会社に現金が貯まってきたら何に使う?設備投資・人材・借入返済・内部留保の考え方
こんにちは。
札幌で税理士をしております、河口倫範です。
前回は、会社にどのくらいの現金を残しておけばよいのか、「現金余力」という視点からお話ししました。
では、必要な手元資金を確保したうえで、会社に現金が貯まってきたらどうすればよいのでしょうか。
経営者の方から、
「現金はできるだけ残しておいた方がいいですか?」
「借入金を返した方がいいですか?」
「それとも設備や人材に投資した方がいいですか?」
といったご相談をいただくことがあります。
どれか一つが必ず正しいわけではありません。
大切なのは、
「今あるお金を、会社の未来のためにどう配分するか」
という視点です。
まず「本当に余っているお金か」を確認する
通帳の残高が増えてくると、
「少し余裕が出てきた。」
と感じるものです。
しかし、そのお金がすべて自由に使えるとは限りません。
例えば今後、
税金の支払い。
賞与。
設備更新。
仕入代金。
借入金返済。
などが予定されているかもしれません。
そのため、まず確認したいのは、
現在の預金から今後予定されている支払いを差し引いても、十分な手元資金が残るか
ということです。
通帳残高だけを見て判断するのではなく、半年先、一年先の資金繰りまで考えてみます。
選択肢① 設備投資に使う
会社の成長を考えるうえで、代表的なお金の使い方が設備投資です。
例えば、
機械を新しくする。
車両を入れ替える。
店舗を改装する。
パソコンやシステムを導入する。
業務を自動化する。
といった投資があります。
設備投資を考えるとき、
「いくらかかるか。」
だけを見るのではなく、
「その投資によって会社がどう変わるのか。」
を考えることが大切です。
売上が増えるのか。
作業時間が減るのか。
人手不足を補えるのか。
不良やミスが減るのか。
新しい仕事を受けられるようになるのか。
投資後の変化まで考えて判断します。
「安いから買う」ではなく「必要だから買う」
決算が近づくと、
「利益が出そうだから何か買った方がいいですか?」
という話になることがあります。
もちろん、必要な設備を適切なタイミングで導入することには意味があります。
しかし、
税金を減らすことだけを目的に、必要のないものを購入する
という判断には注意が必要です。
例えば100万円使って税負担が一定程度軽くなったとしても、会社から100万円の現金が出ていくことに変わりはありません。
節税になるかどうかだけではなく、
「この100万円は会社の将来にとって有効な使い方なのか。」
という視点を持っておきたいところです。
選択肢② 人材に投資する
会社のお金の使い道は、物だけではありません。
人への投資もあります。
例えば、
新しい社員を採用する。
社員の給与を見直す。
賞与を支給する。
研修を行う。
資格取得を支援する。
福利厚生を充実させる。
といったものです。
特に会社が成長してくると、
「仕事はあるけれど、人が足りない。」
という状況になることがあります。
このとき、現金に余裕があれば、少し先を見据えた採用を考えることもできます。
採用は「一度の支出」ではない
ただし、人材への投資では設備投資とは違った注意点があります。
社員を一人採用すると、給与だけでなく、
社会保険。
採用費。
教育費。
パソコンや机。
場合によっては事務所スペース。
なども必要になります。
そして給与は、一度払って終わりではありません。
毎月続く固定的な支出になります。
そのため採用するときには、
「今払えるか」ではなく、「今後も払い続けられるか」
という視点が重要です。
選択肢③ 借入金を返済する
現金に余裕が出てくると、
「借入金を早く返してしまいたい。」
と考える経営者の方もいらっしゃいます。
借入を減らすことで、
今後の返済負担を軽くする。
支払利息を抑える。
という効果が期待できます。
一方で、返済すると会社の現金も減ります。
例えば、余裕資金だと思って1,000万円を繰上返済した直後に、
大口取引先の売上が減った。
設備が故障した。
大きな仕入が必要になった。
ということが起きる可能性もあります。
そのため、
「返せるから返す」のではなく、「返したあとも十分な現金が残るか」
を確認することが大切です。
借入があること自体を悪いと考えない
借入金は、
「できるだけ少ない方がいい。」
と思われることがあります。
もちろん、必要以上の借入を増やす必要はありません。
しかし、借入によって十分な手元資金を確保し、その資金を使って会社を安定させたり成長させたりする考え方もあります。
大切なのは借入があるかどうかではなく、
借りたお金を何に使い、無理なく返済できる状態になっているか
です。
選択肢④ あえて使わず、会社に残す
設備投資もしない。
大きな採用もしない。
繰上返済もしない。
そのまま会社に現金を残す。
これも立派な経営判断です。
会社に現金があれば、
売上が急に減った。
取引先からの入金が遅れた。
原材料価格が上がった。
設備が突然故障した。
というときにも対応しやすくなります。
また、
良い人材が見つかった。
良い物件が出てきた。
新しい事業機会が生まれた。
というときに、すぐ動ける可能性も高くなります。
現金を残すことは、
何もしないことではなく、将来の選択肢を残すこと
でもあります。
「守るお金」と「使うお金」を分けて考える
会社に現金が増えてきたときには、すべてを一つに考えない方が分かりやすい場合があります。
例えば、
会社を守るためのお金。
近いうちに必要になるお金。
成長に使えるお金。
というように分けて考えます。
まず会社を守るために必要な現金を確保する。
次に、納税や賞与、設備更新など、予定されている支払いを確保する。
そして、それでも残る部分について、
「何に使えば会社の未来につながるだろう。」
と考えます。
投資するときは「回収」を考える
設備や人材に投資するときには、
そのお金が将来どのような形で会社に戻ってくるのか
を考えてみることも大切です。
例えば、新しい設備に500万円かけることで、
年間の作業時間が減る。
外注費が減る。
受注できる件数が増える。
という効果が期待できるかもしれません。
人を採用することで、社長が現場から少し離れ、新規営業に時間を使えるようになるかもしれません。
すべてを正確な数字にすることは難しくても、
「何のために投資するのか。」
を明確にしておくだけで判断しやすくなります。
「使わないリスク」もある
お金を使うことにはリスクがあります。
しかし、使わないことにもリスクがあります。
古い設備を使い続けて生産性が下がる。
採用を先送りして社員の負担が増える。
教育をしないため人材が育たない。
システム化を遅らせて業務効率が上がらない。
こうしたことも、長期的には会社の競争力に影響する可能性があります。
だからこそ、
「お金を使うリスク」と「使わないリスク」の両方を見る
ことが必要です。
全部を一度に決めなくてもいい
会社に3,000万円の余裕ができたからといって、すぐにその使い道をすべて決める必要はありません。
例えば、
一部は現金として残す。
一部は設備に使う。
一部は人材育成に使う。
という考え方もできます。
経営では、
「設備投資か、現金を残すか。」
「借入返済か、採用か。」
という二者択一ではなく、
バランスを取りながら配分する
ことが大切です。
お金の使い方には会社の方針が表れる
会社のお金を何に使うかを見ると、その会社が何を大切にしているのかが分かります。
人材に使う会社。
設備に使う会社。
新規事業に使う会社。
安全性を重視して現金を厚く持つ会社。
どれが正解ということではありません。
重要なのは、
「なぜそこにお金を使うのか」を経営者自身が説明できること
だと思います。
利益が出た後こそ経営判断が必要になる
赤字のときは、
「どうやって利益を出すか。」
を考えます。
一方、利益が出て現金が貯まり始めると、
「その利益をどう使うか。」
という次の経営課題が生まれます。
守るのか。
返すのか。
人に使うのか。
設備に使うのか。
次の事業へ投資するのか。
この判断によって、数年後の会社の姿は変わってきます。
だからこそ、
利益が出たところで経営が終わるのではなく、利益をどう次につなげるかまで考える
ことが大切です。
税理士として、
「今年はいくら利益が出ました。」
「税金はいくらです。」
というところだけで終わるのではなく、
その利益によって増えた会社のお金を、
「守るためにいくら残し、成長のためにいくら使うのか。」
そこまで経営者の方と一緒に考えていきたいと思っています。
会社のお金は、ただ貯めるためのものでも、ただ使うためのものでもありません。
会社を守り、社員を支え、そして次の成長につなげていくための大切な経営資源です。
だからこそ、現金が増えてきたときこそ、
「このお金を使って、3年後の会社をどうしたいのか。」
を一度考えてみてはいかがでしょうか。