心拍数、Queer、Interactive Widget。日本発バーチャル配信のプロダクト体験を再定義する —— Avvyを事例に
はじめに
先日、バーチャル配信アプリ「Avvy」を中心に、競合調査(Mirrativ, Iriam, 17LIVE, Reality, ColorSing)を行いました。私はこれまでデザイン領域、PR、そしてモバイルアプリのグロースに携わってきましたが、現在はユーザー体験を技術で形にできる iOS エンジニアとして、審美性と実装ロジックの融合に取り組んでいます。
これからの「アバター体験」はどうあるべきか。その考察をまとめたレポートを、ここ(Wantedly)でも公開します。
note でも公開しています:https://note.com/junn2023/n/n719f032a8a39
Avvyのコア・アドバンテージ
私が考えるAvvyのコア・アドバンテージは以下の2点です。
- 究極のLive2Dビジュアル表現
- 日本の美意識をグローバルユーザーに届けられること
この強みを最大化するために、「ユーザーの摩擦を減らす」「インクルーシブな設計」「アバターへの生命の付与」という観点で思考を整理しました。
補足考察:Avvyにおける「日本の美意識」の正体
私が感じる「日本の美意識」は、伝統的な形式だけでなく、ここ数十年で形成された「現代のサブカルチャー(ACGN、日本発のファッション、City Popなど)」に宿っていると考えています。日本は今や、これらの感性の世界的中心地です。
- ルーツとナラティブ: Appleが「Designed in California」を強調するように、Avvyが東京発であることは、二次元文化において「正統性」と「ブランド力」を意味します。これは海外の競合が技術だけでは模倣できない、非常に強力なアイデンティティです。
- エコシステムのシナジー: 東京に拠点があることで、世界トップクラスのクリエイターと「同じ文化圏」で密な連携が取れます。このシームレスなコミュニケーションこそが、Avvyの衣装のシワや配色といった細部を、究極のバランスに到達させているのだと感じています。
1. 意思決定コストを下げる:「選択」から「直結」へ
この課題は、さらに「A. オンボーディング(新規ユーザー)」と「B. 通常時のブラウジング」の2つの局面に分けて整理できます。
A. オンボーディング(新規ユーザー)の観点
多くの競合アプリは、初回起動時にアンケートで興味のあるタグを選ばせ、それに基づいた配信を推薦します。
- Mirrativの卓越した設計: アンケート回答後、リストから選ばせることなく、いきなり配信部屋に入室させるフローを採用しています。これにより、初心者の「どれを見ればいいか分からない」という選択の負荷をゼロにしています。
- Avvyの現状への疑問: 現在のAvvyには興味アンケートがなく、「おすすめユーザーのフォロー」を提案されます。しかし、文脈が共有されていないため、「誰だか分からない人をフォローする」ことに心理的な抵抗を感じました。(これは既存ユーザーのフォロワー獲得を支援するための設計でしょうか?)。
B. 通常ブラウジングの観点
リストから配信を選ぶ際の情報密度においても、Mirrativは他社と一線を画しています。
- 情報密度の抑制: 私のiPhone 12 miniで確認した際、他社アプリは1画面に4つ以上の配信枠を詰め込んでいますが、Mirrativはあえて2つしか表示していません。
「選択肢を減らす」という設計思想が徹底されており、結果としてMirrativが最も意思決定コストが低いと感じました。
追記:UIにおける「配信誘導」の誤解と発見
当初、私は「Avvyはユーザーに配信を強く誘導している」と感じていましたが、さらに深くプロダクトを使い込み、再調査を行った結果、それは私の先入観による視覚的な誤解であったことに気づきました。しかし、この誤解自体が重要なUIの課題を示唆していると考え、ここに記します。
- 誤解の原因: 画面下部の目立つ「配信準備」ボタンを、他アプリのメンタルモデルから「即座に配信開始」の機能だと誤認していました。改めて見ると、このページはアバターの展示(ショーケース)としての役割も担っていると理解しました。
- 視覚的階層の課題: 現在、配信準備ページには合計8つのボタンが配置されています。さらに、最も目立つ「配信準備」ボタンの存在により、視覚的な焦点が分散しています。その結果、本来のコア体験である「アバター編集(着せ替え)」への導線が相対的に埋もれてしまい、新規ユーザーが迷う要因になっている可能性があります。
Avvy 公式アプリより引用(スクリーンショット)
2. 「不完全なネットワーク環境」下での体験設計
現実的なシナリオ
多くのユーザー(特に日本のGen Z)は、月末になると通信制限に直面します。
競合比較
一部のサービスは弱回線環境下では読み込みができず、体験が維持できませんでした。一方でMirrativやIriamは「音声優先」の戦略をとっているようで、たとえ画面がボヤけていたり読み込めなくても、音声だけは瞬時に繋がり「最低限の居場所」を保証していました。
Avvyへの提案
- グレースフル・デグラデーション(機能縮退): 弱回線を検知した場合、重いLive2Dリソースの読み込みを待つのではなく、音声ストリームを最優先することはできないでしょうか?画面は一時的に美しいブラー背景やデフォルトのイラストで埋める形で対応します。
- 待つことを楽しみに変える: Mirrativのローディングアニメーションは可愛らしく、待つこと自体が許容できる体験になっていました。Avvyでも、ロード時間を単なる焦燥感のある時間にするのではなく、繊細でインタラクティブな楽しみのある時間として設計できるはずです。
3. インクルーシブデザインとアイデンティティ
Avvyは多くの北米ユーザーを抱えているからこそ、日本のドメスティックな競合とは異なる、より前衛的な表現にも挑戦できる可能性があると感じました。
性別二元論を超えたキャラメイク
ColorSingは多くの性別選択肢を提供していますが、それだけでは不十分です。Avvyは単に「選択肢を増やす」だけでなく、「性別の曖昧さ」を表現できる可能性を提供すべきです。
現在の競合やAvvyのアバターは「萌え」か「イケメン」かというステレオタイプに留まりがちだと感じます。この二元的な枠組みを打破し、ユニークな美意識を表現できるようにすれば、クィア(Queer)コミュニティや自己表現を重視するサブカルチャー層を強力に惹きつけられます。この層は美的感覚が鋭く、プラットフォームへのロイヤリティや自己表現への意欲が非常に高い層でもあります。
登録フローにおける摩擦
ColorSingは年代(20代、30代...)を選ぶだけでフローが非常にスムーズでした。一方でiOS標準のDate Pickerで正確な生年月日を要求するのは、操作が煩雑なだけでなく、プライバシーを重視するユーザーにとっては心理的な圧力になります。ここは改善の余地があると感じました。
4. アバターに「生理的反応」を宿す
現在のアバターは美しいですが、「生理レベルでの生命感」を与えたいと考えました。
心拍同期
例えば、配信者が高音を歌ったりゲームで緊迫した場面になった時、アバターの頬を紅潮させたり、汗のエフェクトを出したりするシナリオです。リアルタイムの心拍数に合わせて鼓動するハートのアイコンを表示するのも良いでしょう。
これはApple Watchに限らず、汎用的なBluetooth心拍デバイス(Androidのバンド等含む)もサポートし、リアルな生理データをLive2Dのアニメーションステートにマッピングできれば、強烈な没入感と情緒的価値を提供できます。(もちろん、生体データを扱う機能となるため、プライバシー保護やユーザーによる選択権については十分に配慮して実装する必要があります。)
Avvy独占体験として
このような機能は「Avvyプラットフォーム内で配信する時のみ有効」とすることで、プラットフォーム独自の価値を強化できます。
ブランディング戦略
Mirrativがアバターを「エモモ」としてブランド化しているのは非常に賢いです。AvvyのアバタークオリティはLive2Dの領域において競合を凌駕しているため、独自のアバター名称を定義し、美的基準の差別化を図るべきです。
5. クリエイターエコノミー:配信だけではないプラットフォーム
市場の洞察
Iriamの周辺環境が示しているのは、「自分の描いたキャラを動かしたい」と願うフリーランスのイラストレーターが市場に大量に存在し、ユーザーもそうした作家の作品にお金を払う意思があるという事実です。
Avvyの機会
Avvyは最高峰のLive2Dレンダリング能力を持っています。「Avvy版 App Store」のようなプラットフォームを構築し、イラストレーターが髪型・服・モデル全体を投稿・販売できる仕組みを作れないでしょうか?
これは公式素材の不足を解決するだけでなく、Avvyを「イラストレーターが実力を証明する舞台(イラストレーターにとってのGithub)」へと進化させます。自分の作品が多くのユーザーに使われること自体が、クリエイターの誉れとなり、履歴書となります。
6. アプリの外側へ:ホーム画面のデスクトップ美学
Z世代にとって、ホーム画面は自分の部屋を飾るような「デスクトップの美学(Aesthetics)」の一部です。
プロダクトをアプリの中に閉じ込めてはいけません。iOS 17から導入された Interactive Widget を活用し、ユーザーの化身や推しをホーム画面に呼び出すべきです。ウィジェット上でアバターに挨拶したり、ステータスをリアルタイムで確認できる。こうした「アプリを開く前」の接点を日常の中に作ることで、生活に溶け込むような「伴走感」を創出できます。
7. インタラクションの詳細とパフォーマンス最適化
最後に、UI/UXを重視するエンジニアの視点から、いくつかの技術的な詳細についてです。
- パフォーマンス課題: iPhone 14 Proであってもキャラメイク時にカクつきを感じました。Live2D表現のクオリティが非常に高いからこその負荷だとは理解していますが、Metalのレンダリング階層やリソース管理の観点で、まだ改善の余地があるのではないかと感じました。
- 「いいね」体験の全体像: Avvyでの視聴中、リアルタイムで配信者にハートを送る機能が直感的に見つけられませんでした。Iriamにはありましたが、ボタンが画面右下に固定されており、アイコンが「中抜きの星」であるため「お気に入り登録」と誤認しやすいと感じました。個人的な提案ですが、TikTokのように「画面のどこをダブルタップしても『いいね』ができる」仕様にし、Core Hapticsを用いた触覚フィードバックと組み合わせれば、ユーザーの感情発散の欲求を効果的に満たせます。
おわりに
今回のリサーチを通じて、バーチャル配信という領域が持つ無限の可能性を再確認しました。プロダクト開発には、デザインやPRの視点による「定性的な直感」と、データに基づく「定量的な仮説検証」の両輪が必要です。
今後は、自分の強みであるユーザー視点の感性を大切にしつつも、それを技術と数値で裏付け、確信を持って体験を磨き上げられるユーザー体験を技術で形にできるエンジニアを目指して成長していきたいと考えています。