書籍【新版:国土が日本人の謎を解く】読了
なぜ日本人は、文化や価値観が、諸外国と比べてこんなにも違うのか。
日本国内だけで暮らしていて、そこに疑問を持たなければ、きっと「日本は特殊な国だ」とは思わないだろう。
日本の常識は、世界の非常識。
逆もまた真実なりで、世界の常識が、日本の非常識となっている。
あまりにも特殊過ぎると感じてしまうのだが、本書ではそれを地理的関係と過去の様々な歴史から解き明かしていく。
そもそも日本列島という特殊な地形や地理的関係が、文化と価値観を醸成したと言っても過言ではない。
こういう地形は、世界の中で見ても、ありそうで、ない。
南北に長い日本。
北端から南端までの距離は、約3,500キロメートルにもおよぶ。
南北で気候は大きく異なるために、地域の多様な食文化などを作り上げた。
確かに食が特徴的ならば、そこに根付く土地の文化も特徴的になるはずだ。
九州、北陸、東北、北海道など、肉も魚も野菜もそれぞれ美味しくて、国内全国を旅するだけでも、その多様な食文化だけで堪能できてしまう。
不思議なのは、こういう状況にも関わらず、我々はそれぞれ同じ「日本人」という民族の感覚が備わっていることだ。
それぞれの文化が発展しているならば、大きな民族間の分断があってもよさそうだが、あまりそういう感覚はない。
歴史的に見ると、隣の藩どうしが仲悪く、諍いが尽きないという地域もあったと思うし、戦国時代は戦によって、領地を奪い奪われることもあったと思う。
しかし「分断」とまで言える状況だったのだろうか。
こういう視点で眺めてみると、確かに本書の主張が説得力を増してくる。
そもそも、日本の国土の中には、海外で見るような大平原が全くない。
大陸の国家には、人が暮らすには過酷そうだが、とにかく日本では想像もつかないような広大な平原がある。
そこに大河がゆったり流れていたりする。
そんな場所では、度々大きな戦争が起きていた。
日本には、そういう場所がそもそもない。
川については、大平原がないため急流ばかり。
河口付近は平地と大きな川があるように見えるが、海外の大河や大平原と比べると、そのスケールは比較にもならない。
これは地形の話なので、当たり前だが現在でも同じ状況だ。
日本の場合は急流な河川ばかりなのだから、必ず訪れる台風時期の氾濫をどう押さえるかが大事であって、実は戦争どころではない、というのが我々の心に根付いている。
日本人にとっては自然災害こそが脅威であり、相手は「外の人」ではなく、「自然」そのものなのである。
これが他国と圧倒的に違う点だというのは、非常に腹落ちする。
我々日本人の感覚として、深く刻まれたものなのだろうと思う。
他国からの侵略に備えるよりも、自然の脅威にどう立ち向かうか。
災害が起きた際にどうやって復興していくのか、の方が確実に大事だったのだ。
そんな事情のため、人と人との大規模な殺戮の歴史が全くない。
武士同士の合戦はあっても、せいぜい数千人から数万人規模のもの。
海外の大陸側で起きたことのように、人間が人間を滅ぼすほどの人数を殺すことは、日本では歴史の中で一度も起きていない。
それこそ諸外国では数百万人〜数千万人規模を殺戮したという歴史が、数々の記録として残っているが、これは日本ではあり得ない感覚だ。
第二次大戦でのドイツ軍。ロシア革命。中国では、明の時代、唐の時代。
さらに文化大革命でどれだけの人が亡くなったか。
とにかく日本人の感覚と、世界の感覚は相当に違うというのだけは間違いない。
こんな歴史の積み重ねで、「紛争死史観」と「災害死史観」とを分け、「天為の国」と「人為の国」とを分けたという。(それぞれの後者が日本だ)
外国では「城壁都市」のある国が多いが、日本の城には、都市そのものを城壁で囲むという発想がそもそもない。
武士は外敵から身を守るために、城郭を築くが、そこに市民を押し込めることはしなかった。
こういう一つ一つの事象が、確かに世界の感覚と日本とは大きく異なる部分だ。
世界の城壁都市では、囲まれた狭い場所で市民生活を送るために、ルールを明文化して、それを守らせるための仕組みが出来上がっていく。
日本人のような、「なんとなく」や「曖昧さ」が許容されず、厳格さが求められたのだという。
こういう部分も、改めて解説されると、確かに、と納得してしまう。
私自身が日本人であるから、当たり前だと言えるのだが、客観的に考えても日本人の感覚は好きだ。
自然に対しての脅威を感じながらも、それに抗うのではなく、自らも自然の一部としてそれらを受け入れる感覚。
何となく「諦め」とも言い換えることが出来そうだが、深い意味で考えると厳密には違う。
諸行は無常であり、万物は流転するのだ。
諦めではなく、「受容する」という感覚。
仏教が上手く日本国内に根付いたのも影響しているかもしれない。
自分にも、これらの感覚が何となく備わっていると思えるのが、心地いい。
日本はこれから人口減少を迎え、これら文化を維持していくのは難しいかもしれない。
しかもビジネス面で考えても、縮小していく国内マーケットではなく、グローバルで勝負せざるを得ない状況だ。
この環境の中で、海外の当たり前を正しく理解することは、極めて重要だと思う。
日本の常識を押し付けようとしても、ビジネスでは決して上手くいかないだろう。
そうだからと言って、すべて海外のルールに迎合する必要もない。
グローバルスタンダードは確かにあるかもしれないが、それはそれとして、日本人としてどう世界で戦うかを、賢く考えた方がいい。
敵対するのではなく、勝ち負けだけでなく、もっと違う視点での戦い方。
世界の中での、日本の立ち位置を確立するというべきか。
そういう風になれたらと感じてしまう。
これからの未来も、日本が良い国であり続けてほしい。
私も含めた一人一人が、そのためのたゆまぬ努力をしろということなのだと思う。
(2025/4/29火)