大学で都市計画を学んでいた頃、卒業設計をきっかけに「Albergo Diffuso(分散型ホテル)」という考え方に出会いました。
私の卒業設計「棧紡・新復興」では、台南の歴史的市街地に残る旧紡績工場とその周辺地域を対象に、歴史的建築物を活かした地域再生のあり方を考えました。
その中で着目したのが、一つの大きなホテルを新たに建てるのではなく、地域に点在する既存の建物を客室やレセプション、飲食などの機能として活用し、「町全体を一つの宿として捉える」というのはAlbergo Diffusoの考え方でした。
建物を保存することだけが目的ではなく、宿泊者が町を歩き、地域の店を訪れ、人々の暮らしに触れることで、地域全体に経済活動や交流を生み出していく。
当時の私にとって、それは「歴史的建築物の保存」と「地域の持続可能性」を同時に考えることのできる、とても新鮮な視点でした。
保存された建物ではなく、「暮らしの続く町」へ
それ以来、私の関心は一貫して、歴史的な建物や町並みを「どのように残すか」だけではなく、「それらを現在の暮らしや地域経済の中で、どのように生かし続けられるか」という問いに向かうようになりました。
大学院では歴史的街区の景観価値について研究し、筑波大学への交換留学では、日本の歴史的町並みの保全・活用についてフィールドワークを行いました。
そして2024年、NIPPONIAサミットに参加したことをきっかけに、学生時代に学んだ「分散型ホテル」の考え方が、日本の地域で実際の事業として展開されていることを、より身近に感じるようになりました。
「いつか実際にその地域に泊まり、自分自身で体験してみたい」
そう思うようになりました。
2026年、出雲平田・木綿街道へ
その機会が訪れたのが、2026年3月です。
島根県出雲市の「NIPPONIA 出雲平田 木綿街道」に宿泊し、初めてNIPPONIAの地域での取り組みを、宿泊者として体験しました。
木綿街道には、古い町家や商家が残り、歩いているだけでも、この地域が長い時間をかけて育んできた歴史を感じることができます。
一方で、こうした地方の歴史地区は、人口減少や少子高齢化と無関係ではありません。
歴史的な建物が残っていても、そこで暮らし、商い、次の世代へ引き継ぐ人がいなくなれば、町の風景そのものを維持することは難しくなります。
しかし、実際に木綿街道を歩いてみると、私が感じたのは「衰退していく歴史地区」という印象ではありませんでした。
むしろ、古い町並みの中に新しい活動が入り込み、若い世代が少しずつ地域に関わりながら、町に新しい空気を生み出しているように感じました。
それは、大規模な再開発によって町を一度につくり変えるような変化ではありません。
古い建物を使い続けること。
そこに新しい仕事や役割を生み出すこと。
地域の外から来た人が滞在し、町を歩くこと。
そして、新しく地域に関わる人が少しずつ増えていくこと。
そうした小さな変化が重なりながら、歴史ある町の日常そのものが更新されているように感じました。
「地域を残す」から、「地域が続く仕組みをつくる」へ
大学時代にAlbergo Diffusoを知ったとき、私は主に「歴史的建築物を活用する手法」としてこの仕組みを捉えていました。
しかし、実際に木綿街道に滞在して感じたのは、分散型ホテルや歴史的建築物の再生は、建物だけで完結するものではないということです。
宿泊をきっかけに人が町を歩き、店を訪れ、地域の歴史を知る。
地域に新しい役割や仕事が生まれ、そこに新しい人が関わり始める。
その積み重ねが、結果として町の日常を支えていく。
私にとって木綿街道での滞在は、学生時代から考えてきた「歴史的資源を活かした地域再生」というテーマを、実際の暮らしや事業の中で捉え直す経験となりました。
これからも、都市計画や制度の視点だけで地域を見るのではなく、実際にその土地を歩き、人の暮らしや歴史に触れながら、地域にすでにある価値を、持続可能な事業や次の世代へどのようにつないでいけるのかを考えていきたいと思っています。