〜Linux物語〜 第1章 : 世界が目覚める朝、そして外の世界との邂逅
なぁ、あんたのパソコンの電源を入れた瞬間、何が起こっているか知っているか?
それは、まるで凍てついた大地に、命の息吹が吹き込まれるようなもんだ。
まず、BIOSという古き番人が、「おい、起きろ!」とハードウェアという街全体を揺り起こす。
次に、ブートローダという執事が、奥の間に封印されていたLinuxの心臓部、カーネルをそっとメモリという広間に運んでくる。
カーネルが目覚めた瞬間、この世界に秩序が生まれる。
全てのデバイスに魂が宿り、ひとつひとつに役割が与えられる。
そして、そのカーネルが最初に生み出すのが、PID 1というIDを持つ、この世界の絶対的な支配者、systemdだ。
こいつが、すべてのプロセスという住民たちを統率し、この社会の秩序を守る。
だが、この世界は孤立しているわけじゃない。
「外の世界」との繋がりを求めている。
systemdの指揮の下、まずはネットワークインターフェースという外交官が目を覚ます。
こいつは、物理的なケーブルという手紙を握りしめ、外部の世界との通信を試みる。
その手紙の送り先を探すために、DHCPという郵便局員が走り回り、この世界の住所(IPアドレス)を割り振るんだ。
これで、この世界は、外の世界から「あんたはここにいるんだな」と認識されるようになる。
そして、ウェブサイトという遥か彼方の街へ行きたければ、DNSという地図職人が大活躍する。
「この街の名前は、この住所だぜ」と教えてくれる。
IPアドレスという数字の羅列じゃ、人間には覚えられないからな。
━━秘密の物語:鍵と暗号の踊り
さて、外の世界との通信が可能になった。だが、あんたは裸のままで大事な手紙を届けるか?
ありえない。
だからこの世界には、OpenSSLという名の凄腕の暗号士がいる。
こいつは、通信を盗み見ようとする悪意ある者たちから、あんたの手紙を守るスペシャリストだ。
この暗号士が使う魔法は、公開鍵と秘密鍵という一対の鍵だ。
まず、手紙を送る相手が、「俺はこういう手紙しか受け取らないぜ」というルール(証明書)を、公開鍵という名の「誰にでも見せられる鍵の型」と一緒にばら撒く。
あんたはそれを使って、手紙を頑丈な箱に閉じ込める。
この箱は、その公開鍵の「型」から作られた、たった一つの秘密鍵でしか開けられない。
つまり、OpenSSLは、この「公開鍵」と「秘密鍵」を駆使して、あんたの手紙を絶対に解読不可能な暗号に変換する。
これが、SSL/TLSハンドシェイクという名の、壮麗な舞踏会だ。
悪意ある者が途中で箱を奪ったとしても、その箱を開ける秘密鍵は、手紙の送り主しか持っていない。
だから、中身を盗み見られる心配はないんだ。
どうだ? ネットワークの繋がりも、セキュリティの仕組みも、こんなにドラマチックな物語として成り立っているんだぜ。
起動シーケンスで世界が生まれ、プロセス管理で社会が営まれ、そしてネットワークで外の世界と繋がり、OpenSSLという名のエージェントが、その安全を守っている。
あんたのパソコンの裏側で、こんなにも壮大で、緻密で、そしてちょっと愉快な物語が、今日も繰り広げられているんだ。