自分の中に仕事が入ってくる感覚
私自身は大学で化学を専攻しており、その中でも無機化学(ガラス)についての研究をしていました。その専攻分野を活かすべく、精密機器メーカーに就職し、デジタルカメラや複合機(コピー機を含む)、DVDなどの光ピックアップレンズに使用されるガラス素材の開発に取り組んできました。
大学では、目に見えない赤外線を緑や赤色の可視レーザーに変換するガラスについての研究をしており、「ガラスってこんな可能性があるのだ」と材料の新たな可能性を見出す仕事を望んでいました。
入社してから取り組んだものは「一見シンプルなガラス」。それをユーザー会社の要求(スペック)に見合うように「何回も溶融試作して物性を評価する」地道な作業の繰り返しでした。大学での研究とのギャップに悩みながら取り組む日々。ここまででも大変でしたが、試行錯誤の末、候補組成(配合)が決まり、やっと提案となります。
しかし、本当の山場はこれから。実際に生産現場で溶融しレンズ形状に成型するにはまだまだ求められる事が多く、その上製品の長期信頼性が求められるので、試作のやり直し、再評価をさらに繰り返しました。実験と量産では求められるものがやはり違いました。一つのガラス素材を開発するだけでも長期戦となりました。
ここで求められたのは周囲の従業員とのコミュニケーション、課題があっても粘り強く取り組むことだと思います。また実験だけではなく、生産現場に行って自分でレンズ試作することも重要な経験となりました。
そうして粘り強く取り組んだ結果、開発が完了し、製品化に至ったガラス素材を生み出してきました。例え製品の一部であっても、自身が開発に携わったものが市場に出ると嬉しくて、搭載されているデジタルカメラを見に行った事もありました。開発の醍醐味です。
長い事やっていると、はじめは自分の希望とは異なった仕事でも、それが「段々自分の中に入ってくる」という感覚が身についてきました。「一見シンプルなガラス」と言いましたが、やってみるとなかなか奥深いものでした。
世の中の技術の変化が早い現在。一つの技術領域だけでは対応できないので、今は化学の知識と経験を活かしながら有機・無機化学を問わず、色々な領域に取り組んでいます。