若者が社会,ひいては政治に関心を持つことは,若者が社会を構成する一員であり,若者がこれからの日本を担う存在であるからこそ,理想的な状態であることは言うまでもない.

目次

  1. 「制度・法律」から変えないと「中身」は変わらない
  2. 参議院被選挙権年齢を18歳に先行引き下げ,これが参議院活性化に繋がる
  3. 参議院被選挙権年齢を18歳に先行引き下げ,これが若者の政治への関心を呼び起こす
  4. 「若者」が次世代を担う構図は変えられないからこそ

「制度・法律」から変えないと「中身」は変わらない

若者の政治参画に係る施策を検討していると,例えば「若者の政治に対する意識を上げてから〜」という様な,意識の適格性を満たさない限り,制度の在り方を変更すべきではないという論に遭遇することは少なくない.確かにこの論は,一面的には的を得ているのであるが,実際には現状維持を是とする論以外の何者でもない.

2015年の公職選挙法改正における「18歳選挙権の実現」によって,総務省・文部科学省を中心に開始された「主権者教育」を題材に考えてみよう.実は,主権者教育が開始される前から,日本の諸法律において,政治的教養の涵養は教育の目的として掲げられていた.

例えば,昭和22年教育基本法(旧教育基本法)においては,

第八条(政治教育) 良識ある公民たるに必要な政治的教養は、教育上これを尊重しなければならない。
教育基本法 昭和二十二年 法律第二十五号

と定められており,政治教育という語を用いてまで,政治的教養を涵養することの重要性について言及している.あるいは,平成18年教育基本法(現行教育基本法)では,

第二条 三 正義と責任、男女の平等、自他の敬愛と協力を重んずるとともに、公共の精神に基づき、主体的に社会の形成に参画し、その発展に寄与する態度を養うこと
教育基本法 平成十八年 法律第百二十号
第十四条 良識ある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない。
教育基本法 平成十八年 法律第百二十号

という条文が設けられ,従前の旧教育基本法で定められていた政治的教養の尊重のみならず,社会参画にも言及されるなど,今日の主権者教育に通じる教育目的が謳われていたのである.

主権者教育の目的を、単に政治の仕組みについて必要な知識を習得させるにとどまらず、主権者として社会の中で自立し、他者と連携・協働しながら、社会を生き抜く力や地域の課題解決を社会の構成員の一人として主体的に担うことができる力を身に付けさせることとした
「主権者教育の推進に関する検討チーム」中間まとめ 第1章より

当然,旧来は選挙権年齢が20歳に定められている下では,年齢が離れている初等中等教育で政治的教養や社会への参画を志向した教育が実態をもって展開される事例は数少なかった.

しかし今日では,日本国内の95%を超える高校で,何らかの形で主権者教育が実施されているのである.無論,個別具体的には多くの課題を抱えていることは否めないが,2015年に公職選挙法が改正されることがなければ,主権者教育が相応の実態をもって実施されることはなかったと指摘できるだろう.この事例から学ぶべきことは,『「必要性に迫られていないもの」は,基本的に省みられることはない』ということではないか.

参議院被選挙権年齢を18歳に先行引き下げ,これが参議院活性化に繋がる

参議院固有の役割が議論され始めて久しい.参議院は巷では「良識の府」や「再考の府」といった異名を持つものの,近年の国会審議で,参議院ならではの役割を果たすことが出来ているとは言明しがたい.戦前の貴族院に源流を持つ参議院は,本来は衆議院とは異なる背景を持つ議員によって構成されることで,党派性の強い衆議院とは異なった審議・議決を行うことが期待されていたと考えられる.

しかしながら近年,参議院は「衆議院のカーボンコピー化」が進み,参議院ならではの役割を果たしていないとの批判は根強い,この批判は,調査会制度を代表例に審議に関連する参議院固有の制度は存在するが,実際には有効な役割を果たすことが出来ていない,故に①参議院改革は必須である ②参議院は不要である という2つの論調に大別することが可能であるが,いずれにせよ何らかの制度変更が必須であるという指摘に異論は多くないだろう.

加えて,現行の国会法の下では参議院が事実上,議院内閣制の枠外に存在していることも看過することが出来ない.憲法に根拠を持つ「衆議院の優越」による再可決や内閣総理大臣の指名,内閣信任・不信任決議や予算先議権を始めとする種々の優越によって,参議院は議院内閣制における内閣(総理大臣)を生み出す力をほぼ有していない.結果として,前述した様に,参議院は議院内閣制の枠外に存在している現状が生起している.

これらの現状を打開する方策の1つとして,筆者は参議院に限って,被選挙権年齢を(衆議院に先行して)引き下げることを提案したい.現在は衆議院が25歳,参議院が30歳と定められている被選挙権年齢を参議院18歳,衆議院を25歳とするものである.仮に18歳で当選したとすれば,それから6年間は政局に左右されることなく,10代・20代固有の視点で,国政に参画できるという点も魅力的であろう.

直近の国政選挙に限ってみても,政権与党の自由民主党・公明党にせよ,野党の立憲民主党,日本維新の会,国民民主党にせよ,被選挙権年齢の引き下げを公約の1つとして掲げている.ただ,実際には直接的に「内閣総理大臣」という権力を生み出す過程に若年層を参画させることに対する抵抗感が根強いことも想像に難くない.だからこそ,参議院が先行して引き下げる意義は大きいのではないか.

固有の役割を果たしていない,あるいは事実上議院内閣制の枠外に存在していると指摘される参議院に10代・20代の参議院議員が登場したらどうなるだろうか.直接的に「内閣総理大臣」という権力を生み出す過程に参画出来なくとも,国政調査権や質問主意書,憲法改正に係る国会発議などに際して,今まで参議院に存在し得なかった世代ならではの視点で,質疑や討論が行われることが期待できる.「良識の府」として,より多くの世代の視点を基にした議論がなされれば,参議院固有の役割が再創出されるのではなかろうか.起業家・社会起業家が10代・20代に多く存在していることを考慮すれば,潜在的な立候補者は相応の数を想定できる.そして何より,「問題を抱える候補者」が立候補すれば,私たち国民が選挙で票を投じなければ良い話に過ぎない.

参議院被選挙権年齢を18歳に先行引き下げ,これが若者の政治への関心を呼び起こす

そして,参議院が先行して被選挙権年齢を18歳に引き下げることで,若者の政治への関心は大きく高まるのではないだろうか.選挙で投票する際に,投票する者と同世代の人間の候補者が存在することで,世代固有の課題を旗印として,政治への関心が喚起されるだろうし,何より候補者は,同世代に伝わる手段で,発信を行うことが想像できる.今までは「年上」が「年下」に啓発する構図だった選挙戦が,部分的に同世代が同世代を説得する構図が生まれるのだ.

選挙に立候補しない者についても,同世代が立候補することで,「政治を考える」必要性が今以上に高まると考えられる.勿論,同世代間のPeer to Peer的啓発という側面もあるが,何より,自らの世代の意見が国政において直接的に取り上げられる様になる為だ.

若年層を対象にしたアンケートなどを眺めていると,選挙に行かない理由に「自分が投票して良いのか自信がない」「政治のことがよく分からない」といったものが挙げられているが,同世代が立候補している様子を見れば,少なからず自らへの自信は強化されるだろうし,同じ「言語」で話ができるからこそ,政治の分かりやすさも加速する.主権者教育が教員から生徒・学生という関係性の中で政治的関心を創発するものなのだとすれば,18歳への被選挙権年齢の引き下げは,同世代同士で政治的関心を高めあう有効な機会となるのではないか.

「若者」が次世代を担う構図は変えられないからこそ

幾ら足掻いたとしても,人間が生物である限り,年を重ねるに連れて老い,死にゆく運命であることは避けることが出来ない.従って,この瞬間に年齢差が存在しようとも,いずれは今の若者世代がこの社会の中核を担うこととなる.より若い世代が政策形成過程に参画することで,若い世代の利益が現在よりも代表されやすくなることは言うまでもない.しかしながら,それ以上に,この瞬間に行われる政策決定に関して,(その過程にあるより広範な多世代性を根拠として)その正当性は更に高まるのではないか.

社会に存在する多くの世代を巻き込みながら政策形成・決定を繰り返していくことで,「世代間格差」を旗印にした世代間競争は抑制され得る.世代を軸にした分断を起こさない為にも,真の意味での政策形成過程への若年層の参画は必須であろう.そのための一歩として,まず参議院から先行して18歳被選挙権を実現してはどうだろうか.

http://hiroyuki-kurimoto.jp/archives/1338

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