売上が20%減ったら会社は何か月持つ?経営者が一度はやっておきたい資金繰りシミュレーション
こんにちは。
札幌で税理士をしております、河口倫範です。
前回は、大口取引先への依存について、
「もし主要な取引先との取引が減ったら、会社はどうなるのか。」
を一度考えておくことが大切だというお話をしました。
今回は、そこからもう一歩踏み込んで、
「もし売上が20%減ったら、会社の資金は何か月持つのか。」
という資金繰りのシミュレーションについて考えてみたいと思います。
もちろん、売上が20%減ると決まっているわけではありません。
大切なのは、悪い未来を予想することではなく、
何か起きたときに、会社がどのくらい耐えられるのかを知っておくこと
です。
まず現在の預金残高を確認する
最初に確認するのは、とてもシンプルです。
会社に現在いくら現金・預金があるのか。
まずここから始めます。
ただし、
「預金が2,000万円あるから安心。」
とは限りません。
会社によって毎月必要なお金が違うからです。
毎月300万円程度の支払いがある会社と、毎月1,000万円の支払いがある会社では、同じ2,000万円でも意味がまったく違います。
そのため預金残高は、
金額だけではなく、毎月の支出との関係で見る
ことが大切です。
次に「毎月いくら出ていくか」を確認する
次に、会社から毎月出ていくお金を確認します。
例えば、
給与。
社会保険料。
家賃。
仕入代金。
外注費。
借入金の返済。
リース料。
保険料。
システム利用料。
広告費。
などです。
すべてを細かく計算しなくても構いません。
まずは、
「会社を通常どおり動かすために、毎月おおよそいくら必要なのか。」
を把握してみます。
売上が20%減っても、支払いは20%減らない
ここが重要です。
売上が20%減ったとしても、会社の支払いが同時に20%減るとは限りません。
仕入や材料費など、売上に連動する費用は減るかもしれません。
しかし、
給与。
家賃。
リース料。
システム費。
借入返済。
などは、売上が減った翌月からすぐに減るわけではありません。
つまり、
売上はすぐ減るけれど、固定費は残る。
この状態が続くことで、会社の預金が少しずつ減っていきます。
「利益」ではなく「現金が毎月いくら減るか」を見る
資金繰りシミュレーションでは、
「赤字はいくらになるか。」
だけでなく、
「毎月、現金がいくら減るのか。」
を見ることが大切です。
例えば、売上が減った結果、毎月100万円ずつ預金が減るとします。
会社に2,000万円あるから、
「20か月大丈夫。」
と単純には言えません。
その間にも、
税金。
賞与。
設備更新。
保険料。
借入返済。
など、通常月とは違う支払いが発生する可能性があります。
そのため、実際には月ごとの入出金を確認する必要があります。
3つのパターンを作ってみる
将来を正確に予測することはできません。
そこで私は、一つの予測だけを作るのではなく、複数のケースで考える方法もよいと思っています。
例えば、
通常どおり売上が続くケース。
売上が10%減るケース。
売上が20%減るケース。
というように分けてみます。
さらに必要であれば、
売上が30%減った場合。
大口取引先がなくなった場合。
といったケースも考えます。
大切なのは、
どのくらい売上が減ったら会社の資金繰りが厳しくなるのか
を把握することです。
「何か月持つか」が分かると、動く時期が分かる
例えばシミュレーションの結果、
売上が20%減る状態が続けば、半年後から資金が厳しくなる。
と分かったとします。
すると、
「半年後に考えればいい。」
ではありません。
むしろ、
今から何をするか
を考えることができます。
新規営業を強化する。
価格を見直す。
不要な支出を整理する。
設備投資を少し延期する。
在庫を減らす。
売掛金の回収を早める。
金融機関へ相談する。
選択肢はいくつもあります。
早く気づくほど、選べる方法も増えます。
3か月先の預金残高を予想してみる
資金繰り表を作ったことがない方は、まず3か月先から始めてもよいと思います。
現在の預金残高。
今後入ってくる予定のお金。
今後支払う予定のお金。
これだけでも構いません。
そして、
来月末はいくら。
2か月後はいくら。
3か月後はいくら。
と予想してみます。
完璧な数字でなくても、
預金が増える方向なのか、減る方向なのか
を見るだけでも意味があります。
次は6か月先を見る
3か月先が見えるようになったら、次は6か月先です。
半年という期間で見ると、
賞与。
税金。
設備投資。
保険料。
車両購入。
契約更新。
など、毎月ではない支払いも入ってきます。
「通常月は資金が減っていないのに、半年後に大きく減る。」
ということもあります。
そのため、
月々の資金繰りだけではなく、
年間の大きな支払い予定
も確認しておくことが大切です。
借入返済も忘れずに入れる
利益と資金繰りの違いを考えるうえで、借入金の返済は重要です。
以前の記事でもお話ししましたが、借入金の元本返済は、通常の経費のように損益計算書上の利益を減らすものではありません。
しかし、現金は確実に出ていきます。
そのため、
「黒字なのに預金が増えない。」
という会社では、借入返済が大きく影響している場合があります。
資金繰りシミュレーションでは、
毎月いくら返済しているのか
を必ず確認しておきたいところです。
売掛金の回収が遅れたケースも考える
売上が減ることだけが資金繰りリスクではありません。
例えば、
売上は予定どおり。
しかし、大口取引先からの500万円の入金が1か月遅れた。
これだけでも、一時的に資金繰りが大きく変わる場合があります。
特に、
仕入や給与は先に支払う。
売上代金は後から入金される。
という会社では、入金時期が非常に重要です。
そのため、
売上減少だけでなく、入金が遅れた場合
も考えてみると、より実践的なシミュレーションになります。
「一番悪いケース」だけを考えすぎない
資金繰りシミュレーションというと、
最悪の場合ばかりを考えて不安になる方もいらっしゃいます。
しかし、目的は不安になることではありません。
通常の場合。
少し悪い場合。
かなり悪い場合。
複数のケースを並べて、
「このくらいなら問題ない。」
「ここまで下がったら対策が必要。」
という境界線を知ることが大切です。
数字が分かることで、むしろ漠然とした不安が減ることもあります。
「この残高になったら動く」という基準を決める
資金繰りを見ていても、
「まだ大丈夫。」
と判断を先送りしてしまうことがあります。
そこで、あらかじめ自社なりの基準を考えておく方法があります。
例えば、
預金残高が一定水準まで減ったら金融機関へ相談する。
3か月連続で預金が減ったら原因を確認する。
売上が一定水準を下回ったら経費計画を見直す。
というように、
行動を始める基準
を決めておきます。
実際の基準は会社によって異なります。
大切なのは、資金がほとんどなくなってから初めて考える状態を避けることです。
良いときにもシミュレーションする
資金繰りシミュレーションは、経営が苦しい会社だけが行うものではありません。
むしろ業績が良いときにも役立ちます。
例えば、
社員を3人採用したらどうなるか。
新しい店舗を出したらどうなるか。
設備に1,000万円投資したらどうなるか。
賞与を増やしたらどうなるか。
こうした経営判断をする前に、
その後の預金残高を予想する
ことができます。
「利益が出ているから大丈夫。」
ではなく、
「投資したあとも十分な現金が残るか。」
まで確認する。
これが資金繰りを経営に使うということだと思います。
シミュレーションは外れてもいい
将来の売上や支出を予測しても、そのとおりになるとは限りません。
むしろ、実際には違う結果になることの方が多いかもしれません。
しかし、それで問題ありません。
重要なのは、
予想と実績が違ったときに、
「なぜ違ったのか。」
を確認することです。
売上が予想以上だった。
仕入が増えた。
入金が遅れた。
予定していなかった支払いが発生した。
その差を確認して、翌月以降の予測を修正します。
資金繰り表は一度作って終わりではなく、毎月更新していくもの
と考えると使いやすくなります。
会社に必要なのは「時間を買える現金」
会社に現金があることの大きな意味は、単に通帳残高が多いことではありません。
何か問題が起きたときに、
考える時間。
改善する時間。
営業する時間。
金融機関へ相談する時間。
を確保できます。
売上が急に減ったとしても、十分な現金があれば、すぐにすべてを変えなくても対応策を考えられます。
つまり、
手元資金は、会社に「考える時間」を与えてくれるもの
でもあります。
「もし売上が20%減ったら?」を一度考えてみる
経営が順調なときには、売上が減った場合を考えるのはあまり気持ちのよいことではないかもしれません。
しかし、一度数字にしてみることで、
意外と十分な余裕がある。
思っていたより固定費が大きい。
特定の入金に依存している。
借入返済の負担が大きい。
といったことが見えてきます。
そして、それが分かれば今から準備できます。
大切なのは、
「売上が減ったらどうしよう。」
と漠然と心配することではありません。
「売上が20%減ったら、会社の預金はどう動くのか。」
と数字に変えることです。
不安を数字に変える。
数字を行動に変える。
その積み重ねが、会社の安定につながります。
税理士として過去の決算を見るだけではなく、
「来月はいくら残るのか。」
「半年後はどうなっているのか。」
「売上が減った場合でも会社は対応できるのか。」
という未来の数字も、経営者の方と一緒に確認していきたいと思っています。