書籍【SHOE LIFE(シューライフ)「400億円」のスニーカーショップを作った男】読了
ビジネス書ばかり読んでいるが、ノウハウ本や解説本よりは、創業者自らが語る、会社経営の苦労話が好きだ。
もちろん本人が本当に書いているかは怪しいし、記載内容は事実としても、偏った側面からの内容ではあるし、過去の苦労も美化されている一面だってあるかもしれない。
その辺を差し引いたとしても、「なるほど」と感心する部分が多いのは、やっぱり著者がすごい人だからだ。
まさに叩き上げ。
本書を読むと改めて感じるが、お金持ちになるのはたまたまの結果であって、まずは社会のために、世の中の人のために、情熱を持って真摯に仕事に向き合うことが大事なのだと思う。
人間は弱い生き物だが、それを言い訳とせず、日々淡々と目の前のやるべきことに集中する。
これができそうでできないものだから困ったものだ。
著者が商売を始めた当初は、将来の夢など具体的に見えていたのだろうか。
もちろんスニーカーに興味はあったと思うが、本書を読むと「あくまでもビジネスする際の商材」として扱ったように見えてしまう。
逆に言えば、冷静に、客観的に、この商売の勝ち筋を探り出して、勝ち抜こうと挑戦していく。
私が普通に考えたら、この商売のやり方で勝てるとは到底思えない。
著者だからこそ、凡人に見えない何かが見えたのだろうと思う。
それとも単に、成功するまで諦めずにやり切っただけかもしれない。
(そもそもやり切るところがスゴイことだ)
私の鈍い感覚では、「日本で公式に販売されていないスニーカーを海外から安価に並行輸入して、日本で高値で販売する」というビジネスモデルは、絶対に思いつかないだろう。
著者も最初は半信半疑だったかもしれない。
商売を始めながら、お客様と接して、その感覚を研ぎ澄ましていったのだろうと思う。
そういう意味でも、モノを販売する最前線を知らずして、ビジネスが何たるかは語れない。
私に足りていない部分は数あれど、この辺のビジネス感覚は修羅場経験の差が大きいような気がするのだ。
商売の基本は「安く仕入れて、高く売る」。
もちろんその通りではあるのだが、根本的な「商売の本質」で考えたら、「それをお客様が欲しているかどうか」なのだと思う。
「ジョブ理論」とか「顧客インサイト」とか、経営論では難しい言葉が並ぶのだが、何て表現するのが最適なのだろうか。
商売する側と、買っていただけるお客様との、双方の思惑がピタッと一致する瞬間。
今風に言えば「マッチング」なのかもしれないが、「どうしても欲しい」と思わせて、最適なタイミングでその商品を眼の前に出す。
何なら「あなただけは特別ですよ」とまで口添えして、商品を手に握らせる。
今はマーケティング理論も発達しているし、データ分析から購入予測も立てられるのが普通になっている。
数々のビジネスの成功事例がデータベース化されて、今すぐ参考になる情報も揃っている。
それでも、この著者が見ている商売の世界は、我々凡人のものとは全く違う。
この「目」こそが、究極の暗黙知だ。
誰かに教えて、真似できるものでは決してない。
そんな著者が本書内で説いているのは、「情報こそが大事だ」という。
今のこの世の中は情報で溢れている。
みんなが得られる情報には、全く価値がない。
著者はお酒を飲まないらしいが、昼間の喫茶店代には月十万円以上も使っているという。
喫茶店で人と会い、会話する中で、情報を得て、次の商売につなげていく。
ここで重要なのは「耳」と「口」で、これもまた究極の暗黙知だ。
当然、真似できるものではない。
私もこの歳になって、ようやく「聞くことの大切さ」に気が付いたくらいだが、「身になる情報」まで昇華させるには相当難しい。
同じ話題を聞いたとしても、著者と凡人とでは、得られる情報感度が全く異なるのだろう。
なぜ彼だけに見え、聞こえる世界があるのだろうか。
本書は読めば読むほど面白い。
私には見えないもの、私には聞き取れないものとは何なのだろうと、読み進めながら考えてしまった。
それが見えたり聞こえたりしたときに、世界はどう変わったと感じるだろうか。
スニーカーを仕入れるために、世界中を駆け回った著者。
さらに、スニーカーを売るために、日本全国を走り回った著者。
「ビジネスの成功は移動距離に比例する」と言ったのは誰だったか。
結局、旅をして、人と出会うことで、新しい発想が生まれるのは間違いない。
イノベーションが新結合なのであれば、1人だけで生み出そうとするのには無理がある。
ドンドン旅に出て人と出会い、五感を駆使して商売の種を見つけ出す。
別の書籍で、NIKE創業者のフィル・ナイト氏が書いた「SHOE DOG(シュードッグ)」も、メチャクチャ面白い。
イチ並行輸入業者だった著者が、大手NIKE社と正式契約し、正規商品の販売を任されるなんて、本当にドラマチックだ。
どんなビジネスにも、真摯に取り組む人がいる以上、裏には大きなドラマが隠れている。
良い本に巡り会えてよかったと思う。
(2025/1/16木)