ある施設では、29日間の予約売上が約3倍になりました。
ただし、この記事で伝えたいのは「値下げしたら売れた」という成功談ではありません。
こんにちは。
日本一ワクワクする会社、インバウンドホールディングスの山崎です。
今日は、「言われた通りに運用する人」から、顧客の未来へ責任を持つ専門家へ変わる話をします。
お客さまから依頼された作業を、正確に行う。
仕事の基本です。でも、言われた通りに運用しているだけでは、お客さまが本当に欲しい結果へ届かないことがあります。
宿泊施設のオーナーが欲しいのは、料金表の更新そのものではありません。安定した収益、資産価値、よいレビュー、安心して任せられる運営です。
だから僕たちは、単なる「業者」ではなく、結果へ責任を持つ「専門家」でありたいと考えています。
専門家である以上、ときには現状を変える提案をしなければなりません。たとえ、最初は受け入れにくい内容であってもです。
何度も反対された、貸別荘の料金提案
社内資料には、ある高単価の一棟貸しの貸別荘で行った、料金改善の事例があります。
貸別荘は、オーナー様にとって大切な資産であり、思いを込めてつくった一つのブランドでもあります。そのため、このオーナー様は最低価格を3万5,000円より下げることや、基本価格6万5,000円を見直すことに強く反対されていました。
「価格を下げると客層が変わるのではないか」「施設のブランドが崩れるのではないか」「本来取れるはずの単価を逃すのではないか」。高単価の貸別荘だからこそ、どれも当然の不安です。私たちも一度伝えて終わったわけではありません。市場の動きや残っている空室を見ながら、何度も料金設計の見直しを提案しました。それでも、すぐにご了承いただくことはできませんでした。
転機は、予約売上が前年を下回っていることについて話し合った会議でした。オーナー様から厳しいご指摘をいただいたとき、私たちは言われた内容をそのまま持ち帰るだけにはしませんでした。
「売上が前年を下回っている原因は、運営だけにあるのではありません。価格設計も一緒に見直さなければ、結果は変えられません。以前からご提案してきた、需要に合わせて価格を動かす仕組みを、今回は本気で試してほしいです」
耳あたりのよい返事ではありません。反対される可能性もありました。それでも、お客様の半年後、一年後の成果を考えれば、必要な提案から逃げることはできませんでした。最後には、趣旨として「そこまで言うのなら、信じてみる」とご決断いただき、三つの変更を実施しました。
一つ目は、3万5,000円に設定されていた最低価格を撤廃すること。
二つ目は、基本価格を6万5,000円から5万円へ見直すこと。
三つ目は、需要の強弱に応じて価格が動くダイナミックプライシングへ変えることです。
これは、単に「値下げして予約を増やす」という施策ではありません。貸別荘は一日空室になれば、その一棟分の販売機会を失います。需要が弱い日まで高い価格を守って空室のまま終わることを防ぎ、反対に需要が強い日は適切に価格を上げる。安売りではなく、市場に合わせて売上と利益の最大化を目指す料金設計です。
同じ29日間の予約売上を比較すると、28万481円から84万5,756円へ増え、約201%増、約3倍になりました。
稼働率は24.1%から62.1%。予約ペースは一日0.55件、合計16件から、一日1.41件、合計41件。予約された一日あたりの金額は3万8,301円から10万3,915円。キャンセル率は25.0%から14.6%へ変化しています。
もちろん、すべての変化が料金変更だけで生まれたとは断定できません。季節、競合、掲載順位、レビュー、需要など、ほかの要因もあります。それでも、提案を実行し、変更前後を複数の指標で比べたことで、次の判断に使える材料が生まれました。
反対されても、必要な提案から逃げない
この事例で本当に伝えたいのは、「料金を変えたら売上が約3倍になった」という結果だけではありません。
お客様に反対されたからといって引き下がるだけでも、自分たちの正しさを押しつけるだけでも、専門家とは言えません。相手が守りたい資産やブランドを理解したうえで、現状の機会損失を数字で示し、なぜ今変える必要があるのかを何度でも説明する。そして、提案した後の結果にも責任を持つ。それが私たちの考える提案です。
変更の目的、試す期間、想定されるリスク、結果が悪かった場合に戻す条件まで正直に共有し、最終的に決めるのはオーナー様です。だからこそ私たちは、よい可能性だけでなく、悪いシナリオも含めて判断材料をそろえます。
言われたことに正確に対応するのは、プロとしての基本です。その一歩先で、お客様がまだ気づいていないことや、少し耳の痛いことでも、未来の成果に必要なら伝える。今回の貸別荘の事例は、「業者」ではなく「専門家」であるために、提案がなぜ重要なのかを教えてくれました。
一つの数字だけなら、都合のよい物語をつくれる
予約売上が約3倍になったと聞けば、成功に見えます。
しかし、利益はどうか。清掃回数が増え、現場コストは上がっていないか。低価格の予約が、将来の価格やレビューへ影響していないか。キャンセルや問い合わせはどう変わったか。
一つの数字だけを切り取れば、提案者に都合のよい説明ができます。
だから、売上、稼働率、単価、RevPAR、予約ペース、キャンセル率、OTA別の動き、運営コスト、ゲストの声を組み合わせて見ます。
数字は成果を飾るためではなく、判断を良くするために使います。
もし想定と違う結果が出たら、隠さず、仮説を修正する。それが顧客から長く信頼される専門家の姿勢です。
若手にも、数字の先を考えてほしい
入社直後から、価格戦略のすべてを一人で決めるわけではありません。
まずは、予約データを正確に確認する。競合、曜日、イベント、予約までの日数など、需要を動かす要素を知る。先輩の判断を見て、なぜその価格にしたかを言葉にする。
次に、一部の日程やプランで仮説を出す。狙う結果とリスクを説明し、決められた範囲で試す。実施後は、良かった数字だけでなく、想定との差を振り返る。
さらに、結果をオーナーへ説明する資料をつくり、打ち合わせに参加する。専門用語を並べるのではなく、相手の事業にとって何を意味するかを伝える。
分析から提案、実行、顧客説明まで一周することで、数字は生きた経営判断になります。
「売上を上げました」で終わらないキャリア
収益改善の仕事を深めると、複数のキャリアが見えてきます。
施設ごとの価格と在庫を扱うレベニューマネジメント。オーナーの投資目的まで踏まえるコンサルティング。写真、プラン、レビュー、販売チャネルを統合するOTA戦略。データ収集や価格判断を効率化するプロダクト開発。複数施設の責任を持つ事業マネジメント。
共通するのは、数字の変化を見つけるだけでなく、人を動かし、結果へ変えることです。
分析だけなら、優れたツールが助けてくれます。しかし、オーナーが何を恐れているかを聞き、現場の制約を理解し、合意をつくるのは人の仕事です。
数字に強いことと、顧客に誠実であること。その両方を持つ人に、大きな案件を任せたいと思います。
業者と専門家を分ける、四つの姿勢
一つ目は、依頼の背景を聞くことです。「価格を変えてほしい」の先に、どんな不安や目標があるかを知ります。
二つ目は、反対意見も伝えることです。顧客が望む方法が目的に合わないと考えたら、根拠と代案を出します。
三つ目は、実行後まで追うことです。設定を変更して終わらず、数字と現場を確認します。
四つ目は、分からないことを分からないと言うことです。データで断定できない因果を、成功談として盛りません。
この四つは、価格担当だけの話ではありません。営業、立ち上げ、ゲスト対応、清掃、AI活用のどの仕事にも必要です。
顧客の未来へ責任を持つのは、怖くて面白い
提案が採用されれば、数字が動きます。良い結果だけでなく、判断が外れる可能性もあります。
指示された通りに作業していれば、「言われたから行った」と言えます。自分で仮説を持てば、結果から逃げられません。
だからこそ、仕事が学びになります。
事前にどんな情報を見たか。何を守り、何を変えたか。結果は仮説とどう違ったか。次は何を試すか。
一つの施設で得た学びを、条件の違う別の施設へどう応用するか。成功をそのままコピーせず、再現できる条件を考えます。
数字を見るのが好きな人だけでなく、数字を使って誰かの意思決定を助けたい人。よいことだけを報告するのではなく、難しい事実も誠実に伝えられる人。自分の提案を、実行後まで見届けたい人。
そんな人と、「言われた通りに運用する会社」から、「顧客の未来を一緒につくる専門家集団」へ進みたいと思っています。
改善会議では、施策より先に前提をそろえる
料金を変える会議で、いきなり「いくらにするか」を話すと、経験や好みのぶつかり合いになります。
まず、オーナーがこの施設で何を実現したいかを確認します。短期の売上、安定稼働、ブランド、長期の資産運用。優先順位によって、同じ需要でも答えが変わります。
次に、販売できる日、過去の予約速度、競合、曜日、イベント、キャンセル、レビューなど、判断に使う事実をそろえる。データの欠損や例外も確認します。
そのうえで、現状を続ける案、変更する案、限定して試す案を並べる。それぞれの期待値、リスク、必要な作業を示し、誰がいつ決めるかを明確にします。
会議後は、設定変更、確認、経過観測、報告まで担当と期限を決める。よい議論をしたことではなく、決定が実行され、結果を学べたことを成功とします。
数字が動いたとき、現場も一緒に動く
予約が16件から41件へ増えれば、清掃回数、問い合わせ、備品、設備利用も変わります。
収益担当だけが喜び、現場へ増加を共有しなければ、品質が崩れる可能性があります。需要予測を清掃やゲスト対応へ早く伝え、人員や在庫を準備する。現場から負荷や問題が返ってきたら、価格や販売方法へ反映する。
売上改善は、価格担当の個人競技ではありません。施設の体験と利益を守るために、複数部署が同じ予測を持つチーム戦です。
若手には、自分の施策が他部署へ何を起こすかまで考えてほしい。数字の先に人と仕事があることを知ると、分析の責任が変わります。
成功事例を、そのまま横展開しない
約3倍という結果は魅力的です。しかし、別の施設でも最低価格を外し、基本価格を下げれば同じ成果が出るわけではありません。
立地、部屋数、客層、固定費、ブランド、競合、予約までの日数が違います。成功事例から学ぶのは、表面の施策ではなく、なぜその施設では機能した可能性があるかという条件です。
新しい施設へ応用するときは、同じ条件と違う条件を分け、小さく試します。結果が違えば、事例を疑い、仮説を更新する。
成功談を万能の正解にせず、考える材料として使える人が、本当の専門家です。
向いている人と、しんどく感じる人
数字の正解を一人で決め、すぐ実行したい人には、オーナーや現場との合意形成が遠回りに感じるかもしれません。顧客の資産を扱う以上、説明と承認が必要な場面があります。
また、毎回必ず成果が出る仕事ではありません。外部要因が強く、施策の効果を断定できないこともあります。
一方、曖昧な状況で事実を集め、仮説を持ち、相手と一緒に決めたい人には面白い仕事です。自分の分析が予約、現場、顧客の表情へつながり、次の判断材料になるからです。
「当てた人」になるより、「外れても早く学び、顧客の意思決定を良くする人」になりたい。そんな姿勢を持つ人へ、実際の事業数字で学べる環境をつくります。