書籍【なぜ働いていると本が読めなくなるのか】読了
著者が意図したかは不明だが、ミスリードさせての、どんでん返し。最後にこの主張で終わらせたのは、見事!
ベストセラーになっているのがよく分かる。
爽快なミステリー小説を読んだようで、読後感が非常に心地いい。
最初はタイトルで内容を想像させる。
読み始めると、「こういう本か」と、頭がそちらに引きずられる。
そこに違和感はない。
昔の日本の社会では、本はきちんと読まれていたのか。
読まれていなかったとしたら、その当時は何が原因だったのか。
今の時代に本が読めない状況とどう違うのか。
そんな展開で進みながら、最後がこういう終わり方になるとは思ってなかった。
良い意味での裏切られ感。なるほど、心地よい。
詳細は実際に読んでもらって体験してもらった方がよいが、読後の感想を聞いてみたいところだ。(私の感覚がズレていたら申し訳ない)
私の個人的意見だが、読書という行為は、本当にハードルが高いと思っている。
読書を娯楽と位置づけるのか、自己成長の勉強のためと位置づけるか、その人の考え方に依るところが大きい。
著者の意図としては「もっと気軽に読書を楽しめる社会になればいいのに」ということだと思う。
著者の読者愛が伝わってくるので、私は非常に好意的だが、現実問題としては、全員が全員、読書を楽しめる訳ではないだろうと思う。
私の母はすでに80歳を超えていて、老齢であるが、昔から本を全く読まなかった人だ。
本人も「読書は嫌い」と言うほど、苦手意識があったのだろうと思う。
たまたま私も姉も読書する方だったので、実家には大量の書籍がいまだに本棚にある。
(実はこの処分もそろそろせねばと思っている)
若い頃の母は忙しく仕事もしていたが、仕事を辞めてからは家にいる時間が長くなった。
息子の私が「この本はすごく面白かった」と薦めても、一向に手にすることはなかった。
ここまで本を嫌うこともないと思うのだが、よくよく聞きだすと「そもそも文章を読むのが苦手。読んでいる内に、内容が理解できなくなってしまう」のだと言う。
エンタメ小説だったり、エッセイだったりすれば、そんなに真剣に読む必要もないからと手渡してみても、数ページでギブアップしていた。
(栞が挟んであるので、読もうとした形跡はあるのだが、後日見ても、読み進んだ形跡はない)
そういう人が身近にいるために、「読書」という行為が、すごくハードルが高いものなのだと、私自身は理解していた。
しかし、世間の評価は意外と違う。
忙しく働いていれば、当然本を読む時間はないものだが、「それは努力が足りないからだ」とする風潮がある。
読書は努力してするものなのか?
そもそも時間があったら、本当に読書するのか?
これらの意見は捨て置かれて、主張だけが独り歩きしている感がある。
確かに本を読んでいる人は、読まない他人に対して、「もっと本を読めばいいのに」と思いがちだ。
私も「何か面白い本ない?」と聞かれることがあるが、薦めて貸してみても、実際に読まれることはほとんどない。
日本だけがこういう状況なのか、世界でも同様なのかは調べてみたいところだが、実母が訴えることもすごく分かる。
とにかく、日本語というだけでメチャクチャ難しい。
聞くのと、読むのは大違いだ。さらに言えば、喋るのと、書くのも大違いだ。
最近は「オーディブル」も定番化してきて、利用者も増えていると聞く。
これをもって「読書」と言えるかどうかは分からないが、技術の進化によって、裾野が広がっていると思えば、それもまた良しと言えるだろう。
そんなことを考えると、未来は、書籍の内容が瞬時に脳内にコピーされることが起こるかもしれない。
そうなると、紙のページをめくって文字を読む楽しみもなくなるのだが、それもまた抗ってもしょうがないことだろう。
ちなみに私個人の話で言えば、電子書籍はほとんど読まない。
端末はかつて持っていたし、色々と試してみたのだが、なんとなく離れてしまった。
「スマホ脳」ではないが、デジタルデバイスに触れ続けて疲れた時に、リフレッシュしようと電子書籍を手に取ったら本末転倒だと思ったことがきっかけだ。
Eインクは優秀で目に優しいのは分かっているが、今ではアナログに触れる時間を大切にしたいと思っている。
散歩だって同じようなもので、無理矢理デジタルデバイスから離れるためにやっている。
私のような人にとっては、紙の書籍は無くならないでほしいのだが、世の中の流れで考えると厳しいかもしれない。
書店が急激に減っているために、本を探すのも一苦労だ。
「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」
おかげさまで私自身は、働いている方が、なぜか本が読める。
読書量は多い方ではないが、少ない方でもない。
最近は本を読んでも内容を忘れてしまうので、忘れないために読書記録として感想文も残すようにしている。
本を読むことが、良いことなのかどうかは私には分からない。
趣味娯楽がこれだけ多様化している中で、読書人口が減るのは当然の流れだ。
自己成長のための勉強と言っても、嫌々やっていたら続く訳がない。
そもそも勉強を好きな人なんて、学校でもごく一部の人だけだった。
勉強と思っただけで、読書なんて続くはずがない。
私は完全に趣味で読書しているだけである。
疲れたら読まないし、あまり真剣に読んでいない。
今まであまり考えてこなかったが、本書を読んで、実母のエピソードを思い出すことができた。
読書は、できるタイミングで気軽にすればいいと思っている。
しかし、本書内の著者の主張には共感する。
本当にそんな社会になれば、素敵な世の中になる気がする。
ミスリードの展開が見事。
それこそ、気軽に手に取って読んでほしい書籍だ。
(2025/1/30木)