第8回:大家さんとの距離の近さに驚いた話(地方不動産ならでは)
第8回:大家さんとの距離の近さに驚いた話(地方不動産ならでは)
不動産屋で働き始めて驚いたことのひとつに、
**「大家さんとの距離の近さ」**があります。
テレビやネットで見る不動産のイメージは、
ビジネスライクで、契約書や数字がメインの世界。
ところが、香川のこの町では、大家さんとの関係はもっと人情味あふれていました。
■ 「元気か?」から始まる関係性
ある日、店で書類整理をしていると、
常連のようにふらっと大家さんが立ち寄りました。
「店長、元気か?畑で野菜が採れたけん持ってきたで」
そう言って大きな袋を置いていく姿に、思わず目が丸くなりました。
その袋には、採れたてのきゅうりとトマト。
店長が嬉しそうに「ありがとうなぁ」と受け取る光景は、まるで親戚同士の会話のよう。
僕が思い描いていた“ビジネスの距離感”とは、まったく違っていました。
■ 修繕の相談も、電話ではなく“対話”で
部屋の修繕が必要になったとき、
店長は電話で済ませるのではなく、直接会いに行くことも多いです。
車に乗って向かった先は、大家さんの自宅ではなく、その人が営むうどん屋さん。
店長が状況を説明すると、
「そら早う直しちゃらなあかんな。
ついでに食うていき」
気がつけば、店のテーブルでうどんをご馳走になっていました。
湯気の向こうで交わされる会話は、仕事というより、信頼の上に成り立つ相談でした。
■ 退去の立ち会いで見える“想い”
あるアパートの退去立ち会いに行ったときのこと。
大家さんは、部屋の壁に残った小さな釘跡を見つけると、こう言いました。
「誰かの暮らしの跡が残っとんなぁ。
まあ、それだけ大事に住んでくれた証拠や」
怒るどころか、しみじみと微笑むように。
部屋を貸すというより、人の暮らしを預かっているという感覚に近いのだと知りました。
■ “人のつながり”で成り立つ不動産
都会では当たり前の“事務的な距離感”ではなく、
ここでは、大家さん・店・住む人が、ゆるやかにつながっています。
その関係は、数字や契約書では測れない信頼でできていました。
もっとも印象的だったのは、店長の一言。
「この町の大家さんはな、“誰に貸すか”を大事にしとる。
ええ人に住んでもらいたいんや」
この言葉を聞いたとき、
不動産を扱うことは、建物だけでなく
人と人との縁をつなぐ仕事なんだと胸に落ちました。
今日の学び:
地域に根ざす不動産は、契約より“信頼”で動いている。