一人で全部やっていた会社に、ChatGPTが来た
2020年の春でした。創業55年の会社の3代目として代表を継いで、数年が経った頃。コロナ禍で人を減らし、総務も経理もマーケティングも営業も、在庫管理も商品の発送も、全部を一人で回していました。家では4人の子どもが休校で家にいる。まあ、なかなかの状況だったと思います。笑
目標100万円が、428%になった
その年の6月、自社で開発した除菌水をMakuakeで先行販売しました。
目標は100万円。結果は、応援購入総額4,282,135円。達成率428%、サポーター313人。
数字だけ見ると、うまくいった話に見えます。でも中身はかなり地味で、企画も原稿も写真もLPも、問い合わせの返信も、届いた注文の梱包も、ほぼ全部が自分の手でした。夜中に段ボールを組み立てながら、明日の広告文を考えている、みたいな日が続いていました。
後から振り返って、なぜ届いたんだろうと考えたことがあります。
商品が良かったから、ではない気がしていて。たぶん「誰の、どの不安に効くのか」を絞り切れたからじゃないかと思っています。
当時、除菌の商品は山ほどありました。その中で僕が書いたのは、性能の話ではなくて、「子どもの手に何度も吹きかけるものを、親はどんな気持ちで選んでいるか」の話でした。自分がまさに、それをやっている側だったので。
触った瞬間に、全部そこに突っ込んだ
それから2年半ほど経って、ChatGPTが出てきました。
正直に言うと、慎重に検討した記憶はありません。触った瞬間に「これは使うしかない」と思って、次の日には見積書の下書きも、議事録の整理も、広告文のたたき台も、全部そこに突っ込んでいました。
先を読む力があったわけではないと思います。一人で全部やっていたから、単純に手が足りていなかった。それだけです。人手に恵まれていたら、たぶんもっとゆっくり検討していました。
「北村さん、それ、うちでもやってもらえませんか」
半年くらい経った頃、取引先の方にそう言われました。
打ち合わせのたびに、僕がその場で議事録をまとめたり、頼まれた資料を翌朝に出したりしているのを、ずっと見ていたそうです。売り込んだわけではなくて、単に自分の仕事をしていただけでした。
これが、僕がAIコンサルタントを名乗るようになった最初のきっかけです。資格を取ったわけでも、そういう会社に勤めていたわけでもありません。自分の会社で、切実に使っていた。それだけが元手でした。
現場に入って分かったこと
そこから商社・製造業・小売業を中心に、複数の会社でAI顧問をするようになりました。
入ってすぐに分かったのは、「AIの話をしに行くと、たいてい違う場所で詰まっている」ということです。
ある食品の専門商社に週1で出向していたときのこと。最初のご相談は「AIで需要予測ができないか」でした。でも現場の方の話を聞いていくと、本当に苦しかったのは予測の精度ではなくて、発注の起点がずれていることで在庫が積み上がっていく、という構造の方でした。
だから僕は、いまはこう伝えるようにしています。
「全部をAIにする必要はないと思います」と。
業務をタスクに分解して、どこで流れが滞っているかを先に見る。関数で済むなら関数、RPAで済むならRPAでいい。AIでないと無理なところにだけ、AIを置く。
そして、ここは大事だと思っているのですが——「これはAIでは無理だ」と早い段階で分かることも、同じくらい価値のある成果です。できなかった、ではなくて、探す範囲がひとつ減ったということなので。
いちばんうれしかった仕事
これまでで一番うれしかった仕事の話をさせてください。
PCを1台も持ったことがない、20代の派遣社員の方にAI活用を教えたことがあります。最初は「自分には無理です」と言っていました。本当に、パソコンを開くところからでした。
半年後、その方は医療ベンチャーのAI事業部に転職していきました。入社早々、PMとして。
工数が何%減りましたという報告より、僕はこっちの方が嬉しかった。たぶん僕がやりたいのは、システムを納品することではなくて、人が動き出すところを見ることなんだと思います。
幸せとは、巡り合わせが良いこと
「幸せ」という日本語を辞書で引くと、「巡り合わせが良いこと」と出てきます。先人はとっくに知っていたんだな、と思いました。
水が巡らなければ大地は枯れる。血が巡らなければ体は動かない。情報が巡らなければ、事業は滞る。
現場で見てきた課題のほとんどは、能力不足ではなくて「巡りの乱れ」でした。そう捉え直すと、責める相手がいなくなります。悪い人がいたわけではなくて、流れが詰まっていただけなので。
AIは、その巡りを整えるための手段のひとつだと思っています。目的ではありません。
AIが速くなるほど、アナログな側に価値が出る
いま僕は、自分の会社を経営しながら、AIコンサルタントとプロコーチを両方やっています。
どちらかに絞った方が分かりやすいのは分かっているのですが、たぶん絞れません。仕組みだけ入れても人は動かないし、想いだけでは現場は回らないので。
AIが速くなるほど、価値が出るのはアナログな側だと感じています。問いを立てること。相手の本音を聞くこと。覚悟が決まるまで、隣にいること。
もし、いま「AIを入れたいけれど、何から手をつければいいか分からない」という状態で止まっているなら。最初にやることは、たぶんツールを選ぶことではないと思います。
御社の業務の、どこで流れが滞っているのか。そこを一緒に見るところから、始めてみませんか。
※ ご相談は、正社員としての転職ではなく、業務委託・技術顧問という形を前提にお受けしています。