海へ向かう前の日は、少しだけ眠りが浅くなります。
海へ向かう前の日は、
少しだけ眠りが浅くなります。
遠足の前の日みたいに、
楽しみで何度も目が覚めてしまうことがあります。
天気予報を見て、
風向きを確認して、
器材の忘れ物がないか何度もチェックして。
「明日はどんな海だろう」
そんなことを考えている時間も、
もうすでに海の楽しみの一部です。
そして朝、
まだ静かな道を走りながら海へ向かう。
少しずつ空が明るくなって、
水平線の向こうに光がのぼってくる。
その景色を見るだけで、
「ああ、今日も来てよかった」と思えます。
海に入る前から、
もう気持ちは満たされ始めているのかもしれません。
海は、
潜っている時間だけが特別なのではなくて、
海へ向かう時間も、
帰ってから思い出す時間も、
全部含めて特別です。
だから、
一日の終わりにどっと疲れていても、
心はどこか満たされている。
体は重たいのに、
気持ちは軽い。
あの感覚は、
海で過ごした日だけのご褒美かもしれません。
帰り道、
窓の外に見える夕方の海を眺めながら、
いつも思います。
「また来よう」
そのひと言に、
その日の楽しさが全部詰まっています。
うまく潜れた日も。
少し反省が残った日も。
思いがけない出会いがあった日も。
どんな一日でも、
最後には海が好きだと思える。
それが海のすごいところです。
きっとこれから先も、
海に行くたびに新しい思い出が増えていくのでしょう。
そして何年後かにログブックを開いたとき、
そのひとつひとつが、
自分だけの宝物になっている気がします。
海の記憶は、
静かだけれど、
ずっと心の中に残り続けるから。
だからまた、
次の海へ向かいます。
まだ見たことのない景色に会うために。
そして、
またひとつ新しい思い出を増やすために。
— 海沼葵衣